健康保険とは? 会社員と家族が受けられる保障をやさしく解説

給与明細を見ると、毎月「健康保険料」が天引きされている。金額は気になっても、健康保険がどんな制度なのかを詳しく把握している人は意外と少ない。実際には、病院にかかるときだけでなく、病気で会社を休んだとき、出産のために仕事を離れるとき、退職するときにも深く関わってくる。この記事では、健康保険の対象者、保険料の仕組み、受けられる給付、退職後の扱いまでを順を追って整理する。


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健康保険とは何か

健康保険は、主に会社員とその家族を対象にした公的医療保険だ。制度の枠組みとしては「被用者保険(ひようしゃほけん)」——つまり雇われて働く人のための保険——に位置づけられる。

病院にかかったときの医療費の一部を保険が負担する、というのが最もよく知られた機能だ。しかし健康保険の役割はそれにとどまらない。病気やけがで会社を休んで収入が途絶えたとき、出産のために仕事を休んだとき、家族が亡くなったときにも、一定の保障が用意されている。

公的医療保険には健康保険のほかに国民健康保険や後期高齢者医療制度があるが、健康保険には被扶養者制度(後述)と労使折半の保険料負担という特徴があり、会社員世帯にとって特有の仕組みになっている。


どんな会社・どんな人が健康保険に入るのか

適用事業所とは

健康保険が適用される事業所のことを「適用事業所」という。法人の事業所は原則としてすべて適用事業所となり、そこで働く従業員は健康保険への加入が義務づけられる。個人事業所の場合は、業種や従業員数によって強制適用の対象になる場合とそうでない場合がある。

適用事業所は厚生年金保険の適用事業所でもあるのが基本で、健康保険と厚生年金は適用や手続きが連動している。

被保険者になる人

適用事業所で働く従業員は、原則として健康保険の「被保険者(ひほけんしゃ)」になる。対象は正社員に限らず、役員や契約社員も含まれる。

パートやアルバイトについても、所定労働時間と所定労働日数が「通常の労働者の4分の3以上」という目安を満たせば加入対象になる。正社員だけの制度ではない点は、近年の制度として知っておくと役立つ。

短時間労働者への適用拡大

4分の3基準を下回る短時間労働者であっても、一定の要件を満たす場合は健康保険に加入できる。具体的には、週の所定労働時間が20時間以上、一定以上の賃金要件を満たすこと、学生でないこと、などが条件となる(適用事業所の規模要件は段階的に拡大されている)。

「パートだから健康保険は無関係」という認識は今の制度には合わない。労働時間や職場の規模によっては加入義務が生じることがある。


家族は健康保険に入れるのか

被扶養者とは

健康保険には「被扶養者(ひふようしゃ)」の制度がある。被保険者(会社員本人)の収入で生活を維持している家族を、本人と同じ健康保険の対象として扱う仕組みだ。対象になり得るのは、配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母など、一定の範囲の親族だ。

被扶養者として認定されると、家族は本人の保険証を通じて医療保険の保障を受けられる。この場合、被扶養者分として追加保険料はかからない。

収入要件の考え方

被扶養者として認定されるには、生計維持関係があることに加えて収入要件を満たす必要がある。原則として年収130万円未満であることが一つの基準で、60歳以上または一定の障害がある場合は180万円未満が目安とされている。

同居している場合と別居している場合で考え方が異なるケースもある。また、被保険者本人の収入と比較して被扶養者の収入が少ないことも重要な判断要素になる。収入が増えて基準を超えると被扶養者の資格を失い、自分で国民健康保険などに加入する必要が出てくる。

国民健康保険との違い

健康保険には被扶養者制度があるが、国民健康保険にはこれに当たる仕組みがない。国保では、家族であっても各人が個別の被保険者として扱われ、世帯の加入状況に応じて保険料が決まる。

この違いは、会社員世帯と自営業者世帯の社会保険の格差として語られることもある。家族の多い世帯では、特に健康保険の被扶養者制度の恩恵が大きくなりやすい。


健康保険は誰が運営しているのか

健康保険の「保険者」(運営主体)は一つではない。

協会けんぽ

全国健康保険協会(通称・協会けんぽ)は、主に中小企業に勤める会社員が加入する健康保険の保険者だ。加入者数は最も多く、日本の被用者保険の中心的な存在になっている。保険料率は都道府県ごとに設定されており、全国一律ではない。

健康保険組合

大企業などが独自に設立する健康保険組合(健保組合)もある。組合ごとに保険料率や給付内容が異なり、法定給付を上回る「付加給付」を設けている組合もある。

同じ「健康保険」という名称でも、加入先が協会けんぽか健保組合かによって、実際の保険料水準や給付内容が異なる場合がある。


健康保険料はどう決まるのか

保険料の基本的な考え方

健康保険料は、給与や賞与の額をもとに決まる。具体的には「標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)」と「標準賞与額」に保険料率を掛けて計算される。標準報酬月額とは、実際の給与額を一定の等級に当てはめた額のことで、これをベースに保険料が算定される仕組みをいわゆる「総報酬制」という。

会社と本人で負担する

健康保険料の大きな特徴は「労使折半(ろうしせっぱん)」、つまり会社(事業主)と本人が半分ずつ負担する仕組みになっていることだ。給与から天引きされる金額は本人負担分のみで、同額を会社も支払っている。

国民健康保険では保険料を加入者が全額負担するのが基本であるのと比べると、この会社負担は健康保険の大きなメリットの一つだ。

保険料率は一律ではない

協会けんぽの保険料率は都道府県ごとに異なり、都道府県間で差がある。健保組合は組合ごとに独自の料率を設定しているため、同じ会社員でも加入する保険者によって保険料率が違う。「健康保険の料率は全国共通」という認識は正確ではない。

なお、産前産後休業や育児休業期間中は、一定の条件のもとで保険料が免除される制度もある。


健康保険で受けられる主な給付

健康保険の給付は医療費の補助だけではない。どんな場面でどんな給付があるのかを、生活の場面ごとに整理する。

病気やケガで医療を受けるとき

最もよく知られているのが「療養の給付」だ。健康保険に加入していれば、医療費の一部だけを窓口で支払えばよく、残りを健康保険が負担する。一般的に現役世代は医療費の3割が自己負担となる。

医療費が高額になった場合には、「高額療養費(こうがくりょうようひ)」の制度が関係してくる。1か月の自己負担額が一定の上限を超えた分は、後から保険から払い戻しを受けられる仕組みだ。被扶養者が医療を受けた場合は「家族療養費」として同様の保障が適用される。

会社を休んだとき

業務外の病気やけがで会社を休み、十分な給与を受けられない状態になった場合、「傷病手当金(しょうびょうてあてきん)」が支給される。連続して3日間休んだあと、4日目からが支給の対象となり、支給期間は通算で最長1年6か月だ。

注意したいのは、業務中や通勤中の事故による休業は健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の対象になる点だ。制度が違うため、申請先も異なる。

傷病手当金は会社員の所得補償として重要な給付で、長期にわたる病気の際に生活を支える大きな役割を果たす。

出産するとき

出産に関わる給付は2種類あり、名前が似ているため混同されやすい。

「出産育児一時金(しゅっさんいくじいちじきん)」は、出産にかかる費用を補う給付で、1児につき原則50万円が支給される(一定の条件による)。被扶養者が出産した場合も「家族出産育児一時金」として同額が支給される。

「出産手当金(しゅっさんてあてきん)」は、出産のために仕事を休んで給与が受けられない本人への給付で、休業中の所得を補うことが目的だ。支給対象は被保険者本人のみで、被扶養者には支給されない。

まとめると、出産育児一時金は「出産費用の補助」、出産手当金は「出産で休業した本人への所得補償」と役割が違う。

本人や家族が亡くなったとき

被保険者本人が亡くなった場合、埋葬を行った家族などに「埋葬料(まいそうりょう)」として5万円が支給される。被扶養者が亡くなった場合は「家族埋葬料」として同額が支給される。


退職したら健康保険はどうなるのか

退職すると資格を失う

会社を退職すると、原則としてその日(厳密には翌日)に職場の健康保険の被保険者資格を失う。被扶養者として入っていた家族も同様に資格を失い、新たな医療保険への加入手続きが必要になる。

任意継続という選択肢

退職後の医療保険の選択肢の一つが「任意継続(にんいけいぞく)」だ。退職前に継続して2か月以上健康保険に加入していた場合、退職後も最長2年間、同じ健康保険に加入し続けることができる。手続きは退職日の翌日から20日以内に行う必要がある。

任意継続を選んだ場合、保険料は退職前と同じ標準報酬月額をもとに計算されるが、これまで会社が負担していた分も含めて全額を自分で支払うことになる。

任意継続で注意したい点

任意継続は自動的に継続されるわけではなく、自分で申請する必要がある。また、2年を超えての継続はできず、保険料を1回でも滞納すると資格を失う。

退職後の選択肢としては、任意継続のほかに「国民健康保険への加入」と「家族が加入する健康保険の被扶養者になる」という方法もある。どれを選ぶかは保険料水準などを比べて判断する必要があり、一概にどれが有利とは言えない。傷病手当金や出産手当金については、退職後も新たに当然受けられるわけではなく、退職前からの受給要件など個別に確認が必要なため、給付面でも事前に確認しておくことが重要だ。


健康保険で誤解しやすいポイント

健康保険は本人だけの制度ではない

家族を被扶養者にできるのが健康保険の特徴だ。ただし、家族なら誰でも自動的に被扶養者になれるわけではなく、収入要件などを満たす必要がある。

保険料は本人だけが払っているわけではない

給与から天引きされる健康保険料は本人負担分のみで、会社も同額を負担している。国民健康保険には会社負担はないため、この点は健康保険の大きな違いだ。

正社員でなくても加入することがある

パートやアルバイトでも、一定の労働時間・日数や適用要件を満たせば健康保険の加入対象になる。短時間労働者への適用拡大で、対象範囲は広がっている。

退職後も自動で継続されるわけではない

退職すると翌日には被保険者資格を失う。任意継続は自分で申請する必要があり、期限は退職日の翌日から20日以内だ。手続きを忘れると任意継続の選択肢がなくなる。

健康保険と国民健康保険は仕組みが大きく違う

名前は似ているが、被扶養者制度の有無、保険料の負担構造、運営主体など、多くの点で異なる制度だ。同列に語れないことを知っておくと、制度の比較がしやすくなる。


Summary

健康保険は、会社員とその家族を支える公的医療保険だ。医療費の負担を軽くするだけでなく、病気での休職、出産、家族の保障、死亡時にもそれぞれの給付が用意されている。

特に、保険料を会社と本人で折半する仕組み、家族を被扶養者にできる制度、傷病手当金や出産手当金による所得補償、退職後の任意継続の選択肢、これらが健康保険の大きな特徴だ。

健康保険を理解すると、会社員の社会保険の全体像が見えやすくなる。国民健康保険との違い、退職後の医療保険の選択、傷病手当金や出産手当金の詳細については、それぞれ個別の記事で掘り下げていく。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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