対ロ制裁下で続く実務接触 日本企業の資産保全が焦点に

ロシアと接触したという事実だけでは、日ロ経済協力の再開とは読めない。今回の経済産業省幹部のロシア出張で重要なのは、関係改善のサインかどうかよりも、制裁が続くなかでロシア国内に残る日本企業の資産をどう守るかという実務の問題だ。

赤澤経済産業大臣は2026年5月26日の閣議後会見で、荒井通商政策局長が石川外務省欧州局審議官とともにロシアへ出張していると説明した。目的は、ロシアに進出している日本企業の資産を守る観点から、ロシア政府関係者と意思疎通を行うことだとされる。

同時に、赤澤大臣は新しい経済協力を意図したものではないとも説明している。政府職員の派遣は年に複数回行っている取り組みの一環とされ、少なくとも政府説明上は、対ロ制裁を緩める話ではなく、残された企業資産をめぐる実務的な接触と位置づけられる。

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ロシアと話すことは、経済協力の再開とは限らない

ウクライナ侵攻後、日本はG7各国と歩調を合わせて対ロ制裁を続けてきた。その一方で、ロシア国内には日本企業の現地法人、出資、設備、在庫、契約上の権利、債権債務などが残っている。

ここで分けて考えたいのは、「ロシア側と意思疎通すること」と「ロシアとの経済協力を再開すること」は別だという点だ。制裁下でも、既存資産の扱い、撤退や休眠に伴う手続き、契約上の権利保全をめぐって、政府間で確認しなければならない場面は残る。

経産省は5月12日の会見でも、経済訪問団を送るとの見方について否定的に説明し、G7と協調した対ロ制裁を続ける姿勢と、日本企業の資産保全の必要性を分けて示していた。今回の出張も、その線上にある動きとして読むのが自然だ。

ロシア事業は「撤退すれば終わり」になりにくい

ロシアに関わる企業の判断は、継続か撤退かの二択では整理しきれない。事業を止めても、現地法人、従業員、設備、在庫、契約、債権債務は残る。撤退する場合でも、資産売却、送金、契約解除、当局手続きなどが絡み、すぐに完了するとは限らない。

ジェトロが2025年1月27日から2月7日にかけて実施したロシア所在日系企業の調査では、対象は130社・団体、回答は67社・団体、有効回答率は51.5%だった。回答企業・団体の事業状況では、「通常どおり」と「一部事業停止」がそれぞれ35.8%で並び、「一部または全面的に事業停止」は合計56.7%に達していた。

この数字が示すのは、ロシアに残る日系企業が一枚岩ではないという現実だ。通常営業を続ける企業もあれば、事業を一部止めている企業、全面停止に近い企業もある。制裁、物流、決済、レピュテーションリスク、本社方針の変更が重なり、企業ごとに判断が分かれている。

さらにロシアでは、2023年4月25日に大統領令第302号が署名され、非友好国企業などの資産を一時的に政府管理下に置ける枠組みが整えられたとジェトロは説明している。これは直ちにすべての日本企業資産が失われるという意味ではないが、企業にとっては保有資産の管理や権利保全をめぐる制度リスクとして無視しにくい。

サハリン2は背景例だが、今回の協議対象とは確認されていない

ロシア関連資産の問題が企業内の会計処理だけで終わらない理由の一つに、エネルギーがある。日本はLNGなどのエネルギー調達で海外案件と深くつながっており、ロシア関連の権益はエネルギー安全保障の文脈でも注目されやすい。

三井物産モスクワ有限会社のページでは、三井物産のサハリン2への持分が12.5%と記載されている。サハリン2はロシア極東サハリン島のLNG関連プロジェクトで、日本のエネルギー調達を考えるうえでたびたび取り上げられてきた案件だ。

ただし、今回の経産省幹部のロシア出張で、サハリン2が協議対象だったとは確認されていない。ここで重要なのは、特定の案件名を今回の訪問に直接結びつけることではなく、ロシア国内に残る日本企業資産の中には、エネルギー調達や産業活動と関わり得るものがあるという構造だ。

LNG調達は、電力、企業活動、物価に間接的につながる。海外権益や現地資産の扱いが不安定になれば、企業業績や市場で材料視される可能性もある。資産保全という言葉は地味だが、その先には家計や企業活動に届く経路がある。

「経済訪問団」と「資産保全の接触」は分けて読む

一部報道では、民間企業の同行や経済訪問団のような見え方が取り上げられている。ただし、経産省会見では企業同行の有無や具体的な面会相手、協議内容、成果は明らかにされていない。外交や企業活動に関わるとして、詳細説明は控えられている。

ロシア国営通信TASSは、経産省関係者の話として、日本が経済使節団を送る計画はないと報じた。ロシア側メディアの報道であるため、政治的な文脈は慎重に扱うべきだが、日本側が新規の経済協力ではないと線引きしている点とは重なる。

制裁が続く局面では、新規投資や経済協力と、既存資産の維持・保全・整理は別の問題になる。企業にとっては、ロシア事業を続ければ社会的批判やブランド毀損のリスクがある。一方で、急な撤退や放置によって資産や権利を失うリスクもある。

政府にとっても、制裁方針を維持しながら、民間企業の正当な権利や日本のエネルギー安全保障に関わる資産をどう扱うかは簡単ではない。今回の動きは、少なくとも政府説明では、政治的な関係改善よりも既存資産の保全に重点が置かれている。

今後確認したい焦点は、誰と何を協議したか

今後の注目点は、派遣された幹部がロシア側の誰と会い、どの制度や資産について意思疎通したのかにある。民間企業の同行の有無、個別企業との関係、エネルギー案件との距離、協議後に日本側がどのように説明するかも確認材料になる。

現時点で、今回の出張を日ロ経済協力再開のサインとみなす根拠は限られる。一方で、ロシア国内に残る日本企業の資産リスクは、放置すれば自然に小さくなるものでもない。だからこそ、政府は制裁の原則と資産保全の実務を分けながら、細い意思疎通を続けていると考えられる。

このニュースは、遠い外交儀礼の話ではない。制裁下のビジネスでは、撤退、休眠、権益維持、契約管理、エネルギー調達が互いに絡み合う。次に確認したいのは、政府の「新規協力ではない」という線引きが保たれたまま、どの範囲で日本企業の資産保全に結びつくのかという点だ。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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