iPhoneなどの電子機器を大量生産してきた会社が、日本の自動車部品事業に深く関わろうとしている。
三菱電機(6503)は2026年4月24日、自動車機器事業を担う子会社「三菱電機モビリティ」について、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ、Foxconn、台湾証券取引所:2317)との戦略的提携の検討を始めると発表した。両社は覚書を締結し、三菱電機モビリティへの50%出資受け入れも視野に、共同運営に向けた協議を進める。
ホンハイは、Apple製品などの受託生産で知られる世界最大級の電子機器製造企業だ。なぜ、そのような会社が日本の自動車機器事業に関心を示すのか。そして三菱電機は、なぜ外部との共同運営を検討するのか。
今回の発表は、単なる一社の資本提携ニュースではない。EV化とSDV化によって、自動車部品メーカーの役割そのものが変わり始めていることを示している。
三菱電機はなぜ事業を見直すのか
三菱電機は、収益性に課題のある事業の見直しを進めてきた。自動車機器事業も、その対象の一つとされている。
従来の自動車部品メーカーは、エンジン、変速機、電装品、制御部品などを完成車メーカーに供給する役割が中心だった。しかしEV化が進むと、必要とされる技術の重心は変わる。エンジン関連部品の比重は相対的に下がり、モーター、インバーター、バッテリー制御、車載ソフトウェア、自動運転関連技術の重要性が高まる。
この変化に対応するには、従来型の部品供給だけでは足りない。開発投資は重くなり、ソフトウェアや電子機器に近い領域での競争力も必要になる。三菱電機がホンハイとの共同運営を検討する背景には、自動車機器事業をEV・SDV時代の事業構造に作り替えたいという狙いがあるとみられる。
三菱電機の公式発表でも、協業領域として電動化、自動運転、SDVが挙げられている。さらに、パワートレインや自動運転技術などを含む日本発の高品質なEV用プラットフォームの提供に貢献すると説明している。
ホンハイは日本のEV供給網に近づいている
ホンハイにとって、この提携検討は単なる財務投資ではない。日本のEV関連サプライチェーンに関与を広げる動きの一部と読める。
ホンハイ傘下のFoxtron Vehicle Technologies(台湾証券取引所:2258)は2025年5月、三菱自動車(7211)とEVのOEM供給に関する覚書を締結した。発表では、Foxtronが開発し、台湾の裕隆汽車が製造するEVを、2026年後半にオーストラリアとニュージーランドで投入する計画が示されている。
また、三菱ふそうトラック・バスとホンハイは、ゼロエミッションバスをめぐる協業も進めている。2026年1月には、2026年後半から日本で新たなバス専業会社を設立する計画も発表された。三菱ふそうは日本に拠点を置く商用車メーカーだが、現在はDaimler Truckが大半の株式を保有しているため、ここは「三菱グループ企業同士の連携」と単純に見るより、ホンハイが日本の商用車領域に入り込む動きとして捉えるほうが正確だ。
乗用車、商用車、自動車機器。ホンハイは複数の入口から、日本のEV関連領域に接点を広げている。
ホンハイの狙いは「車そのもの」だけではない
ホンハイの狙いは、自社ブランドの車を売ることだけではないと考えられる。
同社はスマートフォン市場で、Appleなどのブランド企業を支える量産・調達・製造管理の基盤を築いてきた。EVでも、完成車メーカーやブランド企業に対して、開発、製造、部品調達を支えるプラットフォームを提供する構想が見える。
この点で、三菱電機モビリティは重要な足場になりうる。三菱電機側には自動車機器の技術と顧客基盤があり、ホンハイ側には量産管理、調達網、グローバルな製造ネットワークがある。両社が組めば、日本のEV関連産業に向けた新しい供給基盤を作れる可能性がある。
もちろん、今回の発表はまだ検討開始の段階だ。出資比率や共同運営の具体的な形、既存顧客との関係、従業員や取引先への影響は、今後の協議を待つ必要がある。
SDV化が部品メーカーの前提を変える
今回の話を理解するうえで重要なのが、SDVという言葉だ。
SDVは「Software Defined Vehicle」の略で、車の機能や価値をソフトウェアによって定義し、更新できる自動車を指す。スマートフォンのように、購入後もソフトウェア更新で機能追加や性能改善を行う考え方だ。
車がSDV化すると、自動車は単なる機械製品ではなく、電子機器、ソフトウェア、通信端末に近づく。そこでは、センサー、半導体、通信、ソフトウェア、量産管理の重要性がさらに高まる。
この変化が、ホンハイのような電子機器製造企業が自動車産業に入り込める理由でもある。車を作る意味が変わり始めているからこそ、従来の完成車メーカーや部品メーカーだけでなく、電機メーカーや受託製造企業にも新しい役割が生まれている。
これは三菱電機だけの問題ではない
三菱電機とホンハイの提携検討は、一社の個別ニュースに見える。しかし背景にあるのは、日本の自動車部品産業全体が直面する構造変化だ。
日本の自動車部品メーカーは、長年にわたり完成車メーカーとの深い関係の中で成長してきた。だが、EV化とSDV化が進むほど、従来の部品ビジネスの前提は変わる。単独で技術開発と収益確保を続けることが難しくなり、外部企業との資本・業務提携によって事業構造を作り替える動きは、今後も広がる可能性がある。
三菱電機の動きを「低収益事業をホンハイに切り出すだけ」と見るのは一面的だろう。むしろ、EV・SDV時代の自動車産業で、どの企業と組み、どの技術や供給基盤を提供するのかを問い直す動きとして見る必要がある。
自動車部品の競争は、いまや機械部品だけの競争ではなくなっている。電子機器、ソフトウェア、量産管理、グローバルな調達網まで含めた総合力の競争になりつつある。その変化の中で、三菱電機とホンハイの協議は、日本の自動車産業が次の形を探る一つの試金石になりそうだ。
(本稿は各社の公開情報をもとに作成しました。一部内容は記事執筆時点の情報です)

