日本で排出量取引制度が義務化——2026年度は算定・届出の助走、本格的な排出枠取引は2027年度以降へ

2026年4月1日、改正GX推進法に基づく「排出量取引制度」の義務参加フェーズが始まった。大量のCO2を排出する事業者に、法律で排出枠の保有と制度への参加が義務づけられる。ただし4月1日に始まったのは「企業がすぐ排出枠を取引する」フェーズではない。今年度は算定と届出の準備段階であり、排出枠の割当てや取引市場が本格的に動き始めるのは2027年度以降になる。制度の骨格と今後の流れを整理する。

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排出量取引制度とは何か

排出量取引制度(英語でEmissions Trading System、略してETS)は、企業ごとにCO2排出の「枠(排出枠)」を設け、枠が余った企業は売り、枠が足りない企業は買う市場の仕組みだ。単に「排出を制限する規制」とは異なり、削減に成功した企業が経済的なメリットを受け取れる構造になっている。企業は「自社設備を改修して排出を減らすか」「市場で排出枠を買って帳尻を合わせるか」を比較しながら対応を決めることになる。

今回始まったのは、改正GX(グリーントランスフォーメーション)推進法に基づく法定の排出量取引制度だ。日本では、2023〜2025年度にかけてGXリーグ参加企業による自主的な試行(任意参加フェーズ)が先行して実施されてきた。今回の義務化はその流れを受けているが、任意試行と法定制度は根拠法が異なり、対象の範囲や義務の性格も変わる。自主参加の「GXリーグ」から、GX推進法に基づく「義務制度」へ、制度の性格が変わったと理解するのが正確だ。

対象は、直近3年度の平均CO2排出量が年間10万トン以上の事業者。基準を超えた事業者には届出と制度への参加が義務づけられ、電力・鉄鋼・化学・自動車など幅広い業種の事業者が含まれる見通しだ。

2026年度は「算定と届出」が主役——取引は2027年度以降

4月1日に何が始まったのかを理解するには、制度のスケジュールを押さえる必要がある。

経産省の資料によれば、2026年度(初年度)に対象事業者が行う主な作業は次の3つだ。

  • 4月1日から:直接排出量等の算定を開始する
  • 9月30日まで:特定事業者・特定排出者としての届出を行う
  • 9月30日まで:GX推進計画(移行計画)を提出する

また制度初年度には特例があり、2026年度分の「排出目標量等合計量の届出」と排出枠の割当ては2027年度に行われる予定だ。その後、排出実績の報告と排出枠の保有義務が課される流れになる。

つまり「制度が始まった」のは事実だが、排出枠の割当てや取引市場が本格的に動き始めるのは2027年度以降だ。本格的な排出枠保有義務や取引に向けた判断は、2027年度以降に具体化しやすい。企業の現場では今、算定体制の整備・確認機関の選定・移行計画の策定に追われている段階だと言える。

価格安定化の設計と無償割当

制度設計の特徴の一つは、排出枠の取引価格の予見可能性を高める仕組みを設けていることだ。EUのカーボン市場では過去に価格が乱高下し、企業の投資判断を惑わせたことがある。日本の制度は価格安定化の措置を組み込むことで、初期の定着を優先する設計をとっている。

また初年度は排出枠を無償で割り当てる方針で、企業の負担を段階的に増やしていく考え方だ。2033年度からは発電事業者向けの有償オークションも導入される予定で、制度は段階的に厳しくなっていく。

なぜ今、日本でこの制度が始まるのか

背景には国内目標と国際的な要請の両方がある。

国内では、2050年のカーボンニュートラル達成と、2030年度に2013年度比46%削減という政府目標がある。企業の自主的な取り組みだけでは目標達成が見通せないため、制度によって削減を促す枠組みが求められていた。

国際的には、EU(欧州連合)が「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」を導入しており、2026年1月からは本格適用フェーズへ移った。CBAMは輸入品に埋め込まれた炭素に価格を反映させる仕組みで、自国より炭素コストが低い国からの輸入品にも相当額を求めるものだ。国内に炭素価格の枠組みを整備することは、日本企業にとって輸出競争力の観点からも必要性が高まっている。

「日本型」の制度はEUとは少し違う

EUのETS(EU ETS)は、政府が削減の「総量上限」を先に設定し、そこから各企業に排出枠を配分するキャップ・アンド・トレード型だ。日本の今回の制度は、各企業の排出量に応じた排出枠を割り当て、実績と等量の保有を義務付ける仕組みで、国全体の排出量に明確な上限を先に置く設計とは異なる。

自然エネルギー財団をはじめ、慎重な評価をする専門家からは「国の削減目標との連動が見えにくい」「無償割当が多く、企業への炭素コストが弱い」との指摘がある。実効性が高まるかどうかは、今後のベンチマーク強化や有償化のペースにかかっている。

一方で、国際機関ICAP(国際炭素行動パートナーシップ)は、義務化フェーズへの移行を日本の炭素価格政策の本格化として評価しており、大企業に炭素コストを意識させる制度が法定化されたことを前向きに受け止める見方も広がっている。

企業と生活への影響

電力・鉄鋼・化学・セメントなどの高排出産業が排出コストを管理するようになれば、製品価格や電力料金への反映が中長期的に論点になっていく。輸送・物流・住宅・食品など幅広い産業のコスト構造にも、じわじわと影響が及ぶ可能性がある。

企業にとっては、省エネ設備への投資、再生可能エネルギーの調達、燃料転換の選択が、制度コストと直接結びつくようになる。自主目標のもとで取り組んできた脱炭素が、法定義務に裏打ちされた段階へ進んだ。実際にコスト負担として企業経営に響くのはこれからだが、制度の助走は今日から始まっている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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