日本の原油輸入は、中東に大きく依存している。なかでもUAEとサウジアラビアは主要な調達先であり、両国を合わせた輸入量は日本全体の大部分を占める。その海上輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖されるなか、赤澤経済産業相が両国を相次いで訪問し、原油の安定供給に向けた協力を確認した。
一見すると、産油国との通常の資源外交にも見える。だが今回は、原油を買えるかどうかだけでなく、どのルートで日本まで運べるかが焦点の一つになっている。ガソリン価格、電気料金、物流費、化学製品のコストまで、中東の海峡リスクは日本の生活や企業活動に波及し得る。
何が起きたのか
赤澤経済産業相は5月4日にサウジアラビアを、5日にUAEを訪問し、それぞれの閣僚と会談した。サウジアラビア側とは、エネルギー供給体制をさらに強めるために協力していくことで一致した。
UAE側との会談では、日本側から、ホルムズ海峡の事実上の封鎖に伴って減少しているUAE産原油について、6月以降も着実に増やすことなどを提案した。UAE側からは、具体化に向けて前向きに取り組むとの回答があったという。
重要なのは、UAEとサウジアラビアが日本の原油調達において非常に大きな位置を占める点だ。素材となった報道では、経済産業省の説明として、両国を合わせた輸入量が全体の8割を占めるとされている。今回の会談は、単なる外交日程ではなく、日本のエネルギー安全保障に直結する動きである。
なぜ「安定供給」がこれほど重いのか
原油の安定供給という言葉は、少し抽象的に聞こえる。だが実際には、少なくとも三つの条件がそろわなければ成り立たない。
第一に、産油国が十分な量を供給できること。第二に、港湾、タンカー、パイプラインなどの輸送ルートが使えること。第三に、価格が急騰しすぎず、国内経済が耐えられる範囲に収まることだ。
今回とくに注目されるのは、二つ目の輸送ルートである。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とインド洋側を結ぶ海上交通の要衝だ。サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、カタールなどのエネルギー資源が世界市場へ向かう際、多くがこの周辺を通る。
そのため、ホルムズ海峡が使いにくくなると、原油価格だけでなく、実際の船積みや輸送計画が揺らぐ。日本にとっては、遠い地域の軍事・外交問題では済まない。中東から届く原油が滞れば、燃料価格や電気料金、物流費を通じて、企業活動や家計に影響する可能性がある。
UAEが焦点になるのはなぜか
UAEが注目されるのは、日本の主要な原油輸入元だからというだけではない。ホルムズ海峡を迂回できる東岸の港湾を持つ点でも重要だ。
海外メディアでは、UAE東岸のフジャイラ港やホールファカン港が、ホルムズ海峡を避けるための重要な物流拠点になっていると報じられている。特にフジャイラ港は、パイプラインを通じて原油を運び、ホルムズ海峡を通らずに輸出できる拠点として機能している。
この文脈で見ると、UAEとの会談で「6月以降も原油を着実に増やす」ことが話し合われた意味は大きい。これは単に輸入量を増やす交渉ではなく、ホルムズ海峡に依存しない供給ルートをどれだけ確保できるかという問題でもある。
サウジアラビアとの協力は何を補うのか
サウジアラビアは、日本にとって重要な原油輸入元であり、世界最大級の産油国でもある。供給量の面で大きな存在であることに加え、代替ルートを考えるうえでも重要な国だ。
サウジアラビアには、東部の油田地帯から紅海側へ原油を運ぶルートがある。ホルムズ海峡が不安定になった場合、こうしたルートの存在は、供給の途絶を和らげる一つの手段になり得る。
ただし、サウジアラビアやUAEと協力を深めれば、それだけで不安が消えるわけではない。輸送ルートの混雑、港湾の処理能力、タンカーの確保、保険料の上昇など、原油が日本に届くまでには複数の制約がある。原油価格が落ち着いたとしても、輸送や安全確保のコストが高止まりすれば、国内の負担は残る。
日本の弱点はどこにあるのか
日本は原油の大半を海外に依存し、その中でも中東依存度が非常に高い。2023年度の原油輸入に占める中東地域の割合は94.7%だった。2026年3月分の石油統計速報でも、中東依存度は95.9%となっている。
同速報では、3月の原油輸入量は1,039万キロリットルで、前年同月比16.5%減だった。国別ではサウジアラビアが451万キロリットル、UAEが404万キロリットルとなっている。月ごとに順位や数量は変動し得るが、日本の原油調達が中東の安定に強く結びついている構図は変わらない。
もちろん、日本には石油備蓄がある。資源エネルギー庁は、石油備蓄について国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄の三つで構成されると説明している。備蓄は短期的な混乱を和らげるための重要な仕組みだ。
しかし、輸入ルートの不安定化が長引けば、備蓄だけで対応することは難しくなる。だからこそ、産油国との外交、代替ルートの確保、備蓄の活用を組み合わせて考える必要がある。
ガソリン価格だけの話ではない
原油の供給不安と聞くと、まずガソリン価格を思い浮かべる人は多い。だが影響はそれだけにとどまらない。
原油は燃料だけでなく、化学製品やプラスチック、物流、発電コストにも関係する。輸送費が上がれば、食品や日用品の価格にも波及し得る。企業にとっては、原材料費や輸送費の上昇が利益を圧迫する要因になる。
つまり、ホルムズ海峡の混乱は「海外ニュース」ではなく、日本国内の物価や企業活動に連動し得るニュースである。中東から日本までの海上ルートが安定していることは、普段は意識されにくいが、生活コストを支える条件の一つになっている。
次に見るべき点は何か
今後の焦点は、会談で確認された協力がどこまで具体化するかだ。UAEからの原油輸入を6月以降も着実に増やせるのか。サウジアラビアとの供給協力は、実際の輸送ルートや数量にどう反映されるのか。代替港やパイプラインの活用は十分に機能するのか。
同時に、国内では備蓄の使い方や補充のペースも重要になる。備蓄を使えば当面の不足は和らぐが、使った分はどこかで補う必要がある。供給不安が続く局面では、備蓄を出す判断と、次の調達を確保する判断が同時に問われる。
今回の会談が示したのは、日本のエネルギー安全保障が、量の確保だけでは成り立たないということだ。どの国から買うかだけでなく、どの海を通り、どの港から運び、どれだけの備えを持つかまで含めて、原油調達の強さが決まる。ホルムズ海峡のリスクは、日本のエネルギー政策を「価格」だけでなく「経路」から見直す視点を促している。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

