「中国から日本へのレアアース磁石輸出が9%増えた」というニュースを聞いて、安心した人がいるかもしれない。ただ、数量の回復をそのまま安心材料とみるのは早計だ。数量が回復したことよりも、その背景で進む輸出許可制の強化や対象企業の拡大の方が、日本の産業にとってはるかに深刻なリスクをはらんでいる。
レアアースの磁石が、現代の産業を支えている
まず「レアアース」とは何かを押さえておきたい。希土類元素と呼ばれる17種類の金属の総称で、実際に地球上に極端に少ないわけではない。ただ、採掘後の精製が難しく、環境負荷も大きいため、生産が特定の国に集中しやすい資源だ。
なかでも日本にとって重要なのが、レアアースを使って作られる「高性能磁石」だ。代表格がネオジム磁石で、小さくても強力な磁力を持ち、高温環境でも性能が落ちにくい。EV(電気自動車)のモーター、産業用ロボット、風力発電機、家電製品、電子部品——これらに幅広く使われている。
中国がこの分野で圧倒的な強さを持つのは、鉱石を掘るだけでなく、精製から磁石製造まで一貫した供給体制を持っているからだ。日本の自動車・電機・機械・精密部品産業は、まさにこの磁石を大量に必要とする産業で、供給が詰まれば生産計画そのものが狂う。
数字の裏で進む規制強化——「増えた」の正体
中国税関当局が3月20日に発表した統計によると、2026年1〜2月の対日輸出は443トン余りで、前年同期比9%超の増加だった。特に2月単月では前年同月比36%超の大幅増となった。
一方で1月は前年同月比8%減、さらに前月(2025年12月)比では21%超の落ち込みが見られた。月ごとのばらつきが大きく、「安定した供給が続いている」と判断できる状況ではない。
しかもこの数字の裏側で、規制の締め付けは着実に強まっている。中国は2026年1月、日本向けの軍民両用品目(民間・軍事の両方に使える製品)の輸出規制を強化した。さらに2月には、日本企業20社を輸出禁止対象に追加した。対象はジスプロシウムやサマリウムなど特定のレアアース関連品目を含む。
では、なぜ規制が強まる中で輸出量が増えたのか。日本貿易振興機構(JETRO)の分析によると、中国が輸出許可制を強化した2025年4〜5月以降、いったん対日輸出は急減した。その後、輸出許可を取得できた企業が増えるにつれて数量が回復してきた、という経緯がある。
今回の2月の増加は、「規制が緩んだ」のではなく、「許可を得た案件が一時的に出荷されたことによる数量積み上げ」という可能性がある。申請から許可取得まで3か月以上かかるケースも多く、審査の透明性についても疑問が呈されている。
要するに、数量の増減と調達の安定性は、もはや同じものを示していない。「今月は入ってきた」が、「来月も同じように入ってくるとは限らない」——それが現在の状況だ。
日本企業が本当に恐れていること
価格が上がることよりも、「必要なときに手に入らない」ことの方が製造業にとっては致命的だ。
特に重希土類(ジスプロシウムなど)を含む高耐熱磁石は、代替素材への切り替えが簡単ではない。EV向けのモーターなどは、磁石の特性そのものが設計の前提になっているため、素材を変えれば製品設計から見直しが必要になる。
こうした状況を受け、一部の日本企業では、中国依存のサプライチェーンを「中国市場向け」と「グローバル市場向け」に分けて管理する動きが出てきていると報じられている。これは「中国から調達し続けるかどうか」を問うのではなく、「中国依存のリスクをどう管理するか」という段階に企業が移りつつあることを示している。
日米が動き出した「脱・単独依存」の構図
ただ、企業の自助努力だけでは限界があるため、政府間協力にも軸足が移り始めている。
3月19日、日米は重要鉱物・レアアースの供給網安定化に向けた共同計画を打ち出した。価格下支え、備蓄の強化、技術協力を含む内容で、中国への一極依存を段階的に減らすことが目的とされている。
ただし、中国が持つ「採掘から精製・製造まで一貫した体制」を、短期間で他の国が代替することは難しい。オーストラリアやカナダ、アフリカ産出国の開発も進んでいるが、精製技術と量産体制が整うまでには時間がかかる。当面は「リスクを分散する」ことが現実的な対応として模索されている段階だ。
「数量が増えた」を額面通りに受け取れない理由
今回のニュースが示しているのは、単純な「輸出増」ではない。
供給量のデータが増減する一方で、その背後では輸出許可制の強化、特定企業への禁止措置、審査の不透明さという「制度リスク」が着実に積み上がっている。貿易統計の数字は「現時点で届いた量」を示すが、「来月も届くかどうか」については何も保証しない。
日本の製造業が直面しているのは、価格のリスクではなく、サプライチェーンが「政治・安全保障と結びついた判断によって、いつでも揺れうる状態」に入ったというリスクだ。その意味では、9%増という数字は安心材料ではなく、問題の構造を理解するための入口に過ぎない。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

