純損失の繰越控除とは? 青色申告で赤字を翌年以降に繰り越す仕組み

個人事業、フリーランス、副業、開業初期の事業、不動産賃貸などで赤字が出たとき、その損失を翌年以降の所得から差し引けることがある。国税庁のタックスアンサーでは、青色申告者について、損益通算後も控除しきれない純損失を、原則として翌年以後3年間にわたって繰り越せる制度が示されている。

ただし、ここで最初に分けたいのは「赤字」と「純損失」だ。事業所得や不動産所得で赤字が出たとしても、その金額をそのまま翌年へ持ち越すわけではない。まず、その年の他の所得と相殺できるかを確認し、それでも残った損失が純損失として扱われる。

本稿は、国税庁タックスアンサーの「令和7年4月1日現在法令等」として確認できる資料をもとに、個人の所得税における基本的な考え方を整理する。実際の申告では、年度ごとの改正や個別事情によって扱いが変わるため、最新情報と自分の状況を確認することが前提になる。

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赤字が出ても、すぐ翌年に繰り越せるわけではない

開業初期には、売上が安定する前に広告費、仕入れ、人件費、開業関連費用などが先行することがある。不動産所得でも、大きな修繕費や減価償却費などによって赤字になる年がある。こうした赤字は、翌年以降の所得税計算に関係する場合がある。

ただし、所得税では収入をひとまとめにして利益や損失を見るのではなく、給与所得、事業所得、不動産所得、雑所得、譲渡所得、山林所得など、所得の種類ごとに計算する。赤字が出たときも、どの所得で発生した損失なのかによって扱いが変わる。

そのため、最初に確認したいのは「赤字があるか」ではなく、「その赤字は損益通算の対象か」という点だ。損益通算とは、一定の所得で出た赤字を、他の所得の黒字と相殺する仕組みをいう。

純損失は「損益通算しても残った損失」

国税庁の説明では、損益通算の対象となる所得として、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得が挙げられている。一方で、配当所得、給与所得、一時所得、雑所得の損失は、原則として他の所得と通算できない。

純損失の繰越控除を理解する流れは、次の順番になる。

  • 各所得区分ごとに所得や損失を計算する
  • その損失が損益通算の対象になるかを確認する
  • 他の所得の黒字と通算する
  • 通算しても控除しきれずに残った損失を純損失として扱う
  • 青色申告などの要件を満たす場合、翌年以後の繰越控除を検討する

この順番を飛ばすと、「赤字なら何でも3年繰り越せる」という誤解につながる。純損失の繰越控除は、赤字を出した人への一律の制度ではなく、所得税の計算過程で残った損失を、一定の要件で翌年以降に反映させる仕組みだ。

青色申告者の原則3年繰越は、申請と申告継続が前提

青色申告は、不動産所得、事業所得、山林所得がある人が、一定の帳簿を備えて記帳・申告することで、税制上の特典を受けられる制度だ。青色申告特別控除や青色事業専従者給与が知られているが、純損失の繰越控除も重要な特典の一つになる。

青色申告者については、損益通算をしても控除しきれない純損失がある場合、原則として翌年以後3年間にわたって繰越控除できる。たとえば、開業初年度に費用が先行して赤字となり、翌年以降に黒字が出た場合、要件を満たせば過去の純損失を翌年以降の所得計算に反映できることがある。

ただし、青色申告は後から自由に名乗れる制度ではない。新たに青色申告を始める場合、原則として青色申告をしようとする年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出する。新規開業の場合は、業務開始日から2か月以内という扱いもある。帳簿付けや申告の継続も前提になるため、赤字が出た年だけでなく、事業を始める段階からの準備が重要になる。

不動産所得の赤字は、原則と例外を近くで確認する

不動産所得の赤字は、原則として他の所得の黒字と通算できる。ただし、不動産所得の赤字ならすべて通算できるわけではない。

国税庁の説明では、土地等を取得するための借入金利子に相当する部分など、損益通算の対象外となるものがある。別荘のような生活に通常必要でない資産に関する扱いなど、不動産の内容によっても判断は変わる。

この点は、会社員が副業的に不動産賃貸を始めた場合にも関係する。赤字が出たからといって、給与所得と単純に相殺できるとは限らない。物件の取得方法、借入金の内訳、損失の原因を分けて確認する必要がある。

株式や雑損失の「繰越」とは同じ制度ではない

「繰越控除」という言葉は、ほかの制度でも使われる。ここで混同しやすいのが、上場株式等の譲渡損失や、災害・盗難・横領などによる雑損失だ。

上場株式等の譲渡損失にも、損益通算や繰越控除の制度がある。ただし、事業所得や不動産所得などで生じる純損失の繰越控除とは、対象となる所得や申告方法、通算できる範囲が異なる。

雑損失も、純損失とは別に整理したい制度だ。災害で資産に損害が出た場合でも、それが事業用資産に関する損失なのか、生活用資産に関する損失なのかによって、所得税上の扱いは変わる。FP試験や確定申告の学習では、まず「何の損失か」を分けることが理解の出発点になる。

特定非常災害では、一定の純損失が5年繰越になる場合も

国税庁の青色申告制度の説明では、令和5年4月1日以後に特定非常災害の指定を受けた災害による一定の純損失について、繰越期間が5年となる場合があるとされている。

特定非常災害とは、法律に基づき指定される大規模災害を指す。被災者の生活再建や事業継続に関わる特例措置が設けられることがあるが、税務上の扱いは損失の内容や申告年、被害の状況によって分かれる。

したがって、「災害なら必ず5年繰り越せる」とは考えない方がよい。一般的な理解としては、通常の青色申告者の純損失は原則3年、特定非常災害に関係する一定の純損失では5年となる場合がある、と分けて押さえるのが安全だ。

赤字の年に確認したいのは、金額より先に順番

純損失の繰越控除を、単純な節税テクニックとして紹介すると誤解を招きやすい。制度の中心にあるのは、赤字の年と黒字の年をまたいで、所得税計算上の損失をどう扱うかという考え方だ。

赤字が出た年に確認したいのは、次の順番になる。

  • どの所得区分で損失が出たのか
  • その損失は損益通算の対象になるのか
  • 他の所得と通算しても残る純損失があるのか
  • 青色申告の承認や帳簿、申告手続きの要件を満たしているのか
  • 原則3年の繰越か、災害特例など別の論点があるのか

副業、開業、不動産賃貸を始めたばかりの人にとって、赤字の年の申告は翌年以降の所得計算にもつながる。個別の適用は、所得の種類、帳簿の状況、申告期限、損失の原因によって変わるため、実際に申告へ進む段階では税務署や税理士などに確認したい。

赤字を翌年へ持ち越せるかどうかは、赤字の大きさだけでは決まらない。所得区分、損益通算、純損失、青色申告という順番を押さえることで、制度のどこを確認すればよいかが見えやすくなる。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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