売上原価と減価償却とは 個人事業主が知っておきたい必要経費の基本

個人事業主が事業所得を計算するとき、必要経費は「払ったかどうか」だけでは決まらない。商品を仕入れた場合は、売れた商品に対応する原価を考え、パソコンや車両のように長く使う資産は、使用する期間に分けて費用化する。

つまり、この記事の主題は「経費になるか」だけではなく、「どの年の経費にするか」だ。ネットショップ、小売、飲食、ハンドメイド販売のように在庫を持つ事業では、年末に残った商品の扱いが所得計算に関係する。フリーランスや副業でも、パソコン、カメラ、プリンター、業務用機器などを買うと、購入年に全額を必要経費にできるのか、数年に分けるのかが論点になる。

ただし、税務上の処理は取得日、申告方法、資産の用途、経理方式で変わる場合がある。ここでは、確定申告前に混同しやすい売上原価、棚卸、減価償却、少額資産の基本を、一般的な考え方として整理する。

table of contents

買った年に全部経費になるとは限らない

必要経費は、事業のために使った支出を所得計算に反映する仕組みだ。ただし、単に現金が出ていったからといって、すべてがその年の経費になるわけではない。

国税庁は、必要経費の算入時期について、その年に債務が確定した金額を基本にしつつ、減価償却費のように債務確定によらない費用もあると説明している。家事上の費用や、業務との区分ができない家事関連費は、必要経費として扱えない場合もある。

この前提を置くと、売上原価と減価償却は同じ方向から理解しやすい。

  • 売上原価は、売れた商品に対応させる費用
  • 減価償却は、長く使う資産を使用期間に配分する費用
  • 少額資産の制度は、一定の要件を満たす場合に早く費用化できる例外的な扱い

「買ったものは全部その年の経費」という理解では、在庫や備品の処理でつまずきやすい。手元の現金は減っていても、年末在庫が残っていれば、その分はその年の売上原価にできない場合がある。

売上原価は「売れた商品」に対応する費用

商品を仕入れて販売する事業では、仕入れた金額そのものではなく、その年に売れた商品に対応する原価を考える。これが売上原価だ。

基本式は、次のように整理できる。

  • 年初棚卸高:年の初めに残っていた在庫の金額
  • 当年仕入高:その年に仕入れた商品の金額
  • 年末棚卸高:年末時点で残っている在庫の金額

売上原価は、一般に「年初棚卸高+当年仕入高-年末棚卸高」で計算する。国税庁の個人事業者向け資料でも、本年分の必要経費となる売上原価は、年間の仕入高そのものではなく、年初と年末の棚卸高を反映して計算すると示されている。

たとえば、年内に商品を多く仕入れても、年末に売れ残りがあれば、その分は翌年以降の売上に対応する在庫として残る。棚卸は、年末などの時点で商品や材料の数量と金額を確認する作業であり、大企業だけの手続きではない。在庫を持つ個人事業主にとっても、その年の事業所得の金額に直結する。

減価償却は「使う期間」に合わせて費用にする

パソコン、車両、機械、什器、備品など、長く使う資産は、原則として購入した年に全額を必要経費にするのではなく、使用期間にわたって少しずつ費用化する。この手続きが減価償却だ。

国税庁は、減価償却資産について、取得に要した金額を取得時に全額必要経費にするのではなく、使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費にしていくものと説明している。土地は、使用や時の経過によって価値が減少する減価償却資産とは扱われないため、原則として減価償却の対象外になる。

償却方法には、毎年ほぼ同じ金額を費用化する定額法や、初期に多く費用化する定率法などがある。ただし、実際の方法や耐用年数は資産の種類や選定状況で変わる。単純に「高いものを何年かで割ればよい」という話ではない。

少額資産は10万円、20万円、40万円未満の違いで迷いやすい

少額の資産には、通常の減価償却より早く費用化できる扱いがある。ただし、名称が似ているため混同しやすい。

まず、使用可能期間が1年未満のもの、または取得価額が10万円未満の減価償却資産は、原則として業務の用に供した年分の必要経費にできる。

次に、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産は、一定の要件のもとで一括償却資産として処理できる。ここで注意したいのは、「一括」という名前でも、購入年に全額を経費にする制度ではない点だ。国税庁は、取得価額の合計額の3分の1に相当する金額を、業務の用に供した年以後3年間の各年分で必要経費に算入できると説明している。

さらに、青色申告者である一定の中小事業者などには、少額減価償却資産の特例がある。これは、一定金額未満の減価償却資産について、年間上限の範囲で取得時に全額を費用化できる特例だ。ただし、誰でも自動的に使える制度ではない。対象者、取得日、年間上限、資産の用途、申告上の記載が関係する。

取得価額の判定では、消費税を含めるかどうかも経理方式で変わる。税込経理なら消費税を含んだ金額、税抜経理なら消費税を含まない金額で判定するという考え方になるため、金額だけを見て即断しにくい。

2026年版では「30万円未満」の旧説明だけでは足りない

少額減価償却資産の特例は、従来「30万円未満」と説明されることが多かった。しかし、2026年6月時点で読むなら、この旧基準だけでは不十分になっている。

財務省の「令和8年度税制改正の大綱」では、中小企業者等の少額減価償却資産の特例について、対象となる減価償却資産の取得価額を40万円未満へ引き上げることが示され、所得税についても同様とされている。国税庁の令和8年度法人税関係法令の改正資料では、令和8年4月1日以後に取得等をする資産について、取得価額40万円未満のものが対象になるイメージが示されている。

中小企業庁の資料でも、令和8年度税制改正を踏まえ、取得価額上限が30万円未満から40万円未満へ引き上げられ、合計300万円までを限度に取得時に全額損金算入が可能と説明されている。個人事業主については、青色申告決算書の「減価償却費の計算」の摘要欄に「措法28の2」と記載する手続きが示されている。措置期間は令和10年度末、つまり2029年3月31日までとされる。

この変更は、物価高や設備価格上昇を踏まえた見直しと説明されている。従来は30万円未満に収まっていたパソコンや業務用機器が、価格上昇で基準を超えやすくなると、対象となる小規模事業者では、購入年に全額費用化するのか、通常の減価償却にするのかを確認する場面が増える。

ただし、基準が広がることは「買った方が得」という意味ではない。支出そのものが消えるわけではなく、所得計算に反映する時期が変わる制度として理解したい。貸付け用資産の扱いや、中小企業経営強化税制との関係など、資産の用途や他制度との組み合わせにも注意が必要になる。

確定申告前に確認したいのは金額だけではない

売上原価、棚卸、減価償却、少額資産の制度は、いずれも「必要経費になるか」だけで判断すると誤りやすい。確認したい順番は、金額だけではない。

在庫を持つ事業では、年末に何が残っているかを確認する。売れ残った商品を売上原価から外すかどうかで、その年の事業所得の金額が変わる。ネットショップや小売、飲食、ハンドメイド販売では、棚卸を後回しにすると、手元資金の感覚と申告上の所得がずれることがある。

備品や機器を買う事業者では、取得価額が10万円未満か、10万円以上20万円未満か、少額減価償却資産の特例の対象になるかを分けて考える。2026年4月1日以後取得分では、40万円未満への改正後基準も確認材料になる。ただし、青色申告かどうか、年間上限の範囲内か、事業用として使っているか、税込経理か税抜経理かによって扱いは変わる。

必要経費の基本は、節税テクニックとして覚えるより、売上や使用期間に合わせて費用を置く考え方として理解すると整理しやすい。商品なら「売れた分に対応しているか」、資産なら「何年使うものか」、少額資産なら「どの制度の要件に当たるか」。この3つを分けて確認すると、古い「30万円未満」の説明に引っ張られず、取得時期と制度要件を見落としにくくなる。

出典・参考

主な参照資料

Please share it if you like!

Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

table of contents