"FP Consulting for Troubled Business Owners: Examples of Business Succession and Inheritance Tax Measures"

相談事例

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【概要】

山田太郎さん(70歳)は、首都圏で地域密着型のコーヒーチェーン「Y Coffee Inc.」(非上場企業)を経営する腕利きの社長です。しかし、長年の忙しい経営生活の中で健康面への不安が募り、今後の人生や事業の未来について真剣に悩み始めています。太郎さんは、自身が築いてきた事業を信頼できる後継者である息子の山田健一さん(46歳、同社専務取締役)に引き継ぎたいと考えていますが、実際の株式移転は未だ進展しておらず、市場の変動や上場関連銘柄の値動きが自社株価にどのような影響を及ぼすのか、不安が絶えません。

また、相続税評価額の引き下げや事業承継の円滑化を目指して、役員退職金の支給が一つの解決策として浮上しています。しかし、具体的な支給額の算定方法や、どのような課税が適用されるのか、太郎さんは頭を悩ませています。会社のキャッシュフローを維持しながら、できるだけ多くの退職金を受け取りたいという希望と、会社経営の健全性を両立させる難しいバランスに苦心しているのです。

さらに、太郎さんは妻の山田花子さん(68歳)と入念な話し合いの末、現在所有する自宅を息子の健一さんに贈与し、住宅ローンも一緒に引き継いでもらうことで、花子さんとともに地方へ移住し新たな住居を取得する計画を立てています。長年連れ添った花子さんへの思いやりから、贈与税の配偶者控除を活用して、花子さん名義での不動産取得を希望しているのです。

また、太郎さんはこれまで自らが契約者および満期保険金受取人であった定期保険(保険金2,500万円)についても、長女の山田真紀さん(44歳)に手続きを委ねたいと考えています。家族間は良好なものの、花子さんが現預金や有価証券の大部分を、健一さんがY Coffee Inc.の株式を相続する場合、相続財産が一方に偏るのではという懸念も抱えています。

【山田太郎さんの所有財産の概要】

(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  • 現預金:1億2,000万円
  • 有価証券:5,000万円
  • Y Coffee Inc.株式:3億7,000万円
  • 自宅:
    • 土地(250㎡):4,500万円
    • 建物:600万円
    • 自宅合計:5,100万円
  • 借入金(住宅ローン):▲5,000万円

合計資産
1億2,000万円 + 5,000万円 + 3億7,000万円 + 5,100万円 = 5億9,100万円
※住宅ローン5,000万円を差し引いた純資産としての評価額は同等とします。

※太郎さんの相続に係る相続税額は、約1億2,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられています。
※自宅の時価は、土地:7,000万円、建物:1,800万円と評価されています。
※太郎さんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者・満期保険金受取人を太郎さん、死亡保険金受取人を真紀さんとする定期保険(保険金2,500万円)に加入しています。

【Y Coffee Inc.の概要】

  • 資本金:2,500万円
  • 会社規模:中小企業
  • 従業員数:65人
  • 売上高:15億円
  • 経常利益:6,000万円
  • 純資産:4億5,000万円
  • 株主構成(発行済株式総数5万株): 太郎さん100%
  • 株式の相続税評価額:
    ・類似業種比準価額:7,000円/株
    ・純資産価額:11,000円/株
    ※中小企業に該当するため、Lの割合は0.9とし、
    「類似業種比準価額」×0.9 + 「純資産価額」×0.1
    = (7,000円×0.9) + (11,000円×0.1) = 6,300円 + 1,100円 = 7,400円/株
    発行済株式総数50,000株の場合、7,400円×50,000=3億7,000万円となります。

【個別設問例】

【Q1】事業の未来と家族の相続についてさまざまな不安

太郎さんは、事業の未来と家族の相続についてさまざまな不安を抱えています。設例Bを踏まえて、顧客(太郎さん)の相談内容および問題点として、どのような点が考えられるでしょうか。

【ポイント】

  • 相談内容
    • 上場銘柄の値動きがY Coffee Inc.の株価に与える影響について
    • 役員退職金の支給額の決定方法
    • 役員退職金に対する課税の実態
    • 自宅を息子健一さんに贈与すること
    • 贈与税の配偶者控除を利用し、新たな自宅を花子さん名義で取得すること
    • 定期保険の契約者および満期保険金受取人の変更について
    • 相続財産が一方に偏る可能性と、円滑な相続のための留意点
  • 問題点
    • 納税資金の確保
    • 小規模宅地等の特例、相続税の配偶者控除、教育資金一括贈与等による相続税軽減策の適用

【Q2】子どもへの株式移転

太郎さんは、息子健一さんへの株式移転が進んでいない現状に大きな不安を感じています。この状況を打開するためには、どのような提案が考えられるでしょうか。

【A2】
法人版事業承継税制の特例措置の適用を提案します。
この制度は、後継者が円滑化法の認定を受けた非上場企業の株式を贈与または相続等により取得した場合、一定の要件の下で贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等により免除される仕組みです。

【Q3】贈与による事業承継税制の特例措置の適用

太郎さんが安心して事業承継を進めるためには、贈与による事業承継税制の特例措置の適用が鍵となります。具体的に、どのような手続きが必要か説明してください。

【A3】

  • 2027年4月末日までに「特例承継計画」を作成・提出し、都道府県知事の確認を得る。
  • 2028年12月末日までに、Y Coffee Inc.株式の全部または一定割合を後継者である健一さんに贈与する。
  • 承継後、5年間の報告義務があり、年次報告書(都道府県庁提出)および継続届出書(税務署提出)が必要。

【Q4】Y Coffee Inc.の株価評価方法

太郎さんは、自社株の正確な評価が事業承継の鍵を握ると考えています。Y Coffee Inc.の株価評価方法について、具体的な計算過程を含めて説明してください。

【A4】
Y Coffee Inc.は中小企業に該当するため、Lの割合は0.9として、
「類似業種比準価額」×0.9 + 「純資産価額」×0.1 により株価評価が行われます。
具体的には、

  • 類似業種比準価額:7,000円/株 → 7,000円×0.9=6,300円/株
  • 純資産価額:11,000円/株 → 11,000円×0.1=1,100円/株

合計で1株あたり7,400円となり、発行済株式総数50,000株の場合、7,400円×50,000=3億7,000万円となります.

【Q5】主要株価指数などの市場動向と株価評価

主要株価指数などの市場動向が、太郎さんの経営するY Coffee Inc.の株価評価にどのような影響を与えるか、具体的に説明してください。

【A5】
類似業種比準価額方式を採用しているため、同業上場企業の株価が変動すると、それに連動してY Coffee Inc.の評価額も変動する可能性があります。

【Q6】役員退職金を多く受けとる際のリスク

太郎さんは、将来的に役員退職金を多く受け取りたいと考えていますが、その場合どのようなリスクが伴うか説明してください。

【A6】
支給額が不相当に高額と認定されると、その超過部分がY Coffee Inc.の法人税計算上、否認されるリスクがあります。

【Q7】役員退職金の算定手法

役員退職金の支給額を決定する際に、どのような算定手法が用いられるか具体的に説明してください。

【A7】
「功績倍率法」が一般的に利用されます。
算定方法:
役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
※代表取締役の場合、功績倍率は概ね3.0程度が目安とされます。

【Q8】退職金支給についての課税関係

太郎さんの退職金支給について、法人側および役員側でどのような課税関係があるか、具体的に説明してください。

【A8】

  • 法人側:支給額が不相当に高くない限り、損金算入が認められます。
  • 役員側:退職所得控除後の金額の1/2が退職所得として算出され、分離課税により所得税が計算されます。

【Q9】「負担付贈与」とは

太郎さんは、現在の自宅を息子健一さんに贈与することを検討しています。この際、どのような点に留意すべきか説明してください。

【A9】
自宅の贈与は、住宅ローンが残っている場合「負担付贈与」となり、課税価格は贈与時の通常の取引価額から住宅ローン残高を控除した額となります。
例えば、自宅の時価が8,000万円で住宅ローン残高が5,000万円の場合、課税価格は3,000万円となります。
また、相続時精算課税制度を活用すれば、基礎控除と合わせて一定額(例:2,610万円)までは非課税となる可能性があります。
(※「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」は本設例では利用できません。)

【Q10】贈与税の配偶者控除の活用

太郎さんの妻花子さんのために、贈与税の配偶者控除を活用する方法について、その制度内容を説明してください。

【A10】
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金の贈与が行われた場合、贈与税の申告により、基礎控除額110万円に加え、最高2,000万円まで控除が認められる特例制度です。

【Q11】配偶者控除と基礎控除の併用

配偶者控除における2,000万円控除と基礎控除の併用は可能か、説明してください。

【A11】
はい、併用が可能です。

【Q12】配偶者控除利用時の将来の相続税

配偶者控除を利用した場合、将来の相続時にどのような取り扱いとなるか説明してください。

【A12】
配偶者控除による贈与は、生前贈与加算(7年)の対象にはなりません。

【Q13】保険の「みなし贈与」

太郎さんは、定期保険の契約者および満期保険金受取人を長女真紀さんに変更しようと考えています。この場合の税務上の取り扱いについて説明してください。

【A13】
保険料負担者と保険金受取人が異なる場合、過去に太郎さんが納めた保険料相当分は「みなし贈与」とみなされ、満期保険金受取時に贈与税、死亡保険金受取時に相続税が課税されます。
なお、名義変更後に真紀さんが納めた保険料相当分は、一時所得として扱われます。

【Q14】相続財産の偏りの考慮

太郎さんは、妻花子さんと息子健一さんの間で相続財産が偏らないようにしたいと考えています。相続を円滑に進めるためには、どのような措置が考えられるか説明してください。

【A14】

  • 長女真紀さんの遺留分(例:全体の8分の1)を考慮した遺言書の作成を提案する。
  • 民法特例の活用を検討する。
  • また、Y Coffee Inc.の一部株式を金庫株として活用し、相続発生時に真紀さんにも現金化の機会を提供する方法が考えられ、みなし配当課税の特例や取得費加算の特例も利用可能です。

【Q15】みなし配当課税について

みなし配当課税の特例について、具体的な制度内容を説明してください。

【A15】
みなし配当課税の特例とは、相続により非上場株式を取得し、相続税額を納付した個人が、相続税の申告期限翌日以降3年以内にその株式を発行会社に譲渡した場合、資本金等の額を超える部分についてはみなし配当課税を行わず、譲渡所得として取り扱う特例です。
なお、税率は20.315%で計算されます。

【Q16】みなし配当課税のより詳細な解説

みなし配当課税そのものの制度内容について、さらに詳しく説明してください。

【A16】
みなし配当課税とは、法人が金庫株を取得する際、株主に支払う金銭のうち、資本金の払い戻し相当部分を超える金額が「利益配当」とみなされ、配当所得として課税される制度です。
非上場企業の場合、配当所得は総合課税が適用され、税率は最大55%で計算されます。(ただし、上場株式の場合は「総合課税」または「申告分離課税」を選択可能です。)

【Q17】取得費加算の特例

取得費加算の特例について、その制度内容を説明してください。

【A17】
取得費加算の特例とは、相続により取得した土地、建物、株式などの財産を、相続開始翌日から相続税申告期限の翌日以降3年以内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる制度です。

【Q18】FPとしての職業倫理

最後に、FPとしての職業倫理について、太郎さんのケースを踏まえながら、どのような点が重視されるか説明してください。

【A18】
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、能力の向上、顧客への十分な説明義務、インフォームド・コンセント、コンプライアンスの遵守などが重要なポイントです。

【Q19】重視すべき職業倫理

これらの中で、特にどの職業倫理を最も重視すべきか、太郎さんの不安に寄り添う形で説明してください。

【A19】
インフォームド・コンセントを最も重視すべきです。
太郎さんは健康面、事業承継、退職金の受給など多くの不安を抱えていると考えられるため、制度内容について丁寧かつ分かりやすく説明し、太郎さん自身が十分に理解・同意した上で進めることが極めて重要です。


【付記】

この設例で問われた論点

  • 法人版事業承継税制の特例措置
  • 類似業種比準価額の評価方法
  • 役員退職金の支給額の算定および課税関係
  • 負担付贈与による自宅贈与の留意点
  • 贈与税の配偶者控除の適用と相続時の取り扱い
  • 定期保険の名義変更に伴うみなし贈与の税務
  • 相続財産の公平な分配策
  • みなし配当課税の特例および制度内容
  • 取得費加算の特例
  • FPとしての職業倫理の重要性

総評
本設例は、従来の論点を踏襲しつつ、コーヒーチェーン企業という異なる業種・設定と、太郎さんが抱える具体的な悩みや不安を背景に、実務に即したケースとして構成されています。受検生は、事業承継対策、税務上のリスク管理、家族間の公平性確保など、多角的な視点から検討する必要があります。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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