カゴメのケチャップから、見慣れたトマトのイラストが減る。中身の変更ではなく、パッケージに使う白色インクの調達不安に対応するためのデザイン変更だ。
カゴメ(2811)は5月14日、中東情勢の影響で白色インクの調達が不安定になっているとして、主力商品の「カゴメトマトケチャップ」のパッケージを変更すると発表した。対象は180g、300g、500gの3商品で、5月下旬ごろから順次、店頭で新しいデザインに切り替わる。
新しいパッケージでは、表面に描かれていたトマトのイラストを減らし、商品が見える透明部分を増やす。印刷部分を減らすことで、インクの使用量を従来より抑える狙いがある。容器や中身の品質に変更はない。
カゴメは、長年親しまれてきたデザインを変えることは心苦しいとしつつ、製品を安定的に届けるためのやむを得ない対応だと説明している。今回の変化は、食品の価格や内容量ではなく、商品の外側にある包装の制約が表に出てきた事例といえる。
変わるのは中身ではなく、外側の設計
今回の動きでまず押さえたいのは、ケチャップの味や品質が変わる話ではない点だ。変わるのは主に外装の見た目である。
ただ、食品メーカーにとってパッケージは単なる袋やラベルではない。商品名、写真、色、イラストは、売り場で商品を見つけてもらうための目印であり、ブランドイメージにも直結する。カゴメのケチャップに描かれたトマトのイラストは、消費者が長く見慣れてきた要素でもある。
それでもデザインを変えるのは、包装資材や印刷インクの制約が、食品各社の包装・表示の見直しに表れているためだ。物価高のニュースでは価格や内容量に目が向きやすいが、今回はその手前にある「包装をどう維持するか」という問題が見えやすくなった。
白色インクはなぜ重要なのか
食品パッケージは、紙やフィルムに単純に色を載せているだけではない。透明フィルムや銀色の袋の上に商品名や写真、イラストをきれいに見せるため、複数のインクを重ねて印刷することが多い。
その中でも白色インクは、下地として使われる場面が多い。透明な素材や光を反射する素材の上に色を印刷する場合、白色を敷くことで、その上に載せる赤や黄色などの色がはっきり見えるようになる。白色インクは目立つ色ではなくても、パッケージ全体の発色を支える役割を持っている。
この白色インクの調達が不安定になると、企業は色数を減らす、イラストを減らす、透明部分を増やす、表示を簡素化するといった対応を取りやすくなる。カゴメのケチャップでトマトの絵が減るのも、見た目への影響を抑えながらインク使用量を減らすための工夫と読める。
カルビーや日清製粉グループにも広がる対応
同じような対応は、ほかの食品メーカーにも広がっている。
カルビー(2229)は、ポテトチップスなど一部商品のパッケージを白黒や2色中心のデザインに変更している。報道では、ポテトチップス、かっぱえびせん、フルグラなど14商品が対象とされている。カラフルな売り場の印象が強いスナック菓子でも、包装の色数を抑える動きが出ている。
日清製粉グループ本社(2002)の傘下である日清製粉ウェルナでは、マ・マー スパゲティ製品や乾麺に使う印刷入り結束テープについて、順次、印刷のない無地の結束テープに変更すると案内している。結束テープ以外の製品仕様に変更はなく、調理時はパッケージに記載されたゆで時間を確認する形になる。
日清製粉グループ本社の鈴木栄一常務は、5月14日の決算発表の会見で、すべての商品について安定供給を第一に優先順位を考えて対応していると説明した。今後は、包装材の変更や商品の集約なども検討していく考えを示している。
カゴメは東証プライムと名証プレミアに上場し、カルビーと日清製粉グループ本社はいずれも東証プライム市場に上場している。今回の動きは、個別企業の小さなデザイン変更だけでなく、食品業界が包装資材の制約にどう向き合うかという話でもある。
背景にあるのはナフサや石油化学製品の不安定さ
インク不足の背景には、中東情勢を受けた石油化学製品の調達不安がある。包装材や印刷インクには、石油由来の原料が関係している。
その一つがナフサだ。ナフサは原油を精製する過程で得られる原料で、プラスチック、合成樹脂、溶剤、インク関連素材などの出発点になる。食品そのものの原料ではなくても、容器や包装、印刷に関わる部分では、こうした石油化学製品の影響を受けやすい。
今回は、その影響が食品の中身ではなく、まず包装材や印刷インクに表れている点が特徴だ。消費者が店頭で目にする商品の見た目は、原料調達、包装材、印刷工程といった見えにくい供給網につながっている。
値上げの前に、まず包装が変わる
消費者にとって、今回の変化は価格改定よりも気づきにくいかもしれない。店頭で見慣れたパッケージの色が少し減る、イラストが小さくなる、表示が簡素になる。そうした変化は、値札の上昇ほど直接的ではない。
しかし企業側から見れば、包装の変更は簡単な対応ではない。売り場での目立ち方が変わり、ブランドの印象にも影響する。食品メーカーがそこに手を入れていることから、原材料や包装資材の制約が、実際に包装変更へ踏み切る段階にあることがうかがえる。
カゴメのケチャップ、カルビーのポテトチップス、日清製粉ウェルナのパスタ結束テープは、いずれも「中身を変えずに供給を維持するため、外側を変える」動きとして見ることができる。
売り場の変化は供給網を映す
今回のニュースは、地政学リスクがエネルギー価格だけでなく、食品の見た目や売り場の風景にまで影響することを示す身近な例だ。
ケチャップのトマトの絵が減るという変化は、一見すると小さなデザイン変更に見える。しかし、その背景には中東情勢、ナフサ、印刷インク、包装資材、食品メーカーの安定供給という複数の要素がつながっている。
食品の価格や内容量だけでなく、これからはパッケージの色や表示の変化にも、企業が供給を守るためにどのような工夫をしているのかが表れる可能性がある。売り場で見慣れたデザインの変化は、生活に近いところで起きているサプライチェーンの変化を知る手がかりにもなる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

