補助金と備蓄で時間は買えた──ホルムズ危機で問われる日本の長期戦の設計

イラン情勢が長引く中、日本政府の動きは速かった。過去最大規模の石油備蓄放出、ガソリン補助金、代替調達先の探索——短期的な危機対応の枠組みは、おおむね出揃っている。

しかし、ここで立ち止まって考えてほしい。これらの対策は問題を「解決」したのではなく、「先送り」にしたのだ。ホルムズ海峡を経由した中東原油が届かない状況が続く限り、備蓄は着実に減っていく。そのとき日本は何を優先し、何を抑えるのか。その問いへの答えは、まだ出ていない。


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短期対策の全貌

日本が原油の93%をペルシャ湾岸諸国から輸入していることは、今回の危機で改めて広く知られることになった。タンカーが通過しなければならないホルムズ海峡は、イランをめぐる戦闘が始まって以来、通常の商業通航は事実上封鎖に近い状態が続いている。

政府が取った短期対策は三本立てだ。

一つ目は石油備蓄の放出。日本が保有する254日分規模の備蓄から、今回約50日分を放出することが決定された。これはIEA(国際エネルギー機関)加盟国が協調して4億バレルを市場に供給するという過去最大規模の集団的行動の一環でもある。

二つ目はガソリン補助金(激変緩和措置)の導入。石油元売り会社に補助金を出してガソリン小売価格を1リットル当たり170円程度に抑えようとするもので、3月26日以降の補助額は1リットル当たり48.1円に達している。政府はガソリンに加え、軽油・重油にも同額の補助を行う方針だ。

3月23日時点のガソリン価格は1リットル当たり177.7円と、前週から13.1円下落した。石油情報センターは「170円にさらに近づく」と見ている。

三つ目は代替調達の検討だ。具体的にはアラスカ産原油、南米(エクアドル・コロンビア)、中央アジア(カザフスタン)などが検討されているほか、ホルムズ海峡を経由しない迂回ルートとして、サウジアラビアのヤンブー港経由(紅海ルート)とUAEのフジャイラ港経由(アラビア海ルート)が活用されている。実際に、イランへの軍事作戦後に迂回ルートを通るタンカーの動きも出始めている。


代替調達には「壁」がある

迂回ルートも代替調達も、ないよりはるかにましだ。しかし、「あれば問題なし」とは言えない構造的な限界がある。

まず容量の問題だ。EIA(米エネルギー情報局)のデータによれば、ホルムズ海峡の通過量はピーク時で日量約2090万バレルと、世界の海上石油取引量の4分の1に相当する。これに対して、サウジのEast-Westパイプラインとアブダビ原油パイプラインを合わせても代替できる容量は日量約470万バレルにとどまる。迂回ルートはホルムズの「全部」を代替できるものではない。

安全保障の問題もある。紅海からアラビア海への出口に近いイエメンには、イランと連携しているとされるフーシ派が勢力を持っており、今後の戦況次第では紅海周辺への攻撃が起きる可能性もある。加えて、ペルシャ湾岸の石油施設そのものがイランの軍事的標的になるリスクも指摘されている。

中東以外からの調達増加も、品質・輸送日数・精製設備との相性・契約条件といった現実的な壁に直面する。代替調達の「検討」と「実現」の間には、相当の距離がある。

IEA自身も、備蓄放出について「重要で歓迎すべきバッファー」としつつ、「最も重要なのはホルムズの通常通航再開だ」と明記している。備蓄放出は問題を解決する手ではなく、時間を稼ぐ手だという認識は、一次資料の水準でも共有されている。


「時間稼ぎ」の先に何があるか

石油連盟の木藤会長は「イラン情勢が今のまま続くようであれば次なる備蓄の放出も必要になる」とし、5月以降も放出継続を政府に求める考えを示した。これは現実的な判断だ。一方で、備蓄放出を重ねるほど、いつかは底をつくという算術的な事実は変わらない。

では長期化した場合に何が問われるのか。石油業界の関係者からは「政府には需要対策も念頭においてほしい」という声が上がっている。

需要対策とは、供給の穴を埋めようとするだけでなく、消費そのものを少し減らして備蓄を長持ちさせることだ。IEAは今回の危機に対応した政策メニューとして、在宅勤務の奨励、公共交通機関への誘導、航空需要の抑制、LPGやディーゼルの節減などを正式に提示している。

アジアの近隣諸国の動きは早い。韓国では政府の公用車利用制限を義務化し、国民へ家庭での省エネを呼びかけている。スリランカでは1週間の給油上限量を定めるなど、消費量そのものを管理する動きが始まっている。

日本でこうした制度論が前面に出てこない背景には、価格補助が効いていることへの安心感があるかもしれない。しかし、ガソリン補助金は需要抑制のインセンティブを弱める側面がある。「備蓄を長持ちさせる」という目的とは整合しにくい。


優先順位づけという難問

もう一つ、まだ十分に議論されていない問いがある。備蓄が減っていく中で、何を優先するか、だ。

ナフサを原料とする石油化学製品の影響はすでに具体化している。化学メーカーが値上げを相次いで発表しているほか、石油化学工業協会の工藤会長は「ポリエチレンは約4か月分、ポリプロピレンは約3か月分の在庫がある」としつつ、「4月の製造設備の稼働はぎりぎりいける」という認識を示した。この「ぎりぎり」が、2か月後も続いている保証はない。

一般に需給が逼迫すると、市場任せでは価格が高い用途に流れやすくなる。公共バスの燃料より、高価格帯の工業製品への供給が優先されるかもしれない。注射器や点滴バッグより、価格転嫁しやすい消費財のほうが調達しやすくなるかもしれない。

政府は経済産業省を通じて医療用物資への優先供給を化学工業協会に要請するなど、先手を打ち始めてはいる。しかし、優先配分の必要性が前面化しているというのが現状だ。

日本として問われているのは、価格をどう抑えるかという問いを超えて、「ライフラインに必要なものを誰が、どういう仕組みで確保するか」という配分の設計だ。備蓄放出と補助金が時間を買った。その時間で何を設計するかが、次の局面の問いになる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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