ホルムズ海峡の事実上の封鎖をめぐり、国連のグテーレス事務総長が「局地的な危機ではなく世界的な危機だ」と強い懸念を示した。日本を訪問中の2026年5月18日、都内で開かれた日本の国連加盟70年を記念するイベントでの発言である。
この発言が重いのは、ホルムズ海峡の混乱が中東の安全保障問題にとどまらず、エネルギー、肥料、食料、物流へと波及しうるためだ。特に、燃料や肥料を輸入に頼る途上国では、必要な物資を確保できても、以前より高い価格を支払わざるを得ない状況が生まれやすい。
ホルムズ海峡は何を運んでいるのか
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海上交通の要衝である。湾岸地域で産出される原油や液化天然ガス、関連する石油化学製品が、この海峡を通って世界各地へ運ばれる。
この通航が滞ると、影響はガソリンや電気料金だけに限られない。原油や天然ガスは発電や輸送の燃料になるだけでなく、肥料や化学製品の原料にもなる。肥料価格が上がれば農業の生産コストが上がり、時間差を置いて食料価格にも影響が及びやすい。
つまり、ホルムズ海峡の問題は「遠い地域の紛争」ではなく、家計や企業活動にまで届く供給網の問題である。
国連が警戒する途上国への打撃
グテーレス事務総長は、封鎖によって途上国に「極めて壊滅的な影響」が出ていると述べた。背景には、先進国と途上国で危機への耐性が大きく異なる現実がある。
先進国でもエネルギー価格の上昇は家計や企業を圧迫する。ただ、備蓄、調達先の分散、財政支援などで一定の時間を稼ぐ余地がある。一方、輸入コストの上昇を通貨安や外貨不足と同時に受ける国では、燃料、肥料、食料をそろえるだけで財政と生活が大きく揺らぎやすい。
国連貿易開発会議(UNCTAD)も、ホルムズ海峡の混乱が続けば、エネルギーの流れが乱れるだけでなく、輸入コストの上昇や金融面の圧力を通じて発展途上国に負担が集中すると警告している。
ここで問題になるのは、価格の高さだけではない。肥料が不足すれば農作物の収量に影響する可能性があり、食料価格の上昇や供給不安にもつながる。国連が「世界的な危機」と呼ぶのは、この連鎖が国境を越えて広がるためである。
日本にも届く物価と企業コストの問題
日本にとっても、ホルムズ海峡の安定は重要な意味を持つ。日本は原油の多くを中東に依存しており、ホルムズ海峡はその輸送路と深く結びついている。液化天然ガスは原油ほど中東依存度が高くないものの、国際市場全体で供給不安が強まれば、価格や調達条件への影響は避けにくい。
影響が表れやすいのは、電気・ガス、ガソリン、物流費、食品価格である。企業側では、燃料費、原材料費、輸送費が上がり、製造業や小売業のコスト増につながる。農業でも、肥料価格や燃料費の上昇は生産コストを押し上げる。
そのため、ホルムズ海峡の混乱は「資源価格のニュース」としてだけ見ると実態をつかみにくい。物価や企業コスト、金融市場の見方にも波及しうる問題として見る必要がある。
国連の対応が難しい理由
グテーレス事務総長は、関係者と協議し、海峡の開放を模索してきたとも説明した。一方で、現状については「戦争でも平和でもない状況」と表現し、当事者が何を望んでいるのか見通しにくいとの認識も示している。
これは、国連が強い危機感を示しても、すぐに解決へ進めるわけではないことを意味する。海峡の安全確保には、軍事的緊張の緩和、関係国の合意、船舶の安全、保険や決済の仕組みなどが絡む。単に航路を開けると言っても、船会社や荷主が安全に通れると判断できなければ、物流は元に戻りにくい。
市場もこの不確実性を見ている。危機が長引けば、原油や天然ガスの価格だけでなく、肥料、化学製品、輸送費、保険料まで上がりやすくなる。企業は在庫を積み増し、代替ルートを探し、調達計画を見直す。そうした防衛的な動き自体が、さらにコストを押し上げる可能性もある。
見るべき点は「封鎖解除」だけではない
今後の焦点は、ホルムズ海峡が開放されるかどうかだけではない。仮に一部の通航が再開しても、船舶が安全に通れる状態が続くのか、保険や決済が機能するのか、エネルギーと肥料の供給が安定するのかを見る必要がある。
日本では、ガソリン価格や電気料金のような目に見えやすい指標に注目が集まりやすい。しかし、この危機は物流費、食品価格、企業収益、途上国の債務問題にもつながる。国連が発した警告は、ホルムズ海峡の問題を中東情勢の一部ではなく、世界経済と生活コストの問題として捉え直すよう促している。
遠い海峡で起きている混乱が、食卓や電気料金、企業の仕入れ価格にまで届く。そのつながりを見落とさないことが、今回の危機を理解する出発点になる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

