2025年3月、日本政府系機関のJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と岩谷産業(8088)がフランス南西部の重レアアース精製工場「Caremag(カレマグ)」に最大1億1,000万ユーロを出融資し、生産量の50%を長期契約で確保することを決めた。これは突発的な決定ではなく、供給網の分散という日本の経済安全保障政策の延長線上にある選択だった。

そして1年後——4月1日、来日中のマクロン仏大統領は都内で開かれた日仏経済フォーラムで演説し、NHKの報道によると「私たちを従わせようとする大国に自分たちの国の技術を依存することは望んでいない」と述べ、重要鉱物やエネルギー分野で日本との連携をさらに深める考えを示した。首脳レベルでの言葉が、すでに動き出していた実務協力に政治的な重みを加えた格好だ。
積み上げてきた案件を「格上げ」した訪日
マクロン氏の来日は、ゼロから協力関係を構築したというより、既存の案件を政治レベルへと引き上げたと見るのが正確だ。
4月1日の日仏首脳会談に先立ち、赤澤経産相とレスキュール仏経済担当相は「日仏重要鉱物協力ロードマップ」に署名した。この署名が意味するのは、Caremag(カレマグ)への資本参加という「工場建設の支援」から一歩進んで、その工場に投入する原料の調達段階まで日仏で共同対応する枠組みを確認したことだ。第三国での鉱石確保への共同アプローチや、JOGMEC同様のフランス側資源機関OFREMIとの連携強化が想定されている。
経済フォーラムでマクロン氏は、フランスが提唱してきた「戦略的自律性」と日本が進める経済安全保障政策が「相乗効果を生み出す」とも述べた。「戦略的自律性(Strategic Autonomy)」とは、外交・安全保障・経済・技術の重要分野で、特定の大国に過度に依存せず自らの判断で動ける余地を確保しようという考え方だ。欧州ではもともと安全保障分野で使われてきたが、近年は重要鉱物・半導体・エネルギー・AIにまで広がっている。日本の経済安全保障推進法(2022年成立)と問題意識が重なることから、両国の協力には「制度的な親和性」がある。
なぜレアアースが焦点になるのか
Caremagが協力の中核に置かれる理由は、レアアースの精製をめぐる構造的なリスクにある。
レアアースとは、ランタンやネオジムなど17種の元素の総称で、EVモーター、風力発電の高性能磁石、スマートフォン、半導体関連機器などに欠かせない素材だ。なかでも「重レアアース」と呼ばれるジスプロシウムやテルビウムは磁石に耐熱性を与え、EVの普及に伴って需要が急増している。
問題は採掘よりも「精製」にある。鉱石を掘るだけでは工業製品には使えず、高度な分離・精製工程を経て初めて製品化できる。この工程が中国に強く偏っており、IEAは磁石向けを含むレアアース精製分野において、2035年時点でも中国の高い集中が続くとの見通しを示している。資源の産地を多角化しても、精製で中国依存が残れば供給リスクは消えない——これが現在の構造的な課題だ。
Caremagプロジェクトは、フランス南西部ラック工業団地でこの「精製」工程を西側で担う拠点として建設が進む。計画では使用済み磁石のリサイクル2,000トンと鉱石由来の原料5,000トンを年間処理する設計で、リサイクルを組み込んだ点が欧州らしい環境対応の側面も持つ。JOGMECは、この工場から確保できる供給量が、将来の日本のジスプロシウム・テルビウム需要の約20%に相当するとしている。
なお日本のレアアース中国依存度は、2010年の約90%から現在は約60%まで下がったとされる(ロイターによる)。今回の案件は、その「次の一手」と位置づけられる。
論調の力点——フランスと日本の違い
マクロン氏の発言でもう一点注目すべきは、その対象だ。NHKによると大統領は「特定の生産国、特に中国だけに頼るのはあってはいけない」とも述べた一方で、より広く「従わせようとする大国」への依存を問題視した。フランスの「戦略的自律性」は、中国の輸出規制だけでなく、米国のIRA(インフレ抑制法)のような産業政策が欧州に波及してきた経験も踏まえた発想であり、特定大国への依存全般を警戒するフランスの立場が反映されている。
一方、ロイターなど国際メディアはこの日仏協力を「中国依存の低減」として整理しており、日本政府側も「経済的威圧への対処」「供給網の強靭化」という実務目標を前面に出す傾向が強い。フランスは「どの大国にも主権的に向き合う」という自律性を語り、日本は「特定リスクに対して供給網を強くする」と語る——力点の置き方には違いがあるが、「供給網を特定国に依存させない」という実務的な目標は共通しており、そこが今回の協力を動かす実質的な動力になっている。
成果が問われるのはこれから
今回の「ロードマップ署名」はあくまでも枠組みの確認だ。Caremagプロジェクトが計画通りに稼働するか、第三国での原料確保が実際に進むかは今後の展開次第であり、外交的な合意が現実の供給網をどこまで変えるかはこれから問われる。
フォーラムでマクロン氏は「不確実な世界、戦争の危機の中で、私たちはともに平和や国際法、多国間主義を信じている」とも述べた。日仏の接近には、単なる資源確保を超えた地政学的な危機感が土台にある。重要鉱物の供給網再編は、その土台の上で動いている長期的な取り組みだ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

