北朝鮮が「超精密ロケット砲」12発を発射──米韓演習中の戦術核威嚇をどう読むか

3月14日、北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)総書記の立ち会いのもと、「超精密多連装ロケット砲」の発射訓練が実施された。12発が発射され、約360キロ先の目標にすべて命中したと北朝鮮の国営メディアは伝えた。金正恩氏の傍らには娘の姿もあり、映像を通じて対外・国内の双方にメッセージを送る演出が見て取れた。

この訓練は偶然のタイミングではない。現在、韓国ではアメリカ軍と韓国軍が「フリーダム・シールド」と呼ばれる定例の合同軍事演習(3月9日〜19日)を実施中だ。北朝鮮はこの演習を「侵攻の予行演習」と非難しており、発射はその対抗措置とみられる。


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「多連装ロケット砲」は通常兵器ではない

「ロケット砲」という言葉を聞くと、古典的な砲兵兵器のようなイメージを持つかもしれない。しかし今回の兵器は、口径600ミリという大型のシステムで、専門家の間では短距離弾道ミサイルに近い性格を持つと見られている。

多連装ロケット砲とは、複数のロケット弾を短時間に連続発射できる兵器だ。従来型は無誘導で精度が低かったが、北朝鮮のこの種の最新型は誘導能力が向上し、射程や命中精度が大幅に高まっているとされる。今回の発表でも「超精密」という言葉が使われており、単なる威嚇の砲撃ではなく、標的を選んで精密に打ち込める兵器として誇示された。

韓国軍は3月14日、平壌近郊から日本海に向けて「10発余りの弾道ミサイル」を探知したと発表しており、今回の北朝鮮報道と対応しているとみられる。飛翔距離は約350キロで、日本の排他的経済水域(EEZ)の外に落下したとされている。


金正恩氏が語った「戦術核」の言葉

今回の訓練で特に注目されるのは、金正恩氏自身が発した言葉だ。

金総書記は「420キロの射程圏内にいる敵に不安を与え、戦術核兵器の破壊的な威力を深く認識させるだろう」と主張した。さらに「外部勢力の侵攻を防げない場合には、これらの防衛手段は直ちに攻撃手段として使用される」と強調した。

「戦術核兵器」とは、核弾頭を搭載して特定の戦場や地域目標に使う、局地戦での使用を想定した核兵器のことだ。ICBMのような大陸間弾道ミサイルが国家規模の抑止を担うとすれば、戦術核は限定的な軍事行動で使う核として位置づけられる。

北朝鮮は今回の600ミリ多連装ロケット砲を戦術核運用を想定した兵器として誇示しており、「撃つ」だけでなく「核を載せて撃てる」という威嚇を前面に出した発射だった。


なぜ米韓演習のたびに発射が起きるのか

米韓合同軍事演習は毎年行われる定期訓練で、朝鮮半島有事に備えた指揮系統の確認や実戦想定の演練が中心だ。米韓両国は「防御目的の演習」だと説明している。

一方、北朝鮮は長年にわたり、この演習を「侵攻の準備」と非難してきた。演習の規模が大きいほど北朝鮮の反発も強まる傾向があり、過去にも演習期間中や前後に弾道ミサイルの発射や砲撃訓練を行うパターンが繰り返されてきた。

今回の発射もその文脈で理解するのが自然だ。「演習に対して、こちらは即応できる」という意志を示し、米韓両軍の抑止力に対抗する姿勢を内外に示した行動とみられる。


「ロケット砲」か「弾道ミサイル」か──名称をめぐる問題

この種の発射で毎回生じるのが、「何を発射したか」という分類の問題だ。

北朝鮮は「多連装ロケット砲」と呼ぶが、今回も韓国軍は「弾道ミサイル」として公表している。この分類は単なる言葉の問題ではなく、国連安全保障理事会の制裁決議に関わる。弾道ミサイルの発射は決議違反と広く解釈されているため、北朝鮮が「ロケット砲」という表現を使うのは、国際的な批判をかわす狙いもあるとみられる。

AP通信は、こうした大型の多連装ロケット砲は「砲兵と弾道ミサイルの境界をあいまいにする兵器」だと説明している。いずれの分類であっても、射程と精度、そして戦術核との組み合わせを明言している点で、安全保障上の懸念は変わらない。


日本への影響は

今回の弾道体は日本のEEZ外に落下しており、日本の領土・領海に直接の脅威が及んだわけではない。ただし、「日本のEEZ外」であることは、安全を意味するわけではない点に留意が必要だ。

金正恩氏が言及した「420キロの射程圏内」とは、在韓米軍や韓国南部の主要施設を射程に収める距離だ。朝鮮半島情勢が緊張すれば、在日米軍の後方支援拠点や防衛・警戒監視体制、ミサイル防衛の負荷という形で日本にも間接的な影響が及びうる。

防衛省・自衛隊は警戒監視を継続しており、今回の発射についても情報収集と分析を続けている。


この発射が示すもの

今回の訓練を「北朝鮮がまたミサイルを撃った」と読み流すのは、本質を見落とすことになる。

重要なのは3点だ。第一に、北朝鮮が短距離・戦術級の兵器高度化を着実に進めている点。第二に、戦術核との組み合わせを公言し、「局地的な核使用の意志がある」という脅しを戦略に組み込んでいる点。第三に、米韓演習という定期的な契機を利用して、発射の「口実」と「タイミング」を繰り返し積み重ねている点だ。

金正恩氏が今回も娘を同行させ、映像を公開したことは、内外への権力誇示でもある。北朝鮮の軍事行動は、軍事的な意図と政治的・対外メッセージが常に組み合わさっている。

米韓演習は3月19日まで続く。その間の朝鮮半島情勢には引き続き注意が必要だ。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
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・Asset Formation Consultant
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