雑損失の繰越控除とは? 災害・盗難・横領の損失を翌年以降に繰り越す仕組み

災害、盗難、横領で住宅や家財などに損害を受けたとき、所得税の計算で「雑損控除」を確認する場面がある。本人だけでなく、生計を一にする一定の親族が所有する生活に通常必要な資産も、制度の入口になり得る。

ただし、これは被害額をそのまま国が補償する制度ではない。雑損控除は、税金そのものを直接差し引く税額控除ではなく、税額計算の前提となる所得から一定額を差し引く所得控除だ。

ここで重要なのが、「損害額」「雑損控除額」「雑損失」を分けて考えることになる。雑損失の繰越控除とは、その年の所得から控除しきれなかった部分を、翌年以降の所得計算に持ち越す仕組みである。

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「損害額」と「雑損失」は同じではない

災害で家財に被害が出ても、その損害額全体がそのまま雑損失になるわけではない。火災保険、損害保険、損害賠償金など、損害を補てんするために受け取る保険金等がある場合は、計算上差し引いて考える。

国税庁の説明では、雑損控除額は損害金額、災害等関連支出、保険金等、所得金額などをもとに計算する。細かな計算式は個別事情によって確認が求められるが、流れとしては次のように整理できる。

  • 損害額:災害や盗難などで受けた被害の金額
  • 雑損控除額:所得から差し引ける控除額
  • 雑損失:その年の所得から控除しきれなかった部分
  • 繰越控除:控除しきれなかった雑損失を翌年以降に持ち越す仕組み

「被害が大きいから全額を繰り越せる」と考えると、制度の理解を誤りやすい。対象資産、補てん金、支出内容、所得金額を順に確認する必要がある。

対象は生活に必要な資産、詐欺や恐喝は別扱い

雑損控除の対象になり得る資産は、住宅、家財、衣類、家具など、生活に通常必要な資産が中心になる。自宅が壊れた、家財が使えなくなった、盗難で生活に必要な物を失ったといった場面が典型例だ。

一方で、棚卸資産、事業用固定資産、生活に通常必要でない資産は、雑損控除の対象外とされるものがある。事業用資産の損失は事業所得の必要経費、投資資産の損失は譲渡所得など、別の税務処理で検討されることがある。

損害原因にも境界がある。国税庁は、雑損控除の対象となる原因として災害、盗難、横領を示す一方、詐欺や恐喝による損害は対象外としている。生活感覚ではどれも「被害」だが、税制上は同じ扱いではない。

特殊詐欺や投資詐欺の被害では、この違いが特に重要になる。盗難、横領、詐欺のどれに当たるかは個別事案の評価にも関わるため、申告前に事実関係を整理したい。

控除しきれない雑損失は原則3年、一定の災害では5年もある

雑損控除を適用しても、その年の所得から控除しきれない金額が残ることがある。この控除しきれない部分が、翌年以降に繰り越す対象となる雑損失だ。

国税庁の説明では、雑損失は原則として翌年以後3年間にわたって繰り越せる。被害が大きく、その年の所得だけでは控除しきれない場合、翌年以降の所得計算にも関係する。

さらに、東日本大震災や令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害により生じた損失額については、要件を満たす一定の場合に5年間繰り越せるとされている。特定非常災害とは、大規模災害時に行政手続きの期限延長などを行うために指定される災害で、税制上の特例にも関係することがある。

令和6年能登半島地震は、内閣府資料で激甚災害および特定非常災害に指定する政令決定が説明された事例だ。ただし、個別災害の特例をすべての災害に共通する一般制度として読むのは避けたい。通常は原則3年、特定非常災害などでは一定の場合に5年、という段階で整理するのが実務上も分かりやすい。

青色申告の純損失繰越とは混同しない

「繰越控除」と聞くと、事業所得や不動産所得の赤字を翌年以降に持ち越す純損失の繰越控除を思い浮かべる人もいる。純損失の繰越控除は青色申告の文脈で語られやすく、個人事業主向けの制度という印象を持たれやすい。

雑損失の繰越控除は、それとは別に、災害や盗難などによる生活資産の損害にも関係する制度である。会社員、年金生活者、自営業者など、所得の形が違っても、住宅や家財などに損害を受ければ確認する場面が出てくる。

もちろん、実際に適用対象になるかは、資産の所有者、損害原因、保険金等の有無、所得金額、申告年分によって変わる。制度の入口は広いが、最終的な判断は個別事情を見て行うことになる。

災害減免法とは別制度、どちらが関係するかは要件次第

災害で住宅や家財に大きな損害を受けた場合、雑損控除とは別に、災害減免法による所得税の軽減・免除が関係することがある。これは雑損控除とは別制度で、一定の場合に選択関係になる。

ここで混同したくないのは、災害にあえば自動的に一つの制度が適用されるわけではないという点だ。雑損控除は所得控除であり、災害減免法は所得税の軽減・免除に関わる制度として位置づけが異なる。どちらが関係するかは、所得、損害状況、申告年分などによって変わる。

被災後は、住まいの修繕、片付け、保険会社や自治体との手続きが同時に進む。税務手続きの確認が後回しになることもあるため、修繕費、取り壊し費用、片付け費用、保険金の通知、領収書、損害状況の写真などは、後の申告に備えて残しておきたい資料になる。

申告前に確認したいのは対象・補てん金・資料の3点

雑損失の繰越控除を考えるとき、最初に整理したいのは損害原因だ。災害、盗難、横領に当たるのか。詐欺や恐喝に当たる事案ではないか。ここを取り違えると、制度の入口から変わる。

次に、損害を受けた資産が生活に通常必要な資産かを確認する。住宅や家財と、事業用資産や投資資産では、税務上の扱いが異なることがある。

最後に、保険金等と資料の整理だ。どの損害に対して、どの保険金や損害賠償金が支払われたのか。修繕や片付けにどの支出が発生したのか。これらが、雑損控除額や繰越対象となる雑損失を考える材料になる。

雑損失の繰越控除は、災害や盗難の被害をそのまま埋め合わせる制度ではない。それでも、所得税の計算に損害を反映し、控除しきれない部分を翌年以降につなげる仕組みとして、家計再建の一部に関わる。次に確認したいのは、通常制度なのか、特定非常災害などの特例が関係するのか、そして申告年分ごとにどの資料をそろえるべきかという点になる。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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