経済産業省は2026年4月24日、石油の国家備蓄原油を5月1日以降に追加放出すると発表した。放出予定量は約580万キロリットル、放出予定総額は約5,400億円。現下の中東情勢を踏まえ、原油の安定供給に万全を期すための対応だ。
放出先はENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油の4社。上場企業としては、ENEOSは親会社のENEOSホールディングス(5020)、出光興産(5019)、コスモ石油は親会社のコスモエネルギーホールディングス(5021)が該当する。太陽石油は非上場企業だ。各社は買い取った原油を精製し、ガソリンや灯油などの石油製品として市場に供給する。
今回の追加放出は、3月下旬以降に始まった第1弾に続く第2弾にあたる。背景にあるのは、ホルムズ海峡をめぐる通航リスクと、中東情勢の緊迫による石油の安定供給への懸念である。
ホルムズ海峡リスクは日本の供給不安に直結する
ホルムズ海峡は、中東産の原油をアジアへ運ぶ主要な海上ルートだ。日本は原油輸入の多くを中東に依存しており、資源エネルギー庁などの説明でも、その依存度は約95%とされる。
そのため、ホルムズ海峡を通る輸送に不安が出ると、日本にとっては遠い国際ニュースでは済まない。ガソリン、灯油、軽油、重油といった石油製品の安定供給や、物流コスト、企業活動に波及しうる問題になる。
ただし、現時点で国内の石油供給が途絶えたと断定するのは適切ではない。経済産業省は、ホルムズ海峡を通らないルートでの調達に最大限注力しており、5月には前年実績比で過半の代替調達が可能となる見込みだとしている。今回の備蓄放出は、供給に穴を作らないための予防的な安全網と位置づけるのが自然だ。
備蓄放出はガソリン値下げ策ではない
誤解されやすいのは、石油備蓄の放出がガソリン価格を直接下げる政策ではないという点だ。
今回の目的は、国内の石油供給を途切れさせないことにある。中東ルートへの依存が高いなかで、調達ルートに不安が出ても、精製工場に原油が届き続けるようにする。それが国家備蓄放出の本質だ。
もちろん、市場に供給される原油が増えれば、価格上昇を抑える方向に働く可能性はある。ただ、ガソリン価格は国際原油相場、為替、精製・物流コスト、補助金制度など複数の要因で動く。備蓄放出がそのまま給油価格の低下につながるわけではない。
日本の石油備蓄は3層構造になっている
日本の石油備蓄は、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄の3層で構成されている。
国家備蓄は、政府分としてJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が管理する在庫だ。民間備蓄は、石油精製業者などが法律に基づいて保有する在庫である。さらに、産油国の国営石油会社が日本国内のタンクを使う産油国共同備蓄もあり、供給不足時には日本が優先供給を受けられる仕組みになっている。
素材によれば、4月21日時点の石油備蓄は国家備蓄131日分、民間備蓄81日分、産油国共同備蓄3日分の合計214日分となっている。3月下旬の約239日分からは減少しているが、一定の備蓄を保有している状況だ。
備蓄は、緊急時に時間を稼ぐ安全網である。一方で、使えば当然減る。放出後にどのようなペースで積み戻すのかも、今後のエネルギー安全保障上の論点になる。
代替調達も同時に進む
政府は備蓄放出と並行して、ホルムズ海峡を通らない代替調達も進めている。
特に注目されるのが米国産原油だ。素材によれば、米テキサスを3月22日に出発したタンカーが、4月26日にも日本へ初めて到着する見通しとなっている。資源エネルギー庁は、米国からの調達が5月に前年比約4倍まで拡大する見込みだと説明している。
また、経済産業省は、代替調達の進展により、備蓄放出量を抑えながらも年を越えて石油の供給を確保できるめどがついているとしている。これは、備蓄だけで危機をしのぐのではなく、調達先と輸送ルートを広げながら供給を維持しようとする対応だ。
浮き彫りになったのは中東依存の高さ
今回の追加放出は、政府の危機対応としては一定の準備が進んでいることを示している。約580万キロリットルの国家備蓄原油を放出し、元売り各社に供給し、同時に米国産原油などの代替調達も進める。短期的な供給不安を抑えるための手段は複数用意されている。
一方で、今回のニュースは日本の構造的な課題も示している。原油調達を中東と特定の海上ルートに大きく依存しているため、ホルムズ海峡の通航リスクが高まるだけで、国内政策として備蓄放出や代替調達が必要になる。
備蓄は強力な安全網だが、調達先と輸送ルートの偏りそのものを解消するものではない。今回の追加放出で見るべきなのは、備蓄があるから大丈夫という安心感だけではなく、なぜ備蓄放出が必要になったのかという構造だ。
石油国家備蓄の追加放出は、ガソリン価格の話だけではない。日本のエネルギー供給が、いまも中東情勢と海上交通路の安定に大きく左右されていることを示すニュースである。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

