スタグフレーションとは何か?日本経済の現状と家計防衛を考える

「スタグフレーション」という言葉を耳にする機会が増えている。物価の上昇が続く中で、賃金の伸びが追いつかず、家計への圧力が続いてきたことが背景にある。ただ、この言葉の意味や日本の現状を正確に把握している人は多くないかもしれない。今後の家計防衛を考えるうえでも、まず「スタグフレーションとは何か」をきちんと理解しておく必要がある。


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スタグフレーションとは何か

スタグフレーションとは、スタグネーション(景気停滞)とインフレーション(物価上昇)が同時に進む状態を指す。景気停滞とインフレは本来、同時に起きにくいとされてきた。景気が悪ければ消費が減り、需要が落ち込んで物価は上がりにくくなるのが通常だからだ。

それでもスタグフレーションが起きる主な原因は、供給側の制約にある。原材料やエネルギー価格の高騰で企業のコストが増加し、製品やサービスの供給量が減れば、需要が弱くても価格は上がる。さらに通貨安による輸入品価格の上昇も、同様のメカニズムで物価を押し上げる。

スタグフレーションが起きると家計への影響は二重になる。物価上昇で生活費が増える一方、景気停滞で賃金は上がりにくい。企業収益が悪化すれば雇用にも影響が出やすく、経済全体が長引く停滞に陥るリスクがある。


歴史が語る典型例

スタグフレーションが深刻な社会問題として認識された典型例は、1970年代のオイルショックだ。OPECによる原油の大幅な引き上げが引き金となり、エネルギーや生活必需品の価格が急騰。一方で、生産コスト増による企業活動の鈍化が経済成長を押し下げた。

より最近の事例として挙げられることが多いのが英国のBrexit後だ。ただし、スタグフレーション的な圧力が顕在化したのは、Brexit単独の影響というより、その後のコロナ後の供給網混乱やエネルギー価格高騰が重なった2021〜2023年ごろの出来事と整理するのが正確だ。貿易摩擦による労働供給制約に、複数の供給ショックが積み重なった結果として理解するとよい。


日本の現状——「スタグフレーション懸念」の現在地

日本の現状は、どう見ればよいか。

物価上昇は確認できる。2026年1月の全国消費者物価指数(CPI)は、総合で前年比1.5%上昇、生鮮食品を除く総合(コア)は2.0%上昇、生鮮食品とエネルギーを除く総合(コアコア)は2.6%上昇だ。

賃金については、2026年1月の毎月勤労統計速報(厚生労働省)によれば、現金給与総額は前年比3.0%増、実質賃金は前年同月比プラスとなっている。かつて実質賃金がマイナスで推移した時期が続いたことは事実だが、直近の数字は改善方向にある。

景気については、2025年の日本の実質GDP成長率は前年比1.2%のプラスで、「景気停滞が定着している」と断定するには慎重さが必要な水準だ。

これらを踏まえると、現時点で日本が典型的なスタグフレーションに陥っているとは言いにくい。ただし、物価上昇の影響が家計に長引いていること、賃金の伸びが不均一で恩恵を実感しにくい人が多いことも事実だ。スタグフレーションが「確定した現在」ではなく、条件次第で現実化しうるリスクとして警戒する状況と理解するのが適切だろう。


注視すべき要因——中東情勢とエネルギー価格

現在、スタグフレーション的な圧力を高め得る外部要因として特に注目されるのが、中東情勢だ。

イランをめぐる緊張が高まり、ホルムズ海峡の通航に不安が生じると、原油やLNG(液化天然ガス)の供給が不安定になりやすい。日本は石油・天然ガスの多くを輸入に依存しており、資源エネルギー庁によれば原油の約9割を中東地域から調達している。供給不安が現実になれば、ガソリン価格、電気・ガス料金、物流コストを通じて、食品・日用品など幅広い品目の値上がりにつながりやすい。

問題はこれが家計だけでなく企業にも波及する点だ。燃料高・原材料高で利益率が圧迫されれば、企業は賃上げや設備投資を抑制しやすくなる。家計の実質購買力が弱まれば消費も鈍り、景気の下押しにつながりうる。こうした「物価上昇と景気の重し」が重なる構造こそ、スタグフレーション的圧力の典型だ。

中東情勢に関しては、ロイターが中東の地政学リスクによるディーゼル価格の上昇と景気減速懸念を伝えており、APはホルムズ海峡を通る世界の石油・ガス供給への打撃リスクを報じている。

もちろん、エネルギー価格の上昇が一時的にとどまる可能性や、政府の補助措置・企業の価格転嫁対応で影響が緩和される可能性もある。現時点ではあくまで「スタグフレーション圧力を強め得る要因の一つ」として注視する段階だ。


家計防衛のために考えておくこと

スタグフレーション的な圧力が続く局面で、家計が取り組めることは何か。

収支を把握し、固定費を見直す

物価上昇の影響を和らげるには、まず自分の収支を可視化することが先決だ。固定費(通信費・保険料・サブスクリプションなど)は一度見直せば効果が持続しやすい。日々の変動費も把握しておくと、削れる余地が見えやすくなる。

実質賃金の変化を自分ごととして見る

「賃金が上がった」というニュースが出ていても、自分の実質賃金が上がっているかは別問題だ。名目の給与が増えても、それを上回る物価上昇が続けば、購買力(実質賃金)は目減りする。給与明細と物価の変化を照らし合わせる習慣が、自分の家計を守る第一歩になる。

現金一辺倒に偏らない資産配分を考える

物価上昇が続く局面では、現金の実質的な価値は時間とともに目減りしやすい。そのため、株式や不動産などをインフレヘッジ(物価上昇への備え)として組み合わせることがよく語られる。

ただし注意が必要だ。株式や不動産は、長期的にはインフレに対して相対的に強い面がある一方、景気後退局面や金利上昇期には価格が下落することもある。スタグフレーション的な局面では、これらのリスクは特に意識しておく必要がある。「インフレに強い=必ず上がる」ではなく、資産クラス・地域・時間軸を分散して保有することが重要だ。

また、手元の現金をすべて運用に回すのは禁物だ。まず生活防衛資金(おおむね月の生活費の3〜6カ月分程度)を確保したうえで、余剰資金の範囲で分散投資を考えることが原則になる。


自分の家計で確認しておきたい3つの視点

  • 実質賃金の変化:自分の給与の伸びは物価上昇を上回っているか
  • 固定費の見直し:契約中の通信・保険・サービスに整理できるものはないか
  • 資産の偏りを確認:現金・保険・投資のバランスが適切かを全体像で見直す

物価高の時代に家計を守るには、特別な知識よりも、まず自分の状況を把握して動くことが大切だ。現時点で日本がスタグフレーションにあると断定はできないが、外部ショック次第では家計への圧力が再び強まる可能性がある。スタグフレーションという言葉の意味を正確に理解することは、過剰に不安になることでも楽観することでもなく、自分にとって必要な判断を冷静にするための基礎になる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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