ニデック不正会計、創業者のプレッシャーと組織の機能不全が招いた構造問題

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「異常事態」と断じた第三者委員会

電子部品大手のニデック(東証プライム上場)が、深刻な不正会計問題に揺れている。

3月3日、問題を調査してきた第三者委員会が約250ページにおよぶ調査報告書を公表した。そこで認定されたのは、国内外のグループ会社で十数年にわたって少なくとも1,000件以上の不正会計が行われていたという事実だ。第三者委員会は、この事態を「異常事態というほかない」と断じた。

何がこれほど広範な不正を生んだのか。報告書は、「すべての起点は創業者の永守重信氏にあった」と認定した。なぜこれほど広範な不正が長年見逃されてきたのか——本稿では、その構造を読み解く。


ニデックとはどんな会社か

「ニデック」という名前はまだ新しいが、旧社名の「日本電産」を知る人も多いだろう。

1973年、永守重信氏が28歳のとき、京都市内の小さなプレハブ小屋から「日本電産」を設立。「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の理念を掲げて急成長し、欧米企業の積極買収を重ねながら、自動車・家電・ロボットなど幅広い分野の小型モーターを手がける世界的メーカーへと変貌した。

永守氏はその間、強烈なリーダーシップで会社を引っ張る「カリスマ経営者」として知られてきた。しかし今回の調査報告書は、そのカリスマが組織に与えた影響の「負の側面」を詳細に明らかにした。


「なぜ不正会計が起きるのか」——基本的な仕組み

記事の本題に入る前に、不正会計とは何かを整理しておく。

不正会計とは、実態よりも業績を良く見せるために、売上の前倒し計上や費用・損失の先送り、資産評価損の計上回避などを行う行為だ。株主や投資家に虚偽の情報を提供することになるため、重大な問題となる。

なぜ経営者や幹部がこのような行為に手を染めるのか。理由として多いのが「業績プレッシャー」だ。達成困難な高い目標を課され、未達の場合に厳しい処遇が待つと分かっていれば、実態を隠したいという誘惑が生まれやすくなる。第三者委員会は、ニデックの問題もこの典型的なパターンにあたると整理している。


第三者委員会が認定した「プレッシャーの連鎖」

報告書によれば、永守氏は業績目標の達成に向けて強い圧力を経営幹部にかけ続けてきた。調査に対しグループ会社の幹部らは、「業績目標を達成できそうにないと、罵倒された」「本社の執行役員から厳しい叱責を受け、売上が実際には立っていないものまで計上したこともある」などと証言している。

プレッシャーは本社幹部を通じてグループ会社全体へと伝播した。連日会議が開かれ、子会社の幹部に無理難題とも言える指示が繰り返された。担当者は、直接的な指示がなくても、不正会計に手を染めざるをえない状況に追い込まれていったとされる。

その背景の一つに、企業規模の拡大がある。永守氏は買収によって会社を大きくしてきたが、中途入社や被買収企業出身の幹部が増える中で、「永守イズム」を組織全体に浸透させることが課題になっていった。一方、会社が大きくなるにつれ、永守氏自身がすべての事業を把握することは難しくなっていた。第三者委員会は、実力や事業環境と乖離した「非現実的な業績目標」がトップダウンで設定されていたことを、不正の背景として指摘している。


秘密裏に動いていた「特命監査」

今回の調査でとりわけ注目されるのが、「特命監査」と呼ばれる仕組みの存在だ。

2011年ごろから2020年6月にかけて、永守氏は特定の人物に「特命監査部長」という肩書を与え、不正会計が疑われる事案を秘密裏に調査させていた。調査結果は永守氏や一部の経営幹部にしか共有されず、社外取締役や監査法人には、そもそも「特命監査」が行われていること自体が知らされていなかった。

永守氏は調査に対し、「表沙汰にせずに不正を正し、反省している者にやり直しの機会を与える方が良いと考えた」と説明したとされる。しかし第三者委員会は、本来ならば直ちに是正すべき不正を、計画的に複数期にまたがって処理する事例があることを永守氏が把握しつつ受け入れていたと認定し、「永守氏は一部の会計不正を容認したとの評価は免れない」と結論付けた。


防波堤がなぜ機能しなかったのか

上場企業には、不正を防ぐための複数の「防波堤」が設けられている。経理部門、内部監査部門、社外取締役、そして決算を最終的に確認する監査法人(外部の会計士が行う審査)だ。

しかし今回、これらの防波堤がいずれも十分に機能しなかった。報告書では、経理部門が不正に関与した事例、内部監査が深掘りを避けた事例が示されている。特命監査は監査法人に共有されず、社外取締役への情報開示も適切に行われなかった。会社側が監査法人に圧力をかけたと受け取られかねない事例まで確認されたという。

「防波堤が連鎖的に機能不全を起こした」——これが第三者委員会の見立てだ。


財務への影響と東証の対応

問題の規模は、財務面にも大きな影響を及ぼしている。

ニデックは、これまでに判明した不正・誤謬の訂正による純資産への影響が約1,397億円のマイナスになると発表した。さらに、主に車載事業に関連して、約2,500億円規模の資産について減損(資産の価値を帳簿上で引き下げること)の検討が必要になる可能性も示した。

一連の問題を受け、東京証券取引所は2025年10月、ニデックを「特別注意銘柄」に指定した。これは、内部管理体制に重大な問題があると認められた上場企業に対する東証の厳しい措置だ。原則として1年後の審査までに内部管理体制を改善できなければ、上場廃止になるリスクがある。つまり問われているのは業績の問題だけでなく、上場企業としての信頼そのものだ。

創業者の永守氏や長年「番頭」として会社を支えた小部博志氏をはじめ、複数の役員・幹部が辞職した。第三者委員会の調査は引き続き続いており、影響の全容はまだ確定していない。会社は近く「責任調査委員会」を立ち上げ、旧経営陣の法的責任の有無を調査する方針だ。


「カリスマ依存」の限界——構造的な問題として

過去にも、日本企業では不正会計を巡る深刻な事例があった。

ニデックの問題が特徴的なのは、「創業者への権力集中」と「組織の機能不全」が一体となって長年続いてきた点だ。第三者委員会は、永守氏自身が2019年ごろから「実力以上のことを達成しようとしているのではないか」と感じていたとする発言を調査で確認している。しかし、「勢いを付けて走り続けてきたものをすぐに止めることは難しかった」とも述べており、自らが生み出したプレッシャー文化の修正が難しくなっていたことを示唆している。

この構図は、創業者が強力なカリスマを持つ企業に共通するリスクとして、広く問題提起される内容でもある。誰も「ノー」と言えない組織が、問題の温床になる——第三者委員会の報告書は、その典型的な事例として記録されることになりそうだ。


今後の焦点

当面の焦点は、東証の審査基準となる内部管理体制の改善が、期限までに実効性ある形で示せるかどうかだ。改善計画の策定と実行が急がれる一方で、旧経営陣への責任追及や株主からの損害賠償請求の動きも予想される。

調査はまだ継続中で、会計不正の全体像が明らかになるのにはさらに時間がかかる可能性がある。信頼回復に向けては、内部管理体制の抜本的な改善と旧経営陣への責任の明確化が不可欠だ。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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