自営業者の老後資金を考えようとしたとき、よく出てくる制度名が三つある。付加年金、国民年金基金、そして小規模企業共済だ。似た制度に見えても、役割は同じではない。付加年金と国民年金基金は国民年金への上乗せを考える制度で、小規模企業共済は退職や廃業などに備える退職金制度として位置づけられている。
制度名だけを追うと混乱しやすいが、「毎月の年金収入を増やしたいのか」「引退時にまとまった資金を持ちたいのか」を分けると整理しやすい。この記事では、その違いを順番に見ていく。
会社員との差はどこにあるのか
日本の公的年金は国民年金を土台にし、会社員や公務員には厚生年金が上乗せされる仕組みになっている。会社員は給与から保険料が天引きされ、事業主負担もあるため、老後資金の上乗せが仕組みの中に組み込まれやすい。
一方、自営業者やフリーランスは国民年金が老後資金の土台になりやすい。厚生年金のような自動的な上乗せがないため、自分でどの制度を使うかを考える意味が大きい。そこで候補に挙がるのが、付加年金、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済といった制度だ。
月400円で上乗せする付加年金とは何か
付加年金は、国民年金の第1号被保険者などが国民年金保険料に月400円の付加保険料を上乗せして納める制度だ。将来受け取る付加年金額は「200円×納付月数」で計算される。例えば20年にあたる240か月納めた場合、年額4万8,000円の上乗せになる。
仕組みが比較的シンプルで、少額から始めやすい点が特徴だ。ただし、国民年金基金に加入している人は付加保険料を納めることができない。年金の上乗せを考える制度ではあるが、国民年金基金と同時に使う制度ではない。
国民年金基金はどんな制度なのか
国民年金基金は、自営業者やフリーランスなど国民年金第1号被保険者を中心とした上乗せ年金制度だ。掛金は全額が社会保険料控除の対象になり、税制面のメリットがある。
将来受け取る年金額の見通しを立てながら設計できる点も特徴で、付加年金より厚い上乗せを検討する際の候補になる。一方で、資格喪失などの場合を除き、自分の都合で任意に脱退できる制度ではない。加入を考えるなら、長期で掛金を払い続けられるかを見て判断したい。
また、国民年金基金の1口目には付加年金相当分が含まれていると案内されており、基金加入中は付加年金に加入できない。制度の性格は似ていても、選択は一本になる。
小規模企業共済は年金ではなく退職金制度だ
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者、役員などのための積み立てによる退職金制度だ。付加年金や国民年金基金のような年金の上乗せ制度とは性格が違う。
掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位で設定できる。掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になる。老後資金という意味では年金制度と並べて検討されやすいが、制度の軸は「毎月の年金収入を増やすこと」ではなく、「退職・廃業などの事由に応じて資金を受け取ること」にある。
そのため、小規模企業共済を年金制度の一種として並べるより、退職金づくりの制度として見たほうが整理しやすい。受け取り事由や受取額の扱いは一律ではないため、加入時にはその点も確認しておきたい。
年金づくりと退職金づくりは分けて考える
ここが制度選びの出発点になる。付加年金と国民年金基金は、どちらも国民年金に上乗せする年金づくりの制度だ。将来の年金収入を増やす方向の制度として理解すると分かりやすい。
一方の小規模企業共済は、引退や廃業のタイミングに備えてまとまった資金を準備する退職金づくりの制度だ。同じ老後の備えでも、毎月受け取るお金を厚くしたいのか、引退時の一括資金を作りたいのかで、見るべき制度は変わる。
併用の考え方で押さえたい点
まず重要なのは、付加年金と国民年金基金は併用できないことだ。どちらも国民年金への上乗せを目的とした制度で、実際の加入はどちらか一方になる。
加えて、自営業者が iDeCo も使う場合、第1号被保険者の掛金上限は月額6万8,000円で、国民年金基金または付加保険料との合算枠として扱われる。つまり、iDeCo も含めて老後資金を考えるなら、制度ごとの役割だけでなく拠出枠全体を見ておく必要がある。
小規模企業共済は年金の上乗せ制度とは別の役割を持つため、併用の考え方も別軸で整理しやすい。ただし、どの制度も資金が長く固定されやすいため、節税効果だけで選ばず、資金繰りとあわせて考えたい。
何から考えればよいのか
最初に確認したいのは、「年金収入を増やしたいのか」「退職金のようなまとまった資金を作りたいのか」という点だ。前者なら付加年金や国民年金基金、後者なら小規模企業共済が候補になる。
付加年金は少額で始めやすく、仕組みも比較的わかりやすい。国民年金基金は、より厚い上乗せを考える際の制度だ。小規模企業共済は、年金制度というより退職金づくりの制度として見ると理解しやすい。
制度名だけを見ると似ているが、目指すものは同じではない。年金づくりと退職金づくりを分けて考えることが、自営業者の老後資金を整理する第一歩になる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

