トランプ大統領は3月20日、SNSに「イランへの大規模な軍事作戦を段階的に縮小することを検討している」と投稿した。戦争が終わりに近づいているようにも読める発信だ。しかし同日、米軍は海兵隊員ら数千人規模の中東への追加展開を進めており、国防総省は追加予算の要求も続けている。「縮小」と「増派」が矛盾するように同時進行するこの構図の中、ホルムズ海峡の封鎖措置という現実がエネルギー価格を押し上げ、日本にも「応分の関与」を求める声がトランプ大統領から直接上がっている。
「縮小検討」と「停戦したくない」——同日に出た二つの発言
今回の論点は、ここに集約される。
トランプ大統領は3月20日のSNSに「目標の達成に極めて近づいている。大規模な軍事作戦を段階的に縮小することを検討している」と投稿した。しかし同じ日、ホワイトハウスで記者団の質問に対しては「われわれは停戦したくない。文字どおり相手を壊滅させているときにそんなことはしない」と述べている。
「縮小を検討」と「停戦したくない」——この二つは、同じ大統領が同日に発した言葉だ。AP通信は「トランプ政権は地域への増派を進めたり、議会に追加予算を要請したりしていて、矛盾があるように見える」と指摘している。
また、トランプ大統領は前日19日の日米首脳会談では「どこにも部隊を派遣するつもりはない」と述べていたが、その翌日にはロイター通信が海兵隊員約2,500人を含む数千人規模の追加展開を報じた。発言の一貫性についても疑問符がついている状況だ。
何をもって「目標達成が近い」と言っているのか
トランプ大統領の言う「目標」とは何か。ヘグセス国防長官は当初、イランのミサイル発射能力・国防産業・海軍力の弱体化と、核兵器保有の阻止を挙げていた。
トランプ大統領は20日のホワイトハウスでのイベントで「イランの海軍はなくなった。空軍もなくなった。対空兵器もすべてなくなった」と軍事的成果を主張した。また「指導者たちも全員消えた。今や指導者になりたいと思う者は誰もいない。彼らと話したいのに話す相手がいない」とも述べ、イラン側の指導部が弱体化したという見方を示している。
ただし、これらはあくまでトランプ大統領側の主張であり、独立した機関による確認が十分ではない点には留意が必要だ。一方イランでは、新しい最高指導者モジタバ・ハメネイ師の名義で声明が出され、「国民が徹底抗戦をしている」と結束を呼びかけている。アラグチ外相もSNSで「インフラが攻撃されれば一切の自制はしない」とイスラエル側をけん制した。事態が収束する見通しは立っていない。
ホルムズ海峡とは何か、なぜ今これほど重要なのか
今回の危機で欠かせないのがホルムズ海峡の問題だ。ホルムズ海峡とは、ペルシャ湾と外海(オマーン湾)をつなぐ細長い水路で、幅の最も狭い部分は約50キロメートルほどしかない。世界の石油輸送の約2割を担う要衝であり、現在はイランの封鎖措置により航行が深刻に妨げられている。
海峡が使えなくなると、原油や天然ガスを積んだタンカーが通れなくなる。その結果、国際原油価格が跳ね上がり、ガソリン・電気料金・輸送コストを通じて、世界中の家庭の生活費にも影響が及ぶ。さらに現在、湾内では外国の商業船員が取り残されているとも伝えられており、国際海事機関(IMO)でも約2万人の船員への対応が議題になっている。
「日本は95%がこの海峡を通っている」——トランプ大統領が求めた関与
この状況でトランプ大統領が名指ししたのが日本だ。
大統領は記者団に「アメリカはこの海峡を利用していない。韓国、日本、中国、そのほかの多くの人々に必要だ。だから彼らは少しは関与する必要がある」と述べ、海峡の安全確保への日本など各国の関与を求めた。「日本はエネルギーの95%がこの海峡を経由している」とも話している。
ここで整理しておきたいのは、この「95%」が指す内容だ。日本の総エネルギーの95%という意味ではなく、日本が輸入する原油のうち約95%を中東に依存しており、その多くがホルムズ海峡を経由するという意味だ。それだけこの海峡の安定が、日本のエネルギー供給の根幹に関わっている。
日米首脳会談でこの問題が話し合われたことを受け、FOXニュースはトランプ大統領が「彼ら(日本)は憲法上の制限があるが、もし必要ならNATOよりも動いてくれるだろう」と述べたと伝えた。ただし、日本が実際に何をどこまでできるかは、法的・政治的な制約もあり、「期待」と「実際の行動」には距離がある。
原油高騰への緊急対応——制裁を一時的に緩める異例の措置
ホルムズ海峡の封鎖措置による原油価格高騰を受け、米財務省は3月20日、制裁対象のイラン産原油・石油製品について、海上輸送中のものに限り、4月19日まで一時的に各国への取り引きを認めると発表した。ベッセント財務長官は「世界の原油市場に約1億4,000万バレルが供給され、一時的な供給ひっ迫を緩和できる」と述べた。同措置ではイランが収益を得にくい条件もあわせて示され、「最大限の圧力は維持する」としている。
ニューヨーク・タイムズは、この措置を「国内のガソリン価格上昇が中間選挙を控えるトランプ大統領と共和党にとって政治的な問題になっているため、国内世論を意識した対応だ」と分析している。
なお、トランプ政権は今月12日にもロシア産原油について同様の一時的な制裁解除を行っており、「最大限の圧力」を掲げながら価格抑制のための例外措置を続けているという構造が続いている。
各国の対応——「非難するが軍事参加はしない」という欧州の姿勢
国際社会でも動きが出ている。日本とイギリス・フランス・ドイツなどヨーロッパ5か国が共同声明を発表し、「イランによるホルムズ海峡の封鎖措置や周辺国への攻撃を最も強い言葉で非難する」と表明した。その後カナダ・韓国・ニュージーランド・バーレーンなどが加わり、3月20日時点で計20か国の声明となっている。
一方、イギリス首相官邸は、米軍がイギリス軍の基地を使用できる条件を拡大したと発表した。ただしその声明では「国際法に従って行動し、より広範な戦争に関わることはない」と明記しており、戦闘行為への直接参加は否定している。
トランプ大統領はNATOに対してもSNSで「アメリカがいなければNATOは張り子の虎だ」「イランをとめる戦いに加わろうとしなかった。ホルムズ海峡の安全確保を助けようともしない。臆病者たちよ、われわれはこのことを忘れない」と不満を示している。欧州は非難には加わっても軍事行動には加わらないという立場が、米国との温度差を生んでいる。
IAEAが警告——「戦争では核問題を根本解決できない」
見落とせないのが、軍事面とは別に残る核問題だ。
IAEAのグロッシ事務局長はCBSテレビのインタビューで「今回の軍事作戦が終了したとしても、いくつか重大な問題が残るだろう。最も重要なのは濃縮度60%の濃縮ウランの存在だ」と述べた。
IAEA(国際原子力機関)とは、核エネルギーの平和的利用を促進すると同時に、核兵器への転用を防ぐことを目的とした国連の機関だ。グロッシ事務局長は「イランは現在も最高度の遠心分離機を保有し、製造方法も知っている。一度獲得した技術知識は、軍事攻撃では消せない」との見方を示し、「持続的な解決のためには、それぞれが再び交渉の席につく必要がある」と外交的解決の必要性を訴えた。
仮に軍事的に施設を破壊しても、知識と技術が残る限りイランは将来的に再び核兵器開発能力を持ちうる——というのがIAEAの懸念だ。「戦争に勝てば核問題も終わる」という単純な図式にはならない可能性がある。
まとめ——「縮小発信」を戦争終結のシグナルと読んでいいのか
トランプ大統領の「縮小を検討」という発信を、そのまま「戦争が終わりに近づいている」というシグナルとして受け取るのは危険かもしれない。実際には同日「停戦したくない」とも述べており、米軍の増派は継続中だ。ホルムズ海峡の封鎖措置は解かれておらず、イラン側も徹底抗戦の姿勢を崩していない。
この状況は、「軍事・エネルギー・外交・核」という四つの問題が複合した危機として見る必要がある。ホルムズ海峡が安定しなければ、原油価格の高止まりを通じて、日本を含む各国の家計や産業は影響を受け続ける。「遠い中東の戦争」ではなく、エネルギーと経済を通じて自分たちの生活に直結する問題として、今後の展開を注視していく必要がある。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

