増えるはずだったEVの生産計画が、相次いで取り消されている。日産自動車(7201)は、米ミシシッピ州の工場で2028年から予定していたSUV型EV2車種の生産を中止する方針だと報じられた。ホンダ(7267)も北米で生産を予定していたEV3車種の開発・発売を中止しており、少なくとも日本メーカーの米国戦略では、EVを一気に増やす前提が揺らぎ始めている。
意外なのは、脱炭素の流れそのものが止まったわけではないのに、メーカーの投資判断が急に慎重になっている点だ。EVは次世代車の本命とみられてきたが、米国では需要の伸びが想定より鈍く、補助金や環境規制をめぐる政策の先行きも読みづらくなっている。EVだけに資源を集中するより、ハイブリッド車やガソリン車も含めて配分を見直すことが、現実的な経営判断になりつつある。
何が予想と違ったのか
日産が見直すと伝えられたのは、米ミシシッピ州の工場で生産する予定だったSUV型EV2車種だ。当初は2028年から生産を始める計画だったが、すでに前年の段階で生産開始を最大1年程度延期していた。今回は、今後も需要拡大を見込みにくいとして、延期ではなく計画そのものを中止する方向に踏み込んだとされる。
同工場では今後、ハイブリッド車などEV以外の車種の生産を広げる方針とも伝えられている。これは単なる一工場の生産調整にとどまらない。米国でEVを増やすという前提が揺らぎ、需要に合わせて投資の置き場所を変える動きと読める。
ホンダも同じ流れの中にある。同社は2026年3月12日、北米で生産を予定していたEV3車種の開発・発売を中止すると発表した。米国での化石燃料規制の緩和やEV補助金の見直しなどにより、EV市場の拡大スピードが鈍化していることを背景に挙げている。
さらに、ソニーグループ(6758)とホンダが共同出資するソニー・ホンダモビリティも、EV「AFEELA 1」と第2モデルの開発・発売中止を発表した。これはホンダの電動化戦略見直しを受けた判断として示されたもので、EVの計画変更が共同事業にも波及した形だ。
なぜEVだけでは進みにくくなったのか
EVは走行時に二酸化炭素を排出しないため、環境対応車として期待されてきた。一方で、車両価格は高くなりやすく、充電設備の整備状況にも左右される。広い国土を長距離移動する米国では、充電場所や充電時間への不安が購買判断に影響しやすい。
補助金が厚く、環境規制が厳しくなると見込まれる局面では、メーカーはEVに大きく投資しやすい。だが、補助金や規制の方向が変われば、販売台数の見通しも変わる。EV専用の生産ラインや電池関連の投資は金額が大きいため、需要が読みにくいまま走り続けるリスクも大きくなる。
ここで再評価されているのが、ハイブリッド車だ。ハイブリッド車はガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせるため、EVのように外部充電へ全面的に依存しない。それでも燃費改善につながるため、消費者にとっては「いま使いやすい脱炭素寄りの車」として受け入れられやすい。
日本メーカーはもともとハイブリッド技術に強みを持つ。EV需要が想定ほど伸びない局面では、その強みを生かしながら、EV、ハイブリッド車、ガソリン車の配分を調整する方が合理的になりやすい。
本当にEV失速といえるのか
ただし、今回の動きを「EVが終わった」と見るのは早い。見直されているのは、EVそのものではなく、米国市場での普及スピードと採算の読みだ。
完成車メーカーにとっては、EV専用車を大量に投入しても、販売価格や補助金、充電環境が消費者の納得に届かなければ利益を出しにくい。一方で、電池や部材、電力インフラの分野では、なお成長機会が残る。パナソニックホールディングス(6752)のように、米国のEV電池需要の回復を見込む企業もある。
つまり、完成車メーカーではEV関連投資の採算が厳しく問われる一方、電池やインフラ企業には別の商機が残る可能性がある。市場全体を一言で「失速」と片づけるより、どの分野で、どの顧客に、どの価格で売るのかが選別される段階に入ったと見る方が実態に近い。
SUBARUの下方修正が示すもの
SUBARU(7270)も、米国の電動車需要見通しの変化を受けて、バッテリーEVに関する開発資産の回収可能性を見直し、減損損失を計上した。同社は2026年3月期の営業利益見通しを、前回見通しから69.2%減の400億円へ下方修正している。
SUBARUの場合、米国販売の比重が大きいだけに、米国の政策や需要の変化は業績に響きやすい。EV計画の見直しは、将来の技術戦略だけでなく、足元の利益見通しにも直結する問題になっている。
投資家にとっても、この動きは完成車メーカーだけを見る話ではない。EV投資の減速は、一部の電池、素材、半導体、設備関連企業には逆風となる可能性がある。一方で、ハイブリッド車向け部品や燃費改善技術、米国生産体制の再編に関わる企業には、別の需要が生まれる余地もある。
消費者には何が関係するのか
一般の消費者にとっても、この変化は遠い話ではない。メーカーがEV一辺倒から現実路線へ修正すれば、店頭に並ぶ車の選択肢も変わる。EVの投入が遅れる一方で、ハイブリッド車や燃費のよいガソリン車が増えれば、購入時の比較軸も変わってくる。
車を選ぶとき、環境性能だけでなく、価格、航続距離、充電環境、修理や下取りまで含めて考える必要がある。たとえば自宅に充電設備を置きにくい人や、長距離移動が多い人にとっては、EVよりハイブリッド車の方が使いやすい場面もある。
脱炭素は重要な流れだが、生活の中で選ばれる商品でなければ広がらない。消費者が実際に選びやすい価格や使い勝手に落とし込めるかが、メーカーにとっての大きな課題になっている。
次に見るべきポイントはどこか
今後の焦点は、米国のEV補助金や環境規制の方向、充電インフラの整備、そして各メーカーがハイブリッド車をどこまで増やすかだ。日産やホンダの判断は、短期的にはEV投資の減速に見えるが、中長期では「売れる脱炭素車」を探る再設計ともいえる。
重要なのは、EVかハイブリッドかという単純な二択で見ないことだ。市場が求めているのは、環境性能だけでなく、価格、使いやすさ、政策支援、インフラがそろった現実的な選択肢である。
EV計画の中止は、脱炭素の後退だけを意味するものではない。むしろ、自動車メーカーが理想先行の投資から、需要と採算を見ながら進む段階に入ったことを示している。次世代車の競争は、どれだけ早くEVへ移るかだけでなく、変化する市場にどれだけ柔軟に合わせられるかを競う局面に入っている。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

