OECD(経済協力開発機構)が3月26日に発表した世界経済見通しは、2026年の成長率予測を2.9%で据え置いた。前回・昨年12月から変わらない数字だ。しかしこの「据え置き」を、景気が底堅く推移しているサインと読むのは早計だ。
数字の裏には、まったく異なる二つの力がぶつかり合っている。片方はプラス材料——AI(人工知能)関連の投資ブームと、米国で関税負担が軽減された効果。もう片方はマイナス材料——中東の戦争情勢に伴うエネルギー価格の高騰だ。この二つがちょうど打ち消し合った結果として、成長率が同じ数字に止まっているにすぎない。
「据え置き」は静止ではなく、引き裂かれた均衡だ
OECDはイランをめぐる中東情勢の長期化が、石油や天然ガスの価格を押し上げていると指摘する。エネルギー価格が上がると、企業は輸送コストや電気代、原材料費の増加に直面し、家計はガソリン代や光熱費、食品価格の上昇に苦しむ。消費が細り、企業の投資も慎重になる——これが成長の足を引っ張るメカニズムだ。
一方でAI関連投資は、データセンターの建設、半導体の需要、電力設備の整備、ソフトウェア開発といった幅広い産業に波及し、特に米国の経済活動を下支えしている。また、OECDが説明に加えたもう一つの追い風が、米連邦最高裁の判断だ。トランプ前政権が導入した「相互関税」の一部が今年2月に無効と判断されたことで、実効的な関税負担が低下したとOECDはみており、貿易コストの重みが和らいだと分析している。
この二つの力が相殺し合って、成長率の数字は動かなかった。だからこそ、「据え置き=安定」ではなく「据え置き=二つの力がちょうど打ち消し合った結果」という読み方が実態に近い。
地域別では格差が広がっている
世界全体の数字が変わらないなかで、国・地域別の見通しは動いた。明暗がくっきり分かれている。
米国はAI投資の継続を評価され、前回から0.3ポイント上方修正されて2.0%となった。日本は0.9%、中国は4.4%でそれぞれ据え置きだ。
対照的に厳しいのがユーロ圏(EU加盟国などが参加する欧州の経済圏)で、0.4ポイント下方修正されて0.8%となった。欧州はエネルギー価格の上昇に特に影響を受けやすい構造を持っており、中東情勢による高騰がそこに重なった形だ。世界成長の数字が変わらないのに、その恩恵が均等に届いているわけではない。むしろAI投資の果実を手にした米国と、エネルギー高の打撃を受けた欧州の間で、格差が一段と広がっている。
AI投資が今回の世界成長を「支えている」という新たな危うさ
注目すべきは、今回の世界成長2.9%の維持を支えた大きな柱のひとつが、AI関連の大型投資だという点だ。
米国を中心とするこの投資ブームが、成長を下支えした主要因のひとつとみられる。言い換えれば、AI関連投資が鈍れば、世界成長率には下方圧力がかかりやすい構図になっている。
さらに厄介なのは、エネルギー高がそのAI投資自体を圧迫しうるという指摘だ。AIのデータセンターは膨大な電力を消費する。WTO(世界貿易機関)は3月の報告で、石油価格の高止まりが続けばAI投資ブームそのものに逆風になりうると警告している。現在の均衡を支えている柱が、エネルギー高によって揺らぐ可能性があるということだ。
今回の見通しが依拠する「前提」が重要だ
OECDが設定した今回の予測には、大きな前提がある。石油や天然ガスなどのエネルギー価格が、今年半ば以降に「徐々に下がる」というシナリオだ。
この前提が崩れた場合のリスクについて、OECDははっきりと言及している。「中東からの輸送の混乱が続いてエネルギー価格が想定以上に上昇した場合、インフレが加速して成長が鈍化するリスクがある」。Axiosの報道によれば、エネルギー危機が深刻化した場合、米国のインフレ率が4.2%に上振れしうるとのOECDの分析も紹介されている。
現在の2.9%という数字は、前提が崩れれば簡単に下方修正される「条件付きの均衡」だ。今回の見通しを読む際には、数字そのものより、その数字を成立させている前提条件に目を向けることが欠かせない。
世界成長が「据え置き」と聞くと、どこか安心感を覚える。だが今回のOECDの見通しは、むしろ逆のメッセージを含んでいる。AI投資の追い風がなければ、今回の据え置きはもっと脆く見えていた可能性が高い。そしてエネルギー高が続けば、AIという支えさえも揺らぎかねない。「2.9%の維持」は現状維持ではなく、綱渡りの上に立っている数字だ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

