日銀の国債含み損45兆円 金利上昇で見えた緩和縮小の論点

日本銀行の2025年度決算で目を引くのは、保有国債の時価評価上の含み損が45兆4,414億円に広がったことだ。金額だけを見ると衝撃は大きいが、これは国債を売却して確定した損失ではない。日銀が保有する国債を2026年3月末時点の市場価格で評価した場合、帳簿上の価額をどれだけ下回るかを示す数字である。

それでも、このニュースは単なる会計上の注記では終わらない。日銀は長年の大規模緩和で巨額の国債とETFを抱えたまま、金利のある経済へ戻る局面に入っている。含み損、金融機関への支払利息、国債買入れの縮小、ETFの処分。別々に見える論点が、金利上昇という一本の線でつながり始めている。

家計や企業にとっても遠い話ではない。国債金利は住宅ローン、企業の借入、預金や債券の利回り、政府の利払い費に波及する。日銀決算は「日銀が損をしたかどうか」だけでなく、低金利を前提にしてきた日本経済がどのように前提を変えていくのかを読む材料になる。

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45兆円の含み損は、何を意味し、何を意味しないのか

日銀資料によると、2026年3月末時点の国債の価額は530兆8,695億円、時価は485兆4,280億円だった。差し引きの評価損益はマイナス45兆4,414億円となる。前年度末のマイナス28兆6,246億円から、含み損は大きく拡大した。

背景にあるのは金利上昇だ。債券価格と金利は基本的に逆方向に動く。新しく発行される国債の利回りが上がると、過去に低い利回りで発行された国債の魅力は相対的に下がり、既発国債の市場価格は下がりやすくなる。

ただし、ここで確認したいのは、含み損と実現損は違うという点だ。日銀が保有国債を途中で売却しなければ、市場価格の下落がそのまま売却損として確定するわけではない。したがって、45兆円超という数字を「日銀がただちにその損失を出した」と読むのは正確ではない。

一方で、「売らなければ問題なし」とも言い切れない。巨額の国債を抱えたまま金利が上がると、日銀のバランスシートや収益構造、市場との向き合い方に変化が出る。含み損は、その変化が時価評価として見えたものといえる。

金利上昇は国債の評価だけでなく、日銀の収益にも表れる

今回の決算で見落としにくいもう一つの数字が、補完当座預金制度利息だ。日銀資料では、国債利息が2兆5,182億円だった一方、補完当座預金制度利息は費用として2兆7,104億円計上されている。

補完当座預金制度利息とは、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に対して日銀が支払う利息を指す。政策金利の上昇は、この支払利息を押し上げる要因になりやすい。つまり金利上昇は、保有国債の時価下落だけでなく、日銀の損益計算書にも別の形で表れる。

もちろん、当座預金の残高や制度の階層構造などによって影響は変わるため、「利上げすれば単純に負担が増える」とだけ見るのは粗い。それでも、低金利時代には目立ちにくかった支払利息が、出口局面では日銀決算を読むうえで重要な項目になっている。

日銀の2025年度決算では、経常利益が2兆3,421億円、当期剰余金が1兆9,263億円、国庫納付金が1兆8,300億円だった。国債の時価評価損が大きくても、決算全体がただちに赤字化したわけではない。この点を分けて見ることで、過度な危機論にも、過度な楽観論にも寄らずに済む。

ETFの評価益57兆円は、国債含み損と単純に足し引きできない

国債とは対照的に、日銀が保有するETF関連資産では大きな評価益が示された。金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託)の価額は37兆1,214億円、時価は94兆1,871億円で、評価益は57兆657億円となっている。

この数字だけを見ると、国債の含み損とETFの評価益を並べて、全体として相殺できるように感じるかもしれない。しかし、会計処理、資産の性質、市場への影響、処分方法が異なるため、単純な足し引きで出口の難しさを判断することはできない。

国債は金利政策や政府の資金調達、市場の基準金利と深く結びつく。一方、ETFは株式市場の需給に関係する。ETFに評価益があっても、売却の規模や速度によっては株式市場への影響が意識される。日銀のETF・J-REIT処分指針でも、市場への撹乱的な影響を避けることが重要な考え方として置かれている。

つまり、ETF評価益は日銀の保有資産に含み益があることを示す材料ではあるが、「だから出口は簡単」と読む材料ではない。国債とETFは、増やすときも減らすときも市場への届き方が違う。

日銀決算が家計や企業に届く経路は「金利」にある

日銀の含み損が、家計に直接請求書として届くわけではない。だが、日銀が国債市場をどう安定させ、金利をどのようなペースで動かすかは、生活や企業活動に広く関係する。

金利上昇は、預金者や新たに債券を買う投資家には利回り面の変化として表れやすい。一方で、変動型住宅ローンを抱える家計や、借入に依存する企業には負担増として意識されやすい。政府にとっても、国債発行コストや利払い費の前提が変わる。

金融機関にとっては、日銀当座預金への付利、保有国債の評価、貸出金利の変化が収益環境を左右する。年金や保険など長期資金を扱う主体にとっては、超長期金利の動きが運用や負債評価に関わる。

こうした波及を考えると、今回の決算は「日銀の財務ニュース」にとどまらない。金利のある経済に戻ることで、家計、企業、金融機関、政府の前提が少しずつ組み替わっていく。その過程を、日銀の会計数字が先に映している。

今後の注目点は、出口の速度と市場の受け止め方

これから確認したいのは、日銀が長期国債買入れの減額をどのように進めるか、ETFやJ-REITの処分をどの程度の時間軸で進めるか、そして市場がそれをどの程度円滑に受け止めるかだ。

国債買入れを減らせば、国債市場の需給や長期金利に影響する可能性がある。一方で、買入れを長く続ければ、日銀のバランスシート縮小は進みにくい。ETFについても、評価益の有無だけでなく、売却時期の分散や市場への影響をどう抑えるかが論点になる。

「含み損45兆円」という数字は強い。しかし、それだけで日銀の政策運営や日本経済の先行きを判断することはできない。確認すべきなのは、金利上昇が日銀の収益、国債市場、株式市場、家計や企業の資金調達へ、どの順番で、どの程度伝わっていくかである。

低金利時代の終わりは、政策金利の発表だけでなく、中央銀行の決算にも表れる。日銀の保有国債の含み損は、その一場面にすぎない。次のニュースを見るときは、含み損の大きさだけでなく、付利負担、国債買入れ、ETF処分、長期金利の動きを並べて確認すると、出口局面の輪郭が見えやすくなる。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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