関電でも法廷内を無断録音 電力会社で相次ぐ「裁判ルール軽視」の重さ

裁判の場で交わされたやりとりを、会社の社員が裁判長らの許可なく録音していた。しかも、関西電力(9503)だけの話ではない。中部電力(9502)、九州電力(9508)でも同じような問題が相次いで明らかになっており、電力会社の訴訟対応の現場で、裁判所のルールがどこまで徹底されていたのかが問われている。

関西電力は、同社が関係する複数の民事裁判などで、複数の社員が法廷内のやりとりを無断で録音していたと発表した。録音は遅くとも2014年ごろから行われていたとされ、社員は不適切な行為だと認識しながら、「正確な社内報告書を作るために録音した」と説明しているという。

一見すると、裁判内容を正確に社内で共有するための実務上の工夫にも見える。だが、問題はそこにある。裁判所の許可が必要だと知りながら、手続きを踏まずに録音していた可能性があるからだ。

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何が起きたのか

関西電力の発表では、会社が関係する複数の裁判で、訴訟を担当する複数の社員が、法廷内のやりとりを録音していた。法廷内での録音は、民事訴訟規則で裁判長らの許可が必要とされている。許可を得ない録音は、規則に反する不適切な行為に当たるおそれがある。

録音は遅くとも2014年ごろから行われていた。関西電力は、2026年3月には録音を取りやめたとしている。一方で、どの裁判で録音していたのかについては、録音した社員の特定につながるおそれがあるとして明らかにしていない。

同社は、法令に抵触する不適切な行為として重く受け止めているとして謝罪し、再発防止に取り組む考えを示している。ここで重要なのは、録音の目的が社内報告だったとしても、裁判所の手続を飛ばしてよい理由にはならないという点だ。

なぜ「社内報告のため」でも問題になるのか

企業が裁判に関わる場合、担当社員が法廷でのやりとりを社内に報告する必要はある。発言の趣旨を取り違えれば、会社の判断にも影響する。だから、正確に記録したいという動機そのものは理解しやすい。

ただし、法廷は会社の会議室ではない。裁判官、当事者、証人、代理人などが発言する場であり、手続の秩序や関係者の権利を守るためのルールがある。民事訴訟規則第77条は、法廷での写真撮影、速記、録音、録画、放送について、裁判長の許可を得なければならないと定めている。

つまり、問われているのは「録音データを悪用したのか」だけではない。「裁判所の許可が必要だと知っていたのに、許可を取らずに録音していたのか」という手続への姿勢である。正確な社内報告という目的があっても、手続を軽く扱えば、裁判の場そのものへの信頼を損なうおそれがある。

なぜ電力会社で相次いでいるのか

今回の問題は、関西電力だけで完結しない。中部電力は2026年5月8日、同社が関係する一部の民事訴訟で、裁判官の許可を得ずに法廷でのやりとりを録音していたと公表した。遅くとも2004年1月ごろ以降、社内報告書の作成を目的に録音していたという。

九州電力も5月18日、同社が関係する一部の訴訟で、裁判所の許可を得ない録音を行っていたと発表した。録音は遅くとも2013年ごろから行われていたとされる。関西電力の事案も、中部電力の公表を受けた社内調査で判明した流れだ。

現時点で、電力業界全体に共通する組織的な指示があったとまでは確認されていない。だが、複数の大手電力会社で、長期間にわたり似たような行為が続いていた点は軽く見られない。少なくとも、法務や訴訟対応の現場で「正確な社内報告」を優先するあまり、裁判所のルールに対する感度が弱くなっていた可能性はある。

「裁判は公開」なら録音してもよいのか

裁判は原則として公開される。だからといって、誰でも自由に録音や録画ができるわけではない。

公開とは、一定の範囲で傍聴できるという意味であり、発言を録音して社内外で利用できるという意味ではない。法廷では、証人や当事者が慎重に言葉を選びながら発言する。録音が自由に行われれば、発言者が萎縮したり、発言の一部だけが切り取られて広がったりするおそれがある。

そのため、録音や録画には裁判長の許可が必要とされている。これは裁判を閉ざすためのルールではなく、裁判の透明性と手続の秩序を両立させるためのルールだ。一般の傍聴人だけでなく、企業の担当者にも同じルールがかかる。

公共インフラ企業に問われるもの

電力会社は、生活や産業を支える公共性の高いインフラ企業である。だからこそ、発電や送配電の安定だけでなく、社会的な信頼も事業の基盤になる。

今回の無断録音は、電気の供給そのものに直接影響する問題ではない。だが、公共性の高い企業が裁判所の手続をどう扱っていたのかという点では、企業統治やコンプライアンスの観点からも見過ごしにくい。

社内報告を正確にしたいなら、裁判所に許可を求める、公式記録やメモの取り方を見直す、訴訟担当者への教育を徹底するなど、取るべき手段はほかにもある。ルールを知りながら例外扱いする現場慣行があったとすれば、それは一人の担当者だけの問題ではなく、組織の管理の問題にもつながる。

次に見るべき点はどこか

今後の焦点は、各社がどこまで実態を調べ、再発防止策を具体化できるかにある。録音をやめた、注意喚起をした、という説明で十分かどうかも問われる。誰が、いつから、どのような認識で録音していたのか。上司や法務部門はどこまで把握していたのか。裁判所の許可を得る手続をなぜ取らなかったのか。こうした点が曖昧なままだと、同じ問題が形を変えて残る可能性がある。

注意したいのは、この問題を「盗聴」といった強い言葉だけで片づけないことだ。報じられている中心は、法廷内での無断録音であり、秘密の会話を盗み聞きしたという意味合いとは異なる。だからこそ、感情的な言葉よりも、裁判所のルールに反するおそれがある行為として、何が問題だったのかを正確に見る必要がある。

関西電力、中部電力、九州電力で相次いだ無断録音問題は、裁判の記録をどう残すかという実務上の話に見える。だが、その奥にあるのは、組織が「正確さ」を理由に手続を軽く見ていなかったかという問いである。信頼は、結果だけでなく、手続を守る姿勢によっても支えられている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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