年末調整や確定申告で目にする「控除」は、同じ言葉でも税金への効き方が同じとは限らない。2026年6月14日時点で所得税の仕組みを確認するうえで、まず分けたいのが「所得控除」と「税額控除」だ。
所得控除は、税率をかける前の金額を減らす。税額控除は、税率をかけて計算した後の所得税額から差し引く。給与所得者が年末調整で控除名に迷う場面、確定申告をする場面、住宅ローンや配当、外国株に関係する税制を読む場面では、この違いを押さえておくと制度の位置づけを誤解しにくい。
ただし、税額控除は「所得税額から差し引く」仕組みであっても、必ず全額使えるとは限らない。対象者、限度額、手続き、控除しきれない部分の扱いは制度ごとに異なる。この記事では、個別制度の有利不利ではなく、所得税計算の中で税額控除がどこに出てくるのかを整理する。
「控除」でも、課税所得を減らすものと税額から引くものがある
国税庁の整理では、税額控除は、課税所得金額に税率をかけて算出した所得税額から一定金額を控除する仕組みとされている。つまり、所得税額を計算した後の段階で出てくる控除だ。
一方、所得控除は、各種所得の金額の合計額から差し引く制度を指す。基礎控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除などが代表例で、税金そのものではなく、税率をかける土台になる課税所得金額を小さくする。
この差は、言葉以上に大きい。「10万円の控除」と聞いても、それが所得控除なのか税額控除なのかで意味が変わる。所得控除10万円なら課税所得金額が10万円減るという意味で、実際に減る所得税額は適用される税率などによって変わる。税額控除10万円なら、所得税額が十分にある場合、その税額から10万円を差し引く考え方になる。
所得税の計算では、所得控除が先、税額控除が後に出てくる
所得税は、収入にそのまま税率をかけて決まるわけではない。大まかな流れは、次のように段階を分けて考えると分かりやすい。
- 収入から必要経費や給与所得控除などを差し引き、所得金額を出す
- 所得金額から所得控除を差し引き、課税所得金額を計算する
- 課税所得金額に税率をかけ、所得税額を計算する
- 所得税額から税額控除などを差し引く
- その後、復興特別所得税、源泉徴収税額、予定納税額などを踏まえて納税額や還付額を整理する
所得控除と税額控除の違いは、この流れの中で「どこから差し引くか」にある。所得控除は税率をかける前、税額控除は税率をかけた後に登場する。
そのため、控除額だけを見て単純に比べると誤解しやすい。控除名を見るときは、まず「課税所得を減らす制度なのか」「計算後の所得税額から差し引く制度なのか」を確認したい。
配当、住宅ローン、外国所得で出てくる代表的な税額控除
国税庁の「No.1200 税額控除」では、主な税額控除として、配当控除、住宅借入金等特別控除、外国税額控除などが挙げられている。いずれも所得税額から差し引く点では共通しているが、関係する生活場面はそれぞれ違う。
配当控除は、配当所得に関係する税額控除だ。ただし、配当金を受け取れば常に使える制度ではない。課税方式の選択や配当の種類によって扱いが変わるため、配当控除を考えるときは、個別の要件を確認する必要がある。
住宅借入金等特別控除は、一般に住宅ローン控除と呼ばれる。住宅ローンを使って住宅を取得した人などが対象になり得る制度だが、適用には居住開始時期、住宅の種類、所得、床面積、借入期間など複数の要件がある。住宅購入後の所得税や、制度によっては住民税にも関係する場合があるため、家計の税負担を考えるうえで目にしやすい税額控除といえる。
外国税額控除は、外国と日本で同じ所得に課税される場合の二重課税を一定範囲で調整する制度だ。海外勤務、外国株、外国ETF、海外不動産などに関係する場面がある。ただし、外国で払った税金がすべて戻る制度ではない。控除できる範囲や手続きは、制度の条件に沿って確認することになる。
税額控除でも全額使えるとは限らない理由
税額控除は、所得税額から差し引くため、所得控除より効果をイメージしやすい面がある。とはいえ、税額控除という名前だけで、必ず大きく税負担が減ると考えるのは早い。
第一に、控除できる税額には限りがある。所得税額が少ない場合、税額控除の額を全額使い切れないことがある。控除しきれない部分がどう扱われるかは、住宅ローン控除、外国税額控除など制度ごとに異なる。
第二に、対象外になるケースがある。配当控除は、配当の種類や課税方式によって扱いが変わる。住宅ローン控除も、住宅の条件や取得時期などに応じて確認事項が多い。外国税額控除も、二重課税を無制限に解消する制度ではなく、一定の範囲で調整する仕組みだ。
第三に、手続きが関係する。税額控除の種類によっては、確定申告や書類の添付が必要になる。給与所得者でも、住宅ローン控除の初年度などでは確定申告が関係する場合がある。
NISA、源泉徴収、配当控除は別の仕組みとして見る
投資に関係する税制では、似た言葉が同じ文脈で並びやすい。配当控除、外国税額控除、NISA、源泉徴収、申告方法の選択などが一緒に出てくるため、制度の役割を分けて見ることが大切だ。
NISAは、一定の投資収益を非課税にする制度であり、税額控除のように計算後の所得税額から差し引く制度ではない。日本証券業協会の資料では、NISA口座の上場株式等の配当金等について、非課税の扱いを受けるためには受取方式が関係すると説明されている。これは、配当控除とは別の注意点だ。
外国株や海外ETFでは、外国で源泉徴収された税金に加え、日本側でも課税関係を整理する場面がある。このとき外国税額控除や、ETF、REIT、JDRなど一部の上場商品に関する二重課税調整が話題になることがある。ただし、個人が確定申告で使う外国税額控除と、上場商品の仕組みとして説明される二重課税調整は、同じものとして扱えない。
個別の有利不利を判断する前に、非課税にする制度なのか、所得税額から控除する制度なのか、二重課税を調整する制度なのかを分けておきたい。ここを混同すると、非課税、控除、還付、調整を同じ意味で受け取ってしまう。
税額控除を理解するには、制度名よりも計算順序を見る
税額控除を理解する近道は、制度名を暗記することではない。所得税計算のどの段階で差し引かれるのかを確認することだ。
所得控除は課税所得金額を減らす。税額控除は、計算後の所得税額から差し引く。この順序を押さえると、配当控除、住宅ローン控除、外国税額控除がなぜ同じ「税額控除」として整理されるのかが見えやすくなる。
一方で、実際の納税額や還付額は、税額控除だけで決まるわけではない。復興特別所得税、源泉徴収税額、予定納税額なども関係し、税制改正によって要件や計算方法が変わることもある。
制度を確認するときのポイントは、控除名だけではなく、対象となる所得、差し引く段階、限度額、申告手続き、控除しきれない場合の扱いに分けて見ることだ。住宅、配当、外国所得のいずれでも、この順番で確認すれば、「控除」という言葉に引っ張られず、制度の役割を読み取りやすくなる。
出典・参考
主な参照資料
- 国税庁「No.1200 税額控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1200.htm
- 国税庁「No.1000 所得税のしくみ」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1000.htm
- 国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1100.htm
- 日本証券業協会「NISA口座における上場株式の配当金等受取方式に関する注意事項」 https://www.jsda.or.jp/shijyo/seido/tax/nisahaitoukin.html
- 日本取引所グループ「証券税制・二重課税調整(外国税額控除)について」 https://www.jpx.co.jp/equities/related/tax/index.html

