中国の自動車産業で、国内市場の減速と輸出拡大が同時に進んでいる。
2026年1〜3月の中国の自動車輸出台数は222万6000台となり、前年同期比で56.7%増えた。電気自動車などの新エネルギー車に限れば、輸出は2.2倍に拡大している。一方、同じ期間の中国国内の新車販売台数は前年同期比20.3%減、新エネルギー車の国内販売も23.8%減となった。
この対照的な動きが、2026年4月24日に北京で開幕した北京モーターショーの背景にある。展示会は単なる新型車発表の場ではなく、中国メーカーが国内の過当競争を越えて、世界市場でどう戦うかを示す場になっている。
北京モーターショーで見えた中国EVの競争軸
北京モーターショーには、世界各国の自動車メーカーや部品メーカーが参加し、最新のEVなど1400台余りが展示された。
中国EV最大手のBYD(比亜迪、香港:1211/深圳:002594)は、ミニバンタイプのコンセプトカーを発表したほか、マイナス30度の環境でも短時間で充電できるとするシステムを披露した。寒冷地での充電性能は、EV普及の弱点として指摘されてきた部分である。BYDはその弱点を、価格以外の競争軸に変えようとしている。
スマートフォン大手のシャオミ(小米集団、香港:1810)も、長距離を高速で走れるとするEVのコンセプトカーを発表した。スマートフォン企業として知られてきた同社が、自動車分野で存在感を高めていることは、中国EV競争が電池や車体だけでなく、ソフトウェア、AI、ユーザー体験の競争に移っていることを示している。
今回の展示会で目立つのは、EVそのものの普及段階を越えた次の競争だ。充電、寒冷地性能、AI運転支援、車載ソフトウェアをどう組み合わせるかが、中国メーカーのアピールポイントになっている。
国内市場の減速が輸出拡大を促している
中国国内の自動車市場は、2025年には政府の買い替え補助金や税制優遇を背景に好調だった。国内での新車販売は前年比6.7%増の2730万台余りとなり、過去最高を記録した。
しかし、支援策による買い替え需要が一巡し、新エネルギー車向けの税制優遇も縮小されたことで、2026年に入ると反動が出ている。1〜3月の国内新車販売は前年同期比20.3%減となり、新エネルギー車も23.8%減少した。
さらに、中国市場では値下げ競争が激しい。EVメーカーが乱立し、シェアを奪い合うために価格を下げ続ければ、販売台数が伸びても利益を確保しにくくなる。国内市場の減速と価格競争は、中国メーカーが海外に活路を求める一因になっている。
BYDは2026年の海外販売目標を前年比25%増の130万台に設定したと伝えられている。吉利汽車(ジーリー、香港:0175)は、AIを活用して燃費を1リットルあたり約45キロまで改善したとする新しいハイブリッドシステムを打ち出し、日本車が強い海外市場での競争力を高めようとしている。
中国EVの輸出攻勢は、単に「安い車を海外に出す」話ではない。国内で磨かれた価格競争力、電池技術、ソフトウェア実装力を、東南アジア、中南米、欧州、中東などに広げる動きである。
日本メーカーも中国を活用し始めた
中国を輸出や開発の拠点として使う動きは、中国メーカーだけではない。日本や欧州の大手メーカーにも広がっている。
日産自動車(東証:7201)は、中国で開発・生産したEV「N7」をラテンアメリカとASEAN向けに輸出する方針を示した。イヴァン・エスピノーサ社長は、中国で開発される製品の強みとして、短期間で高い技術力と競争力のあるコストを実現できる点を挙げている。
ホンダ(東証:7267)も、中国で生産したEVを日本向けに輸出・販売する取り組みに乗り出した。かつて日本から海外へ輸出していた自動車産業が、中国で開発・生産した車を日本市場に戻す局面を迎えている。
フォルクスワーゲン(Xetra:VOW3)も、2030年までに中国でグループ傘下ブランドを含む数十種類のEVなどを販売する計画を進めている。中国は巨大な販売市場であるだけでなく、開発スピード、部品供給網、ソフトウェア実装力を取り込む拠点としての意味を強めている。
日本メーカーにとって、中国はもはや「日本車を売る市場」だけではない。競合であり、同時に活用すべき生産・開発拠点でもある。この二面性が、今後の戦略を難しくしている。
欧米の警戒は価格だけではない
中国製EVの輸出拡大に対し、欧米では警戒も強まっている。
EUは、中国から輸入される低価格EVが欧州の自動車産業に損害を与えるおそれがあるとして、既存の10%関税に加えて最大35.3%の追加関税を課している。欧州にとって中国製EVは、消費者には安い選択肢である一方、自国の自動車産業には強い圧力になる。
米国でも、中国製EVへの高関税に加え、中国の技術を使ったコネクテッドカーへの規制が進んでいる。車両ソフトウェアは2027年モデルから、関連ハードウェアは2030年モデルから規制対象になるとされる。
欧米が懸念しているのは、価格の安さだけではない。車載通信機能を通じたデータ収集、安全保障、サプライチェーン依存も論点になっている。中国製EVは「安い車」というだけでなく、産業政策と地政学リスクを含む製品として扱われ始めている。
一方、中国メーカーがシェアを広げている東南アジアでは、すでに値下げ競争が始まっているとの指摘もある。輸出先でも価格競争が激しくなれば、中国国内と同じように収益が圧迫される可能性がある。
原油高は追い風になり得るが、利益は別問題
北京モーターショーの開幕時点では、イラン情勢を受けた原油価格の高止まりも注目されている。ガソリン価格が上がれば、燃料費を抑えやすいEVやハイブリッド車への関心は高まりやすい。
この点は、中国メーカーにとって輸出拡大の追い風になり得る。ただし、需要が増えることと、利益を確保できることは別の問題である。海外市場でも値下げ競争が起きれば、販売台数が増えても収益改善につながるとは限らない。
北京モーターショーの本当の論点
北京モーターショーを「中国の最新EVを見る場」としてだけ捉えると、今回の意味を見落とす。
本当の論点は、中国EV産業が国内市場の減速と過当競争に直面しながら、世界市場への輸出攻勢を強めていることだ。その流れに、日本や欧州のメーカーも巻き込まれつつある。
中国は、EVを大量に作る国であるだけでなく、開発スピード、電池、ソフトウェア、AI運転支援を組み合わせて、自動車産業の競争条件そのものを変えつつある。
日本の自動車産業にとって重要なのは、中国を単なる脅威として見ることでも、単なる生産拠点として見ることでもない。競合であり、同時に活用すべき相手でもある。その両面をどう管理するかが、今後の課題になる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

