ホルムズ危機が露わにした「アジアの弱点」──日米主導エネルギー安保会合が東京で始まった

「ホルムズ海峡を通過する原油の8割をアジアが輸入している。私たちは大きな影響を受ける可能性がある」──赤澤経済産業大臣は2026年3月14日、東京で始まった国際会合の冒頭でこう訴えた。

この会合は、日米両政府が共同で初めて開催する「インド太平洋エネルギー安全保障閣僚・ビジネスフォーラム」だ。14日から2日間の日程で、日米やアジアなど18か国の閣僚や民間企業の代表が一堂に会し、エネルギーの安定供給に向けた対応を協議する。イラン情勢の緊迫化と、それにともなうホルムズ海峡の事実上の封鎖が引き金だ。

単なる緊急対応の会合にとどまらず、エネルギーをめぐる供給秩序の行方が問われる場ともなりうるとの見方ができる。


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ホルムズ海峡とは何か──なぜアジアが震えるのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾と外洋(アラビア海)をつなぐ非常に狭い海の「首」だ。この水路を、中東産の原油やLNG(液化天然ガス)の大量が通過して世界各地へ運ばれていく。世界の原油取引の約2割がこの海峡を経由するとされ、特にアジア向けの中東産エネルギーにとって代替のきかないルートだ。

ここが機能しなくなるとどうなるか。調達できる量が減り、価格が急騰し、電力・ガス・ガソリンのコストが跳ね上がる。欧米でも痛手だが、日本や韓国、インド、東南アジア諸国にとっては「直撃」に近い。

なぜかといえば、日本の場合、輸入する原油のおよそ9割が中東産だからだ(ロイター報道)。欧米は北海油田や米国産の原油など代替の選択肢を持ちやすいが、日本は地理的にも供給源の多様化が難しい。原油の価格や量の変動は、ほぼそのまま光熱費や物価に波及する構造になっている。


日米主導の新枠組みが意味するもの

日米が共同で主催するこの種のエネルギー安全保障閣僚会合は、今回が初めてだ。

従来、エネルギー安全保障の国際協議はIEA(国際エネルギー機関)や主要国サミット(G7・G20)の枠組みが中心だった。今回の会合はそれとは別に、インド太平洋地域に焦点を絞って日米が主導する新たな枠組みをつくったものだ。

米国のバーガム内務長官は開会あいさつで「今の世界のエネルギー市場は大規模で世界的な動きによって大きな圧力を受けている」と述べ、重要鉱物や海上輸送ルートの確保について「歴史的な協力関係をさらに発展させるためには一刻の猶予もない」と危機感をあらわにした。


「原油危機への対応」だけではない

この会合の議題は、原油の緊急確保にとどまらない。LNG、原子力、そしてレアアースなどの「重要鉱物」まで、エネルギーをめぐる広い問題が俎上に載っている。

重要鉱物とは、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)、蓄電池、半導体などに欠かせない素材の総称だ。リチウム、コバルト、ニッケル、レアアースなどが代表例で、現在はその生産・加工の多くを中国が握っている。そのため、中国との関係が緊張した場合には、エネルギーだけでなくこれらの資源も安定調達が脅かされる。

米国側の発信では、今回のフォーラムの目的として「エネルギー安全保障の強化」「米国産エネルギーの輸出拡大」「中国・ロシアへの依存度低減」が明示されており、中東危機を機に米国中心の供給網への再編をにらんだ動きとも読める。報道によれば、アジア太平洋各国がこの会合に合わせて米企業との間で300億ドル超のエネルギー・重要鉱物関連案件を打ち出す可能性も伝えられており(ブルームバーグ系報道)、政治声明にとどまらない経済的な意味もあるとみられる。


日本が狙う短期対応と中長期戦略

赤澤経産相は「共同で力強い対応につなげたい」と述べ、連携を呼びかけた。日本の今回の会合における主眼は大きく3つに整理できる。第一に、ホルムズ海峡機能不全による短期の供給不安への対応、第二に、同じく中東依存度の高いアジア需要国との連携強化、第三に、LNGや再エネ・重要鉱物を含む中長期的な調達先の多様化だ。

すでに日本はIEA(国際エネルギー機関)の協調備蓄放出にも積極的に参加している。IEAの協調備蓄放出とは、供給途絶や価格急騰に対し、加盟国が国家として蓄えている戦略石油備蓄を協調して市場に放出する仕組みだ。今回の中東危機を受けてIEAは計4億バレルの協調放出で合意しており、日本は約8000万バレルを拠出する方針だという(ロイター)。赤澤氏は、当初慎重だった欧州を日本が説得して歩調を合わせさせたとも説明している。


「緊急対応」と「秩序の再編」が重なる場

この会合は、短期的な危機への緊急対応と、中長期的なエネルギー供給網の再編が重なった場とみることができる。

アジア各国にとっては、今まさに原油が高くなり、物流が乱れ、電力コストが上がるリスクに直面している緊急局面だ。同時に、今回の枠組みは地政学的な色彩も帯びており、信頼できる供給国・パートナーとの関係をどう構築するかという中長期の問いも内包している。

今回の会合を通じて、参加各国は共同声明のとりまとめを目指している。共同声明が原則論・抽象論にとどまるのか、具体的な供給契約・投資・輸送ルート確保の枠組みにまで踏み込むのか──そこが次の焦点だ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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