食糧法改正案を閣議決定 コメ安定供給へ動く3つの柱

政府は2026年4月3日、食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)の一部改正案を閣議決定した。今回の法改正の主眼は、2025年に表面化したコメの価格高騰と流通の混乱を踏まえ、平時から需給の変化をつかみやすくし、不足時により機動的に市場へ供給できる仕組みを整えることにある。改正案には、流通実態の把握強化、民間備蓄の制度化、「需要に応じた生産」の明記という3つの柱が盛り込まれた。

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なぜいま食糧法を見直すのか

2025年のコメ市場では、価格の上昇と品薄感が同時に広がった。政府は備蓄米を段階的に供給したが、農林水産省はその過程で、流通実態を的確に把握しきれていなかったことと、政府備蓄米の売渡手続に時間を要し機動性を欠いたことが課題として表れたと総括している。

この点は数字でも見える。農水省の2025年11月の資料では、一般競争入札で売り渡した政府備蓄米が国から小売まで届くまでに計27日から72日を要したと整理されている。随意契約でも平均22日から48日かかっており、「備蓄を持っていること」と「必要なときに店頭へ届くこと」が別問題だったことが浮かぶ。

一方、2026年3月23日の食糧部会資料では、令和6/7年の政府備蓄米供給量は36万玄米トン、2025年6月末の民間在庫量は155万玄米トンとされる。しかもこの在庫量には、すでに売り渡した政府備蓄米12万玄米トンが含まれている。市場全体の量だけではなく、どこにどれだけ滞留しているかをつかむ必要が浮き彫りになった格好だ。

改正案の3つの柱

1. 流通実態の把握を広げる

改正案では、これまで主に出荷・販売業者を対象としていた報告の枠組みを見直し、加工・中食・外食まで含めて流通実態を把握しやすくする方向が示された。コメの流れが多様化するなかで、川下まで含めた実態を見なければ需給の変化を早期に察知しにくいという問題意識が背景にある。

2025年の混乱では、「市場にコメがない」のか、「市場のどこかにあるが見えていない」のかを峻別しにくかった。流通把握の範囲を広げるのは、価格高騰や供給不安が起きたときに、対応の前提となる情報基盤を整える意味合いが大きい。

2. 民間備蓄を制度として位置付ける

今回の改正案のもう一つの軸が、一定規模以上の民間事業者にコメの備蓄を求め、政府備蓄を補完する仕組みを法律上位置付けることだ。政府が保有する備蓄米は、不足時の最後の手段として機能してきたが、売渡し決定から市場流通までに時間がかかる弱点があった。

これに対し、日常的に出荷や販売を担う民間事業者の商流を活用できれば、供給不足時の初動を速めやすい。農水省も、民間備蓄は「迅速な備蓄米の流通を可能とするために、政府備蓄を補完するもの」と説明している。ただし、どの事業者を対象にするのか、保管コストをどう扱うのか、運用ルールをどう設計するのかは今後の制度詳細に委ねられる。

3. 「需要に応じた生産」を法律に明記する

改正案は、生産政策の考え方も見直す。生産者が「需要に応じた生産」に主体的に取り組むことを、法律の中で位置付け直す方向だ。政府はこれを、需要の拡大に合わせて生産も広げていく発想として説明している。輸出や加工用、外食用まで含めて需要の受け皿を広げ、増産余地を確保していくという文脈だ。

ただ、この文言は読み方が分かれやすい。需要が伸びる局面では増産路線の根拠になりうる一方、需要が弱い局面では生産抑制の圧力として働くと受け止められる余地もある。かつての減反政策の記憶が残るなかで、この条文が現場にどう受け止められるかは国会審議でも重要な争点になりそうだ。

何が変わるのか

今回の法改正は、2025年の価格高騰への場当たり的な対応を、常設の制度へと組み替える試みだ。従来の備蓄制度は、不作や災害といった供給側のリスクへの備えが中心だった。これに対し、今回の見直しでは、需要量の増加などによる供給不足にも備蓄を活用しやすくする方向が打ち出されている。

つまり、食糧法は単に「不足時にコメを放出できる法律」から、「平時の流通把握」と「不足時の初動の速さ」まで含めて安定供給を支える法律へと役割を広げようとしている。食料安全保障を巡る政策が、数量確保だけでなく流通設計へ重心を移し始めたとみることもできる。

今後の焦点

今後の焦点は3つある。第1に、民間備蓄の対象事業者と負担の線引きだ。制度の実効性を高めようとすれば対象は広がるが、そのぶん民間のコスト負担も重くなる。第2に、流通実態の把握強化がどこまで実務に落ちるかだ。報告対象を広げても、データの粒度や更新頻度が粗ければ機動的な対応にはつながりにくい。第3に、「需要に応じた生産」が増産支援なのか、実質的な抑制路線なのかという解釈の揺れを、政府がどう埋めるかである。

2025年のコメ高騰は、一時的な混乱として片付けるには影響が大きかった。今回の食糧法改正案は、その反省を制度の形にしようとする最初の本格的な一歩といえる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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