政府は、原油や石油製品について「必要な量は確保できている」と説明している。だが、塗装工事の現場ではシンナーや塗料の調達不安が広がり、食品や物流に関わる包装資材にも懸念が出ている。石油は不足していないとされるのに、なぜ現場では足りないと感じられるのか。
経済産業省の赤澤大臣は2026年4月24日、連合の芳野会長と会談し、石油関連製品の安定供給をめぐる不安について、流通の「目詰まり」解消に全力で取り組む考えを示した。連合側は、状況が長引けば2027年春闘にも影響が及ぶ懸念があるとして、正確な情報発信や雇用維持に向けた支援を求めている。
政府の説明と現場の実感はなぜズレるのか
中東情勢の緊迫化を受け、原油やナフサなど石油関連製品の調達先に不安が広がっている。それでも政府は、日本全体として必要な量は確保できているとの立場をとる。代替調達や備蓄対応などの供給確保策を通じ、総量としての不足は避けられているという説明だ。
一方で、産業の現場では別の問題が起きている。塗装工事業者からはシンナーや塗料が入手しにくいとの声があり、包装資材など石油化学製品にも調達不安やコスト上昇への警戒がある。「足りているのに届きにくい」という状況は、総量の話だけでは説明できない。
鍵になるのは、石油関連製品のサプライチェーンが長く複雑であることだ。原油の輸入から始まり、精製、化学原料への加工、商社や卸を経た販売、最終需要家への納入という多段階の流れをたどる。途中の段階で供給見通しへの不安が高まれば、出荷を絞る、既存の大口顧客を優先する、在庫を手元に残すといった防衛的な行動が起きやすくなる。
その結果、国全体では必要量が確保されていても、末端の中小企業や現場の事業者に必要な製品が届きにくくなる。経産省はこうした状態を「流通の目詰まり」と説明している。
問題はガソリン価格だけではない
石油問題というと、ガソリンや灯油の価格を思い浮かべやすい。しかし今回の不安は、燃料価格だけにとどまらない。
重油は工場や船舶の燃料に使われる。ナフサは石油化学製品の原料であり、そこからプラスチック、包装資材、塗料、シンナー、合成繊維、ゴム製品などが作られる。石油関連製品の調達不安は、建設、自動車整備、物流、食品包装、製造業など幅広い分野に波及しうる。
連合が政府に要請書を提出したのも、この文脈にある。連合は労働組合の中央組織であり、企業が燃料や資材を安定調達できなくなれば、生産や工事の遅れ、受注減、利益圧迫を通じて、雇用維持や賃上げにも影響が出かねないとみている。
芳野会長が会談で、状況が長引けば来年の春闘にも影響が及ぶ懸念があると述べたのは、石油関連製品の問題を単なる物価問題ではなく、働く人の賃金交渉や雇用環境に関わる問題として見ているためだ。
政府は流通の調整役に動いている
経産省は、供給量の確保だけでなく、国内流通の調整にも乗り出している。溶剤などの関係事業者に対して安定供給への協力を要請し、最終需要家へ偏りなく供給されるよう取引先への対応も促している。
象徴的なのがシンナーの事例だ。経産省の説明では、川上側の石油化学メーカーが原料供給を続けていても、川中のメーカーや卸の段階で将来不安が強まれば、出荷調整や在庫確保が起きる。すると、実際に必要としている塗装事業者などの現場に届きにくくなる。
この場合、問題の本質は単純な供給量不足ではなく、供給見通しへの不安がサプライチェーンの途中で増幅されることにある。政府が個別相談や情報提供窓口を通じて詰まり箇所を把握しようとしているのは、こうした構造を前提にしている。
赤澤大臣は4月24日の会談で、相談があれば解消に向けて取り組む趣旨の発言をしている。政府は個別の目詰まりを一つずつ確認し、供給先まで届くよう調整する姿勢を示している。
「足りている」は本当か、疑ってもよいか
「政府が足りると言っても現場では足りない」という状況に対し、結局は不足しているのではないかと感じる人もいるだろう。
この疑問は自然だ。ただ、現時点で政府が強調しているのは、国全体の必要量は確保されている一方で、一部の流通段階に偏りや目詰まりがあるという整理だ。物理的な総量不足であれば追加調達や備蓄対応が直接的な対策になるが、流通段階の目詰まりであれば、情報発信、取引先間の調整、必要な需要家への供給確認が重要になる。
現場の不安が長引けば、目詰まりは深刻になりやすい。将来の供給が読めないと、各段階で在庫を抱えたり出荷を慎重にしたりする動きが出るからだ。解消の前提は、供給見通しを具体的に示し、不安による出荷抑制や過度な在庫確保を抑えることにある。
春闘への影響は現実になるのか
連合が懸念するように、今回の状況が2027年春闘に影響するかどうかは、今後の長さと広がり次第だ。
現時点では、影響の出方は品目や業種によって差がある。ただし、中東情勢の緊迫化が長引き、流通の目詰まりが解消されないまま資材調達の困難が続けば、製造コストや工事費用の上昇が企業収益を圧迫し、賃上げの余力に影響する可能性は残る。
今回の連合の動きは、石油関連製品の問題を「ガソリン価格」だけでなく、「雇用と賃金の問題」として捉え始めたことを示している。石油危機の影響は、店頭価格だけで測れるものではない。
目詰まりをほどく地味な作業が焦点になる
政府の「石油は足りている」という説明は、総量としての供給を指している。一方で、現場の「足りない」という実感は、必要な製品が必要なタイミングで届かないという流通上の問題を指している。この二つは同時に成り立つ。
サプライチェーンが長くなるほど、情報と物資は同じ速さでは動かない。供給不安が広がれば、途中の事業者は自社や既存顧客を守るために慎重に動く。その結果、末端の現場ほど不足感が強まりやすい。
今の局面で求められるのは、危機感をあおることではなく、どの品目が、どの流通段階で、どの需要家に届きにくくなっているのかを確認する作業だ。石油関連製品の安定供給は、国家備蓄や代替調達だけでなく、サプライチェーンの途中にある目詰まりをほどく地道な調整にも左右される。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

