ホルムズ海峡危機で日本の原油はどうなる——代替ルートと備蓄でつなぐ綱渡りの現実

ガソリン代は上がるのか。物流コストはさらに重くなるのか。中東情勢が緊迫するたびに、日本ではこうした不安が広がる。今回のホルムズ海峡危機でも、家計や企業活動への影響はすでに意識され始めている。

ただ、ここで押さえておきたいのは、日本向けのエネルギー供給が「完全に止まった」わけではないということだ。経済産業省は2026年4月3日時点で、代替ルート経由の原油調達が5月以降に本格化するとの見通しを示している。備蓄放出も進んでいる。今の日本は、供給を止めないために時間をつなぎ、輸送経路を組み替えている段階にある。

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なぜホルムズ海峡がそこまで重要なのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ世界有数のエネルギー輸送の要衝だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年には原油と石油製品を合わせて日量約2000万バレルがこの海峡を通過した。世界の海上石油貿易の約4分の1に相当する規模で、代替ルートは限られている。

日本にとって問題が大きいのは、中東依存の高さだ。資源エネルギー庁のエネルギー白書2025は、日本が輸入する原油の約9割を中東地域に依存していると整理している。中東から来る原油の多くがホルムズ海峡を通る以上、この海峡の混乱はそのまま日本のエネルギー安全保障の問題になる。

代替ルートはあるが、十分ではない

危機下でも原油を全く運べないわけではない。実際に使われている迂回ルートの代表格は二つある。

一つは、サウジアラビア東部から紅海側のヤンブーへつなぐ東西パイプラインだ。ホルムズ海峡を通らずに紅海側へ原油を送り出せるため、危機時の重要な逃げ道になる。

もう一つは、UAEのアブダビ油田地帯からフジャイラ港へつながるパイプラインである。フジャイラはオマーン湾に面し、ホルムズ海峡の外側にあるため、ここからの積み出しは理論上ホルムズを回避できる。

ただし、ここで安心はできない。IEAは2026年2月時点で、サウジとUAEの代替ルートを合計しても、振り替え可能な余力は日量350万〜550万バレル程度にとどまるとみている。ホルムズ海峡を通る量すべてを置き換えられるわけではない。つまり代替ルートは「穴埋め」にはなっても、「完全代替」ではない。

さらに、日本企業や政府が北米・中南米など中東以外からの調達を探る動きも出ている。ただ、距離が長く輸送日数もかかるうえ、日本の製油所が主に扱ってきた中東産原油とは油種が異なる場合がある。調達先を増やせばすぐ元通り、という単純な話ではない。

「5月以降に本格化」が意味すること

経産省が示す「5月以降に本格化」という見通しは、危機対応の現実をよく表している。原油は契約して終わりではなく、船腹確保、積み出し、海上輸送、受け入れまで時間がかかる。代替調達が決まっても、日本の製油所に届くまでには数週間単位のタイムラグがある。

その空白を埋めているのが石油備蓄だ。資源エネルギー庁の統計では、2026年3月16日時点で、日本は国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を合わせて241日分の石油を確保していた。経済産業省は3月24日、石油備蓄法に基づき、約850万キロリットルの国家備蓄原油を3月26日以降順次放出すると決めている。

この備蓄は「危機が来ても平気」という意味ではない。むしろ、代替ルートや追加調達が立ち上がるまでの時間を買うための緩衝材だ。今の日本は、備蓄放出で急場をしのぎながら、輸入経路の組み替えを進めている。

代替ルートにも別のリスクがある

代替ルートが使えるとしても、それで安全が確保されるわけではない。

まず、サウジの紅海ルートにはフーシ派の脅威がある。米海事当局MARADは2026年の advisory で、紅海、バブ・エル・マンデブ海峡、アデン湾周辺の商船に対する攻撃リスクがなお高いと警告している。航路が開いていても、保険料や警備コストの上昇は避けにくい。

次に、フジャイラ側も無傷ではない。2026年3月には、フジャイラの石油関連地帯付近で無人機迎撃後の被害が伝えられた。ホルムズを通らないから安全、という単純な構図ではなくなっている。

結局のところ、危機時の原油輸送は「通れるか」「積めるか」だけではなく、「安全に運べるか」「保険を付けられるか」「追加コストを吸収できるか」という問題と一体で動く。

原油は量だけでなく「質」も重要だ

見落とされがちだが、原油はどれも同じではない。日本の製油所は、長年にわたって中東産の代表的な油種を前提に運用されてきた。そこへ北米や中南米など別の地域の原油を増やすと、精製条件や収率の調整が必要になる場合がある。

つまり、危機対応では「調達できるか」だけでなく、「日本の設備でどれだけ無理なく処理できるか」も重要になる。原油の種類が変われば、コスト構造も変わりやすい。

家計や企業にどこから響くのか

影響が比較的出やすいのは、まずガソリンや軽油、物流コスト、石油化学原料の分野だ。輸送コストの上昇、保険料の上昇、原油そのものの価格上昇が重なると、燃料価格だけでなく、包装材や日用品、食品物流にもじわじわ波及しやすい。

一方で、電気や都市ガスへの影響は、原油より時間差を伴いやすい。LNGの輸送や燃料費調整の仕組みを通じて効いてくるため、すぐ同じ形で表れるとは限らない。ただ、日本関連のLNG船を含む一部船舶の通航が4月3日時点で報じられており、情勢は「全面停止」と「平常運転」の中間にある。

いま起きているのは「停止」ではなく「高コストの継続運用」

日本の原油供給は、いまのところ完全には止まっていない。だが、平時に戻ったとも言えない。備蓄放出、代替ルート、調達先の多角化によって供給をつないでいる一方、そのすべてにコストとリスクが上乗せされているからだ。

5月以降、代替調達が本格化すれば、目先の供給不安はいくらか和らぐ可能性がある。ただ、それは危機が終わるという意味ではない。ホルムズ海峡の緊張、紅海の安全性、湾岸インフラへの攻撃リスクが残る限り、日本は「止まらないように走り続ける」状態を続けることになる。

今回の危機が示しているのは、日本のエネルギー問題が単なる資源価格の話ではなく、輸送路、保険、製油所の適合性、備蓄制度まで含めた総合的な安全保障の問題だということだ。


本稿は各種公開情報をもとに作成しました。数値や情勢は2026年4月4日時点の確認可能な情報に基づきます。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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