北海道新幹線札幌延伸に新たな逆風 談合疑いが問う公共工事の公正性

北海道新幹線の札幌延伸工事で、すでに入札が終わった5つの工区をめぐり、談合の疑いが浮上した。落札価格はおよそ26億円から43億円、落札率は低い工区で94%、高い工区では99%を超えたケースもあったとされる。

札幌延伸は、すでに開業時期の大幅な遅れと事業費の増加が問題になっている。そこに入札の公正性をめぐる疑いが重なったことで、個別企業の問題にとどまらず、巨大公共事業をどう進めるのかという論点が改めて問われている。

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何が起きたのか

公正取引委員会は2026年5月19日、北海道新幹線の新函館北斗駅から札幌駅までの延伸工事をめぐり、独占禁止法違反の疑いで鉄道関連の建設会社9社と、発注元の独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に立ち入り検査を行った。

疑われているのは、線路の敷設工事の入札で、落札する会社を事前に調整していた可能性だ。関係者によると、落札しない会社が高い金額で入札したり、途中で辞退したりしていたとみられている。

立ち入り検査を受けた企業には、大鉄工業、三軌建設、ユニオン建設、名工建設、広成建設、北海道軌道施設工業、仙建工業、九鉄工業、東鉄工業が含まれる。名工建設は名証メイン市場に上場する企業で証券コードは1869、東鉄工業は東証プライム市場に上場する企業で証券コードは1835だ。

名工建設、大鉄工業、鉄道・運輸機構はいずれも、調査を受けていることを認め、調査に協力する趣旨のコメントを出している。現時点では、違反が確定したわけではなく、公取委が入札の経緯を調べている段階である。

なぜ「5工区」が焦点になっているのか

北海道新幹線の新函館北斗駅から札幌駅までの延伸区間は、およそ212キロに及ぶ。このうち軌道の敷設工事は10の工区に分けて入札が行われる。

すでに入札が終わっているのは、渡島南、渡島北、長万部、ニセコ、倶知安の5工区だ。今回、談合が行われた疑いがあるとされているのは、この入札済みの5工区である。

入札では、価格だけでなく技術力や実績なども含めて評価する「総合評価方式」が採用された。高度な鉄道工事では、安さだけで業者を選べばよいわけではない。安全性や施工能力を含めて判断する必要があるからだ。

ただし、だからこそ競争の透明性は重要になる。専門性の高い工事では、参加できる会社が限られやすい。限られた顔ぶれの中で入札が繰り返されると、本当に競争が働いていたのかという疑問が生じやすくなる。

落札率の高さだけで談合といえるのか

落札率が高いことだけで、ただちに談合があったとはいえない。専門性が高く、必要な技術や人員が限られる工事では、予定価格に近い水準で落札されることもあり得る。

それでも今回、公取委が立ち入り検査に入った意味は小さくない。5工区の落札率は94%から99%超とされ、複数の工区で高い水準が続いていた。さらに、落札しない会社が高値で入札したり辞退したりしていた可能性も指摘されている。

談合とは、本来なら競争で決まるはずの入札で、参加企業が事前に受注会社や価格を調整する行為を指す。公共工事で談合があれば、工事価格が高止まりし、税金の負担が膨らむおそれがある。

今回の立ち入り検査は、違反の有無を判断する前の調査段階だ。しかし、疑いが出ただけでも、公共工事としての信頼には影響する。とくに北海道新幹線の札幌延伸は、国や自治体の負担を伴う大規模事業であり、入札の公正性は事業への信頼に関わる。

札幌延伸はもともと厳しい局面にあった

今回の問題が大きく見えるのは、北海道新幹線の札幌延伸がすでに難しい状況に置かれていたからだ。

北海道新幹線は、新青森駅から札幌駅までを結ぶ計画で、このうち新青森駅から新函館北斗駅までの区間は2016年3月に開業した。現在進められているのは、新函館北斗駅から札幌駅までの区間で、完成すれば東京駅から札幌駅までが5時間足らずで結ばれると期待されている。

一方で、札幌延伸の開業時期は当初の2030年度末から大きく遅れ、現在は2038年度末以降になる見込みだ。トンネル工事の難航に加え、資材価格や人件費の上昇も重なっている。

事業費についても厳しい見方が示されている。資材価格の高騰などにより、事業費が最大で1兆2000億円増えるとの見通しがあり、財務省は2026年4月、費用対効果の面で国土交通省の基準では基本的に中止を検討する水準にあたるとの試算を示した。

もちろん、費用対効果だけで地域の将来を単純に測ることはできない。北海道側には、交通アクセスの改善や観光、地域経済への期待がある。北海道の鈴木直道知事も、札幌延伸は道民の悲願であり、影響を与えないよう整理する必要があるとの考えを示している。

だからこそ、入札の透明性をめぐる疑いが出れば、説明責任は重くなる。延伸の必要性を訴えるほど、事業を進める手続きの公正さも同時に求められるからだ。

なぜ鉄道工事は閉鎖的になりやすいのか

新幹線の線路敷設は、一般的な道路工事や建築工事とは性格が異なる。安全性、精度、規格、施工管理の面で高度な専門性が求められ、経験のある会社は限られやすい。

青森大学の櫛引素夫教授は、新幹線工事ではトンネルや線路敷設など分野ごとに専門性が高く、特定の事業者による閉鎖的な環境になりやすい要素があったのではないかと指摘している。近年の資材高騰や人手不足が、業者の利益を圧迫している可能性にも触れている。

この指摘は、談合を正当化するものではない。むしろ、専門性が高いからこそ、制度設計や監視の仕組みをより丁寧に整える必要があるということだ。

競争参加者が限られる分野では、単に「入札をしたから公正だ」とは言い切れない。どの会社が、どのような条件で、どのように評価されたのか。発注者側の関与はなかったのか。こうした点を確認できる仕組みがなければ、公共事業への信頼は保ちにくい。

過去の教訓は生かされていたのか

新幹線関連工事をめぐる談合は、今回が初めて注目されるわけではない。公正取引委員会は2015年、北陸新幹線の関連工事をめぐり、入札参加業者に排除措置命令や課徴金納付命令を出したことがある。

今回も、発注元は同じ鉄道・運輸機構である。公取委は、これから入札が行われる八雲、静狩、後志、小樽、札幌の5工区についても、事前調整が行われていなかったか確認を進めるとしている。発注元の関わりがなかったかも調べる方針だ。

過去の事例を踏まえると、再発防止策や発注管理の実効性も重要な確認点になる。巨大インフラを支える発注制度そのものが、専門性と競争性をどう両立させるのかという課題に直面している。

読者の生活とどこでつながるのか

北海道新幹線の札幌延伸は、北海道の人だけに関係する話ではない。国の公共事業である以上、費用の一部は広く国民負担と結びつく。入札の公正性が損なわれれば、税金が本来より高い工事費に使われる可能性がある。

一方で、インフラ整備には地域の将来を左右する面もある。交通アクセスが改善すれば、観光やビジネス、人の移動に大きな効果をもたらす可能性がある。札幌延伸を望む地元の期待は、その意味で軽く扱えない。

問題は、期待が大きい事業ほど、手続きへの疑念を放置できないことだ。地域に必要なインフラであるならなおさら、費用、入札、工程、効果を見える形で説明し続ける必要がある。

次に問われるのは「進めるかどうか」だけではない

今回の立ち入り検査で、談合の有無はこれから調べられる。現時点で違反が確定したわけではなく、企業や発注元の関与についても公取委の調査を待つ必要がある。

ただ、すでに明らかなのは、北海道新幹線の札幌延伸が、工期、費用、入札の透明性という複数の課題を同時に抱えていることだ。延伸を進めるべきか、見直すべきかという単純な二択だけでは、問題の全体像は見えにくい。

問われるのは、公正な競争を保ちながら、高度な専門工事を担える企業をどう確保するかである。費用の増加をどう抑え、地元の期待と国民負担のバランスをどう説明するかも避けて通れない。

北海道新幹線の札幌延伸は、地域の期待を背負う事業であると同時に、税金で支えられる公共事業でもある。期待を実現するためにも、入札の透明性と費用管理をあいまいにできない。今回の疑いは、その当たり前の条件を改めて突きつけている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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