トランプ大統領「今後2〜3週間、石器時代に逆戻りさせる」——イラン攻撃継続宣言と原油高・株安が示す出口なき戦争

アメリカのトランプ大統領は4月1日(日本時間2日)、国民向け演説を行い、対イラン軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー(壮絶な怒り作戦)」について「核心的な戦略目標がほぼ達成されつつある」と勝利接近を主張した。しかし同じ演説のなかで「今後2〜3週間、極めて激しい打撃を与える。石器時代に逆戻りさせる」とも述べた。ホルムズ海峡の通航不安の長期化、供給正常化の見通しの不透明さ、戦況の長期化観測が重なるなか、市場は原油急騰・株安で反応した。エネルギーの9割超を中東に依存する日本にとって、供給正常化の道筋が見えないまま時間が経過することは、ガソリン価格にとどまらず、石化原料のナフサや電力・ガスコストを通じて産業・家計へと広く波及していく。


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「ほぼ達成」なのになぜ「さらに攻撃」するのか

作戦開始から1か月が経過したと強調したトランプ大統領は、今回の演説でイランに対する軍事的な成果を具体的に列挙した。「革命防衛隊の指揮統制は崩壊しつつある」「イランの海軍も空軍も壊滅した」「ミサイル能力はほぼ使い果たされた」「B2爆撃機で核施設を壊滅させた」——言葉は強烈だ。

だが、これらはあくまでもアメリカ政権側の主張である。現時点でイラン軍の壊滅やミサイル能力の喪失は独立した機関によって検証されておらず、イラン側は演説当日も「イスラエルに対して最も激しいミサイル攻撃を行った」と反論している。APやロイターは今回の演説を、戦争終結のタイムラインをほとんど示さず供給正常化の道筋も見えなかったと伝えた。

もし本当に戦略目標がほぼ達成されつつあるなら、なぜさらに2〜3週間の激しい攻撃が必要なのか。この問いに演説は答えていない。


合意なければ発電所を攻撃——交渉の出口も見えず

トランプ大統領は演説のなかで、「この期間中に合意が成立しなければ、彼らの発電所を1つ残らず、おそらく同時に徹底的に攻撃する」と警告した。発電所など民間エネルギーインフラへの攻撃は国際人道法上の問題が指摘されやすく、国際社会からの批判を招くリスクも高い。

また演説では「協議は続いている」「体制転換はわれわれの目的ではなかった」とも述べたが、停戦に至る具体的な条件は示されなかった。ロイターはこの演説について、終結のタイムラインをほとんど示さず未解決の論点が残ったと報じている。停戦の条件が見えなければ、交渉も市場も手がかりを失う。


ホルムズ海峡とは何か——世界の原油の2割が通る咽喉部

今回の情勢で繰り返し登場する「ホルムズ海峡」とは、ペルシャ湾と外洋(オマーン湾)をつなぐ幅約50〜60キロの海峡で、世界で最も重要な海上輸送の要衝のひとつだ。アメリカ・エネルギー情報局(EIA)によると、2025年上半期には同海峡を通過する石油が1日あたり約2,090万バレルに達し、世界の石油消費量の約20%に相当する。サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、カタールなど湾岸諸国が輸出する原油やLNG(液化天然ガス)の多くがここを通る。代替ルートは限られており、この海峡が詰まると原油・LNG・石油製品の輸送に広範な影響が出る。

経済産業省は3月時点の整理として、原油タンカーがホルムズ海峡を事実上通れない状況が継続しているとしている。トランプ大統領も演説で、イランが「紛争とは直接関係のない近隣諸国の商業用タンカーに攻撃を仕掛けている」と述べた。

一方、トランプ大統領は「ホルムズ海峡を通じて石油を得ている国々は、自らが主導して航路を確保すべきだ」とも語り、海峡再開にアメリカが単独で責任を持つことには消極的な姿勢をにじませた。この発言もまた、市場が安心材料として受け取れない理由のひとつとなった。


原油急騰・株安——市場が読んだ「出口のなさ」

演説後のアジア時間の取引で、金融市場は勝利接近の言葉より現実を映した。APの報道によると、ブレント原油は約6.9%上昇して1バレル108.15ドル前後、WTI原油も6.4%上昇して106.55ドル前後をつけた。日経平均株価は2.4%安で推移した。

市場が注目していたのは「強い言葉」そのものではなく、供給障害がいつ、どのような形で解消されるかという見通しだ。ところが演説は「さらに攻撃を続ける」「条件は曖昧なまま交渉中」「海峡再開は他国が主導すべき」という内容に終始し、供給正常化の時間軸が見えなかった。原油が買われ、株が売られた背景には、こうした先行き不透明感がある。


日本への影響——ガソリンから始まる連鎖

日本は原油輸入の9割超を中東に依存している。経済産業省のエネルギー基本計画でも、この高い依存度は長年の構造的課題として明記されてきた。ホルムズ海峡の通航障害が続くと、日本経済にはいくつかの段階で影響が及ぶ。

まず速度が速いのは燃料価格だ。原油価格の上昇は直接、ガソリン・軽油・灯油の値上がりにつながる。次いでLNG価格の上昇が電力・ガス料金を押し上げ、石化原料のナフサが高騰すれば、樹脂・包装材など製造業の素材コストが広く連動して上がる。物流費の上昇も加わると、製造業の収益を圧迫するだけでなく、食品・日用品など家計直撃の値上がりへとつながっていく。

政府・与党は直ちに欠品が生じる段階ではないとの認識を示している。自民党の小林政調会長は「石油やナフサがただちに供給不足に陥る状況にはないが、一部で目詰まりが生じつつある」と述べた。日本は国家備蓄と民間備蓄を積み上げており、短期的な供給遮断には一定の緩衝機能がある。だが、価格は備蓄では抑えられない。通航障害が長引けば、まず価格と物流コストに影響が出て、その後に供給面の問題が顕在化するという順番になる可能性がある。

木原官房長官は「ホルムズ海峡における航行の安全確保は極めて重要」と強調しつつ、「トランプ大統領が言及しているイランとの協議がよい方向に向かうことを期待している」と述べた。茂木外務大臣も「停戦がなされても、イランが封鎖を続けるのであれば国際社会から大きな批判を受ける」と語った。外務省幹部は「驚く話はなかった」と話すが、その言葉が示す通り、演説で新たな局面が開かれたわけではない。変わったのは、「まだ2〜3週間は続く」という見通しが公式に示されたことだけだ。


終わらない理由と、終わらせるための条件

イランの中央司令部の報道官は演説後、声明で「戦争はあなたたちの恒久的な屈辱と降伏に至るまで続く」と表明した。革命防衛隊系のタスニム通信は「イランの海軍力が破壊されたなら、なぜホルムズ海峡は今も開いていないのか」「ミサイル能力が壊滅したなら、誰がイスラエルに今夜これほどのミサイルを撃ち込んだのか」と、米側の戦果主張を一つ一つ反論した。

停戦に向けた具体的な条件——たとえばイランの核開発の扱い、制裁の行方、ホルムズ海峡の再開確認手段——は依然として公式に示されていない。「ほぼ達成された」という言葉が本当なら、残るのはその条件を詰める外交の作業のはずだが、演説はそこに踏み込まなかった。

今後2〜3週間、世界のエネルギー価格と金融市場は、戦争の出口が見えるかどうかに左右され続ける。そしてその不透明さが長引くほど、日本の産業と家計へのじわじわとした圧力も積み上がっていく。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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