台湾マネーは東京マンション高騰の主因なのか

東京23区の新築マンションを国外に住む人が買った割合は、2025年上半期で3.5%だった。数字だけを見ると大きくはない。それでも、その内訳を見ると印象は変わる。国外居住者による取得308戸のうち、台湾が192戸と6割超を占めていたからだ。

東京のマンション価格は、すでに普通の会社員世帯には手が届きにくい水準にある。そこへ「台湾マネー」「海外マネー」という言葉が重なると、価格高騰の原因が国外からの購入にあるように見えやすい。だが、実態はもう少し複雑だ。

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何が予想と違ったのか

国土交通省は2025年11月25日、不動産登記情報を活用し、海外居住者による新築マンション取得状況を初めて公表した。東京23区では、国外居住者による取得割合が2024年の1.6%から、2025年上半期には3.5%へ上昇した。都心6区では、2024年の3.2%から2025年上半期の7.5%へ伸びている。

注目されるのは、購入者の国・地域別の内訳だ。東京23区で国外居住者が取得した308戸のうち、台湾が192戸、中国が30戸、シンガポールが21戸だった。かつて「不動産の爆買い」で注目された中国より、台湾の存在感が大きくなっている。

一方で、3.5%という全体割合も見落とせない。東京23区の新築マンションの大部分は、なお国内に住所がある人が購入している。海外居住者の動きは目立つが、それだけで市場全体を説明できるほど大きいとは言い切れない。

なぜ台湾の人たちは東京の物件に向かうのか

背景の一つは、東京が世界の主要都市と比べて相対的に割安に見えることだ。日本国内では高すぎると感じられる東京のマンションも、台北などの住宅価格高騰や円安を踏まえると、台湾の購入者には投資機会として映る場合がある。

実際、日本の不動産仲介会社には台湾からの相談が増えているという。港区など都心部の物件は人気が高く、現金で購入するケースも少なくない。ある仲介会社では、海外顧客の成約価格の平均が1物件あたり約7億円にのぼるとされる。

台湾側の事情もある。DGBASが2026年2月に公表した暫定値では、台湾の2025年実質GDP成長率は8.68%だった。AI関連需要や半導体輸出の好調が成長を支え、台湾経済の勢いが海外不動産への関心を支える背景の一つになっているとみられる。

ただし、台湾からの購入をすべて投資目的と見るのは早い。子どもや孫の進学、家族の滞在先、将来のセカンドハウスとしての利用など、生活に近い動機もある。日本との距離や文化的な近さは、他の国の不動産にはない安心材料になりやすい。

台湾有事への備えも購入理由になるのか

台湾特有の事情として、地政学リスクへの備えもある。いわゆる台湾有事の可能性を意識し、資産や生活拠点を分散させたいと考える人がいるためだ。

ある不動産会社のヒアリングでは、台湾の顧客の購入目的は「利回り重視の投資」が約50%、「セカンドハウス・実需」が約40%、「地政学的なリスク分散・資産分散」が約10%とされる。比率としては投資目的が最も多いが、実需やリスク分散も無視できない。

ここで重要なのは、台湾マネーを単純な投機としてだけ見ないことだ。もちろん、短期売買や価格上昇を狙う購入もあり得る。しかし、家族の将来、教育、移住先の選択肢、政治リスクへの備えといった理由が重なると、不動産購入は単なる金融商品ではなくなる。

マンション価格高騰は海外マネーだけで説明できるのか

東京のマンション価格が高騰している理由は、海外マネーだけではない。むしろ、建設費の上昇、人手不足、都心部の用地不足、再開発による高額物件の供給、国内富裕層の需要など、国内要因が大きい。

不動産経済研究所をもとにした報道では、2025年の東京23区の新築分譲マンション平均価格は1億3613万円、都心6区は1億9503万円に達した。発売戸数が減る一方で、建設費や土地代が上がり、都心部では高額物件の比重も高まっている。

海外からの購入は、この流れに上乗せされる要因とみる方が自然だ。特に港区や湾岸エリアなど、国外居住者に好まれやすい地域や物件では、販売計画や価格形成に一定の影響が出る可能性がある。一方で、全国や東京全体を一括りにして「国外からの購入が価格を押し上げている」と断定するのは難しい。

国交省も、国外に住所がある人が2億円以上の高額物件を活発に購入している傾向は特に見られないと説明している。高額物件の購入が目立つ取材例はあるが、それが市場全体の姿とは限らない。

国の調査で見えていない部分はどこか

今回の調査には限界もある。対象は基本的に「国外に住所がある人」だ。外国籍であっても日本に住んでいる人、永住権や就労ビザを持つ在留外国人、日本国内の法人を通じた購入などは、十分に把握しきれない。

不動産登記情報には国籍の項目がないため、購入者が外国人かどうかを直接つかむことも難しい。国交省の大臣会見でも、今回の調査結果だけで取得全体に占める外国人の割合が小さいかどうかを判断するのは困難だという趣旨の説明があった。

さらに、ペーパーカンパニーを通じた売買や名義貸しのようなケースがあれば、統計だけで追うことはできない。つまり、3.5%という数字は「海外マネーの影響が小さい」と断定する材料にも、「外国人購入が急増している」と煽る材料にもなりにくい。把握できている範囲を示す数字として、慎重に読む必要がある。

規制の焦点は「排除」ではなく「ルール」だ

政府は、短期売買など実需に基づかない投機的取引を好ましくないものとして、実態把握や関係団体との連携を進める考えを示している。不動産登記で国籍を把握する仕組みの検討も指示されており、土地の取得・利用の在り方については有識者会議で制度整備を含む対応策が議論されている。

ただ、国外居住者や外国籍の人による取得を一律に規制すればよいという話ではない。海外資金や海外人材を一律に遠ざける議論では、日本の不動産市場や地域経済との関係を十分に説明できない。

一方で、非居住者が所有する部屋が空き部屋として放置されたり、修繕積立金が支払われなかったりすれば、マンション管理に影響が出る。管理組合との意思疎通、税金、修繕、賃貸利用のルールを理解しないまま購入が進めば、住民側の不満も強まる。

必要なのは、購入者を市場から締め出す議論ではなく、購入時の説明義務、所有者情報の把握、税務や管理ルールの徹底、短期転売への監視を整えることだ。多言語で日本の法律や習慣を説明し、購入後の管理まで見据える仕組みがなければ、健全な市場にはなりにくい。

この問題をどう見ればよいのか

台湾マネーの存在は、東京のマンション市場が国内だけで完結しなくなっていることを示している。円安、半導体景気、地政学リスク、都市部の住宅不足、外国人との共生ルールが、一つの不動産取引の中で交差している。

だからこそ、「外国人が買うから価格が上がる」と単純化すると、問題の本質を見誤る。東京のマンション価格を押し上げているのは、国内の供給制約や建設費の上昇、都心部への需要集中を含む複合的な構造だ。台湾からの購入は、その構造の中で存在感を増している一つの要素である。

一方で、数字が全体では小さいからといって、影響がないとも言えない。エリアや物件によっては、海外購入者の需要が価格や販売戦略に織り込まれる可能性がある。生活の場としてマンションを見ている住民にとっては、平均値よりも自分の地域で何が起きているかの方が重要になる。

海外マネーは、日本の不動産市場にとって避けるべき異物ではない。だが、歓迎するだけで済むものでもない。価格高騰の原因を誰か一つに押しつけるのではなく、どの資金が、どの地域で、どのような目的で動いているのかを見えるようにすることが、冷静な議論の出発点になる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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