ガソリンは前年より安い。それでも、3月の消費者物価指数の上昇率は5か月ぶりに拡大した。
総務省が2026年4月24日に発表した3月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合が2020年平均を100として112.1となり、前年同月比で1.8%上昇した。前月の1.6%から0.2ポイント広がり、上昇率の拡大は2025年10月以来となる。
一見すると、ガソリン価格の下落と物価上昇率の拡大は矛盾して見える。だが、物価指数で効いたのは「前年より安いか」だけではない。「どれだけ安いか」が変わったことだ。
ガソリン価格は3月も前年同月比で5.4%下落していた。ただし、2月の下落率は14.9%だった。1か月で下落幅が9ポイント以上縮まり、前年より安い状態は続きながらも、物価全体を押し下げる力は弱まった。その結果、生鮮食品を除く総合指数の上昇率が広がった。
背景には、イラン情勢の緊迫を受けた原油価格の上昇がある。2月下旬以降、原油価格が急上昇し、ガソリンや灯油の価格に反映された。
食料品の値上がりも高い水準が続く
3月の「生鮮食品を除く食料」は前年同月比で5.2%上昇した。家計に近い品目では、コーヒー豆が54%上昇、チョコレートが24%上昇、鶏肉が7.1%上昇、米類が6.8%上昇している。
コーヒーやカカオは輸入品の比重が大きく、為替や産地の天候など複数の要因を受けやすい。今回の物価上昇をすべて原油価格だけで説明することはできないが、食料品の上昇率がなお高いことは、家計にとって継続的な負担になっている。
同じ日に発表された2025年度平均の消費者物価指数でも、生鮮食品を除く総合は前年度比2.7%上昇した。上昇率が2%を超えるのは4年連続だ。物価高は単月の変動だけでなく、年度を通じた生活コストの問題になっている。
石油由来材料への波及が焦点になる

今後の焦点は、原油高の影響がガソリンや灯油にとどまるかどうかだ。
」第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは、先行きの不透明感が強く、物価上昇のリスクが高まっていると指摘している。プラスチックや塗料などの調達難や値上がりは、現時点では企業間の取引にとどまる部分が多い。ただ、イラン情勢の緊迫が長期化すれば、消費者に身近な食料品や住宅関連の価格にも波及するおそれがある。出典:NHK記事
ここで注意したいのは、ガソリンそのものが包装資材や固形燃料の原料になるわけではない点だ。影響の経路は、原油やナフサ、天然ガス由来の材料価格や調達難を通じたものだ。ポリエチレン製のレジ袋、ポリプロピレン製の包装、合成ゴムの手袋、メタノールを主原料とする固形燃料など、生活や店舗運営を支える資材に影響が広がる可能性がある。
スーパーでは割安商品の需要が伸びる
物価高が続くなか、小売現場では割安商品の需要が伸びている。
東京や埼玉などで80余りのスーパーを展開する企業では、賞味期限が近い商品や、まとめ仕入れで調達した菓子・缶詰などを割安価格で販売するコーナーを設けている。このコーナーの4月の売り上げは、4月23日時点で前年同期比およそ40%増えた。
物価高に加え、新生活を始めた層の節約需要も背景にあるとみられる。一方で、食品トレーやレジ袋、手袋などの包装資材については、今後の価格上昇が懸念されている。資材価格の上昇分をすぐ販売価格に転嫁することは難しく、小売現場ではコスト管理が重い課題になっている。
包装を減らす動きも出ている
食品宅配サービスの現場では、包装資材の使用量を減らす取り組みも始まっている。
東京・品川区の食品宅配サービス会社は、4月上旬からキャベツやかぶなど7品目の野菜・果物について、透明袋での個包装をやめた。外側の葉や皮に商品名と産地を示すシールを貼る方法に切り替えたほか、じゃがいもとたまねぎを1袋にまとめた商品も展開している。包装資材の使用量を2割ほど削減することを目指す動きだ。
飲食店でも、資材の量や価格に関する影響が表面化している。東京・品川区の武蔵小山商店街にあるたこ焼き店では、ポリエチレン製のレジ袋1000枚を発注したところ、業者から500枚しか納品できないと連絡があった。中東情勢の影響で原材料が入りにくいとの説明を受けたという。
合成ゴムの使い捨て手袋や、ポリプロピレン製の袋に入ったお手拭き、箸についても、納品数が減る可能性がある。この店では、客が自由に持ち帰れるようにしていた箸やお手拭きを、人数分だけ渡す対応に変えることを検討している。
テイクアウトサラダを扱う別の店では、容器の価格が4月に入って20%ほど上がったり、同じ価格でも個数が減ったりするケースが出ている。注文商品の納品遅れも増えており、安い仕入れ先を探す、廃棄していた野菜の端材をドレッシングに活用するなど、細かな工夫で採算を維持しようとしている。
観光地では固形燃料の確保も課題になる
影響は観光地にも及んでいる。
長野県松本市の上高地では、4月27日の山開きを前にホテルが観光客の受け入れ準備を進めている。鍋料理やすき焼きに使う卓上用の固形燃料については、4月から仕入れが難しくなっている。
固形燃料の主な原料は、天然ガスから作られるメタノールだ。ホテルでは大型連休中に必要な分は確保したものの、連休明けも同じ状況が続けば、看板メニューの変更を検討せざるを得ないとしている。調理用の使い捨て手袋やラップも、これまでどおり入手できなくなる可能性があるとの連絡が業者からあり、本格的な観光シーズンを前に懸念が出ている。
ガソリン価格だけでは見えない物価上昇圧力
3月の消費者物価指数の上昇率拡大は、直接にはガソリン価格の下落幅縮小が押し上げ要因になった。ただ、今回注目すべきなのは、原油高や中東情勢の影響が生活に近い資材にも及び始めている点だ。
包装資材、容器、レジ袋、手袋、固形燃料は、消費者が店頭で直接価格を比べる商品ではない。それでも、スーパー、飲食店、宅配サービス、観光業にとっては日々の運営に欠かせないコストである。こうした資材の価格上昇や調達難が続けば、食料品やサービス価格に波及する可能性がある。
ガソリンが前年より安いかどうかだけでは、物価上昇の全体像は見えにくい。今後は、エネルギー価格だけでなく、その先にある生活資材や店舗運営コストへの波及も焦点になる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

