商社が「都市鉱山」争奪へ──伊藤忠は電子機器、豊田通商は自動車で資源循環を強化

スマートフォンやパソコン、廃車になった自動車の中には、金や銅、アルミ、レアアースなどの資源が眠っている。使用済み製品を”鉱山”に見立てて再資源化する「都市鉱山」は、これまで環境対策やリサイクルの文脈で語られることが多かった。だが足元では、大手商社が資源確保と供給網再編の観点から、この領域に本腰を入れ始めている。

背景にあるのは、重要鉱物の調達を巡る不確実性の高まりだ。EV、半導体、データセンターなどの拡大で金属需要は増え続ける一方、採掘や精錬の偏在は依然として大きい。そこで商社各社は、海外鉱山の権益確保だけでなく、使用済み製品の回収と再資源化を通じて、循環型の調達網を押さえる動きを強めている。

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なぜ今、都市鉱山なのか

都市鉱山とは、都市に蓄積された使用済みの電子機器や自動車、家電などに含まれる金属資源を鉱山になぞらえて捉える考え方だ。対象は金や銀、銅のような一般的な金属だけではない。スマートフォンやモーター、磁石などに使われるネオジムやジスプロシウムといったレアアースも、回収対象として注目される。

日本では、使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律、いわゆる小型家電リサイクル法が2013年4月に施行された。環境省と経済産業省が公表した令和2年度実績では、市町村と認定事業者が回収した小型家電は10万2489トンと、法施行後で最多だった。一方で、政府は令和5年度までに年14万トンの回収を目標に掲げてきた。制度は整ってきたものの、回収余地がなお大きい市場であることも示している。

ここに商機を見いだしているのが商社だ。従来の資源ビジネスは、鉱山権益や金属トレード、製造業向けの供給網構築が中心だった。これに対し都市鉱山は、回収、選別、再販、再資源化を一体で設計できる。資源価格の高騰や地政学リスクに備えながら、循環型の調達網を押さえる手段として意味が増している。

伊藤忠商事は IT 機器の再資源化を事業化する

伊藤忠商事(8001)は2026年3月24日、米電子機器リサイクル大手 Electronic Recyclers International(ERI)との資本・業務提携と、合弁会社「ERI Japan」の設立方針を発表した。提携の受け皿になるのは、中古モバイル端末の流通事業を手がける伊藤忠の完全子会社 Belong だ。

伊藤忠の公表によると、ERI Japan は2026年4月ごろの設立を予定し、日本で幅広い IT 機器のリサイクル事業を展開する。伊藤忠は ERI への一部出資も計画しており、日本だけでなく米国も含めて「高度なサーキュラー技術を活用した循環型 IT 機器事業」の構築を目指す。

ERI は米国内8拠点で ITAD 事業と電子機器リサイクルを手がける企業だ。ITAD は、企業などが使い終えた IT 資産を適切に回収し、データ消去や再販、再資源化につなげる仕組みを指す。ERI はデータ破壊からシュレッディング、再販、リサイクル、物流、規制対応までを一気通貫で担い、AI画像認識やロボットアームを活用した選別技術も強みとする。

伊藤忠にとって重要なのは、中古端末の流通で培った Belong の再販網と、ERI の再資源化ノウハウをつなげられる点だ。中古端末の再流通で価値を引き出しきれない機器も、再資源化ルートを持てば収益化の幅が広がる。単なる廃棄物処理ではなく、再使用と再資源化をまたぐ事業モデルとして組み立てようとしている。

豊田通商は自動車由来の資源回収網を北米で押さえる

豊田通商(8015)は2025年7月11日、米 Radius Recycling の全株式取得を完了し、完全子会社化したと発表した。買収は完全子会社の Toyota Tsusho America を通じて実施された。

Radius は米オレゴン州ポートランドに本社を置く北米有数のリサイクル企業で、米国、カナダ、プエルトリコに100か所超の拠点網を持つ。自動車解体施設や金属リサイクル施設に加え、オレゴン州には電炉も保有する。鉄スクラップや非鉄金属の回収・加工に強く、廃車由来の資源回収でも存在感が大きい。

豊田通商は半世紀以上にわたり、金属スクラップのリサイクルや使用済み自動車からの資源回収を通じて「リサイクルベースの社会」づくりを進めてきたと説明する。今回の買収についても、Radius の拠点網と豊田通商の循環型サプライチェーン構築力を組み合わせることで、北米で高品質な再生材の供給を強化し、製造業の脱炭素化を後押しする狙いを打ち出している。

ここでの焦点は、単に金属スクラップを集めることではない。自動車は鉄やアルミだけでなく、モーター、配線、電装部品、将来的には電池関連資源まで含む複合的な資源の塊だ。豊田通商は、解体から選別、再資源化、再生材供給までを押さえることで、自動車産業の循環型調達網を厚くしようとしている。

商社2社の違いは「電子機器」と「自動車」にある

伊藤忠と豊田通商の動きは、どちらも都市鉱山を押さえる戦略だが、狙う入口は異なる。伊藤忠はスマートフォンやパソコンなど IT 機器に軸足を置き、再販と再資源化の接続を強めようとしている。豊田通商は廃車と金属スクラップを軸に、自動車産業の循環型サプライチェーンを広げようとしている。

この違いは、そのまま商社の得意分野の違いでもある。伊藤忠は消費者接点のある端末流通やリユースを起点にしやすい。豊田通商は自動車産業との強い結び付きがあり、解体、再生材、部材供給までを面で押さえやすい。都市鉱山は一つの巨大市場に見えても、実際には回収対象ごとに必要なネットワークとノウハウが大きく異なる。

都市鉱山は「輸入代替の切り札」ではなく、調達網を厚くする手段だ

都市鉱山への期待は大きいが、これだけで輸入鉱物を置き換えられるわけではない。回収率、選別精度、再資源化コスト、逆物流の整備といった課題はなお重い。とくに小型電子機器は家庭内に退蔵されやすく、制度があっても回収量がすぐ伸びるとは限らない。

それでも商社がここに賭ける理由は明確だ。使用済み製品の回収網を持つことは、将来の資源調達ルートを持つことに近い。市況や国際関係に左右されやすい新鉱石依存だけではなく、循環資源を自前の供給網の中に取り込むことが、事業安定性と競争力の両方に効いてくる。

都市鉱山は、資源安全保障を一気に解決する万能策ではない。だが、電子機器と自動車の両面で商社が回収網と再資源化網を押さえ始めたことは、資源ビジネスの重心が「掘る」だけでなく「回す」に移り始めたことを示している。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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