ウクライナ和平協議が再開できない本当の理由——イラン危機が「交渉」「兵器」「原油制裁」を同時に揺らしている

3月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカでの協議に代表団を送った。ウクライナ和平に向けた動きとして報じられているが、実態はロシアが出席しない2国間の「準備会合」だ。和平交渉そのものは、イラン情勢の影響で中断したままになっている。なぜ中東の戦争がウクライナの停戦交渉を止めているのか。そして今、ウクライナは単に「支援を待つ国」というだけでなく、「安全保障を提供する側」としても振る舞おうとしているように見える——この二つの問いを軸に、今回の会談の本質を読み解く。


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3月21日の会談は「和平決定の場」ではない

まずニュースを正確に理解しておきたい。

ゼレンスキー大統領によれば、3月21日の会談は「ウクライナとアメリカの2国間協議」であり、ロシアは参加しない。本来、ウクライナ和平には「ウクライナ・アメリカ・ロシア」の3か国が関わる高官協議が想定されており、今年に入って3回開催されてきた。しかしイラン情勢の緊迫化で、アメリカ側の優先順位がシフトし、3月上旬に予定されていた次の3者協議は延期になった。

今回の会談は、その中断した3者協議を「いつ、どう再開するか」の準備をするための場という性格を持つ。言い換えれば、「交渉が前進した」ニュースではなく、「交渉を再開できる最低限の接続がまだ維持されている」ことを示す動きだ。

AP通信によれば、アメリカが次の3者協議の開催地として米国開催を提案したが、ロシアはこれに応じなかったという。ただし同じAPは、クレムリン高官が新たな協議は近く行われる可能性が高いとも述べたと伝えており、少なくとも米国開催という形式をめぐる溝が埋まっていない状況だ。


ウクライナが「ロシア抜きの会談」を重視する理由

ロシアが参加しないなら、今回の会談にどんな意味があるのか——その答えは、ウクライナ側が最も恐れているシナリオを知ると見えてくる。

ウクライナの最大の懸念は、「自分たちの頭越しに、アメリカとロシアがウクライナの領土や安全保障の条件を話し合ってしまうこと」だ。歴史的にも、大国同士が当事者を抜きにして問題を決着させた例は少なくなく、ゼレンスキー大統領はそのリスクに神経をとがらせている。

だから先にアメリカとの立場をそろえておくことは、単なる外交的手続きではない。ロシアとの本交渉に入ったとき、「ウクライナ抜きの妥結」を防ぐための前段として機能する。今回の2国間協議は、その意味で戦略的に重要な場でもある。


イラン危機がウクライナに与える「二重の打撃」

なぜ中東の問題が、ウクライナの和平交渉を止めているのか。

理由は二つある。一つは外交資源の奪い合いだ。アメリカには外交官も軍も、使える資源に限りがある。中東で緊急事態が長期化すると、ウクライナへの優先度は自然に下がりやすい。3月の3者協議が延期になったのは、「アメリカ側がイラン対応で手一杯になった」という理由が大きい。

もう一つはエネルギー価格と制裁の問題だ。ホルムズ海峡をめぐる航行混乱や供給不安によって国際原油価格が上昇すると、ロシアの石油収入も増える。ロシアは石油・ガス収入への依存度が非常に高く、それが戦争継続の経済的な柱になっている。つまり中東危機による原油価格の上昇は、意図せず「ロシアへの間接的な資金援助」になりうる——これがゼレンスキー大統領が「ウクライナにとってのリスクだ」と繰り返している理由だ。

APは、中東戦争によってウクライナ和平協議が止まるだけでなく、防空資産が中東に振り向けられるリスクも高まっていると報じた。防空ミサイルや迎撃システムは有限であり、中東で大量に使われれば、ウクライナへの供給も細りかねない。交渉の後回しと軍事支援の圧迫が同時に起きる——ウクライナにとっての「二重の打撃」だ。


原油制裁の緩和を「リスク」と呼ぶ理由

今回の会談でゼレンスキー大統領が特に訴えようとしているのが、アメリカによる「制裁の一時緩和」問題だ。

3月初旬、アメリカ財務省はすでに海上にあるロシア産石油について、インド向け販売を30日間認める一時措置を出した。その後3月20日には、イラン産原油の海上積み荷についても同様の一時措置が報じられた。

アメリカの論理は「市場の供給安定のための短期措置」だが、ウクライナから見ると、「市場安定のためならロシア産原油も一時的に許容される」という空気が広がること自体が危険なシグナルだ。ゼレンスキー大統領は「これはすべてわれわれにとってのリスクになる」と述べた。ロシアのエネルギー収入を絞ることは、軍事支援と並んでウクライナの戦略の柱である。その柱が、中東情勢を理由に少しずつ崩されていくことを警戒している。

EU内でもハンガリーのオルバン首相が、ロシア産原油の通過問題を背景に、対ロ制裁の新パッケージと900億ユーロ規模のウクライナ向け融資の実行を事実上の交渉カードにしていると報じられており、制裁・エネルギーをめぐる国際社会の足並みの乱れはウクライナにとって深刻な問題になっている。


「支援を受ける国」から「安全保障を提供する側」へ

一方でウクライナはこの状況に受け身でいるわけではない。今回の会談でゼレンスキー大統領が打ち出そうとしているのが、ドローン(無人機)の迎撃技術の提供だ。

ウクライナはロシアとの戦争の中で、「シャヘド」と呼ばれるイラン製の無人機による攻撃に長期間さらされてきた。その迎撃作戦を実戦の中で積み上げ、今や世界でも屈指のドローン戦のノウハウを持つとされる。そのウクライナが、まったく同じ種類の脅威——イラン製無人機による攻撃——に直面している中東の国々に、そのノウハウを提供しようとしている。

AP通信によれば、ウクライナはすでに中東・湾岸の5か国に無人機迎撃のノウハウを提供しており、The Guardianはヨルダンの米軍基地防衛のためにウクライナが迎撃ドローンと要員を派遣したと伝えた。

ウクライナは今、「支援をお願いするだけの国」でなく、「実戦経験に基づいた安全保障を提供できる側」としても振る舞おうとしているように見える。それはアメリカとの交渉における発言力を高めるためでもあり、国際社会でのウクライナの「戦略的な価値」を示すためでもある。


まとめ——中東の戦争とウクライナの戦争は「つながっている」

3月21日の米ウクライナ会談は、「和平が近づいた」というニュースではない。それは、複数の問題が絡み合いながら進む長期戦の中で、外交の接続をかろうじて維持しようとする動きだ。

この問題を理解する鍵は、「ウクライナ戦争」と「イラン危機」を別々の出来事として見ないことだ。外交日程、防空兵器の在庫、原油価格、ロシアへの制裁、EU内の足並みが一本につながっている。中東で起きていることは、エネルギーや外交チャンネルを通じて、ウクライナの戦場にも届いている。

今後の注目点は、3者協議の再開時期と、制裁の緩和が続くかどうかだ。そしてウクライナが対ドローン技術の提供という新しい役割をどう活かすかは、和平交渉のテーブルでの立場にも影響しうる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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