4年目の交渉地図——なぜ停戦の道筋が見えないのか

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ある市民の言葉から始める

「戦争が長く続くかもしれないとはわかっている。それでも、早く終わってほしい」

2026年2月24日、侵攻開始からちょうど4年の節目のキーウ。宗教施設や追悼スポットに並ぶ犠牲者の写真を前に、一人の市民がそう語ったと報じられた。

「早く終わってほしい」——これは切実な願いだ。しかし同時に、この日のキーウでは「最後まで戦う」という言葉も聞こえていた。

矛盾しているように見えるこの二つの声は、実は矛盾していない。「終わってほしい、でも負けたくない」——これが4年間戦い続けた人々の正直な感情の地図だろう。

問題は、この感情の地図と、外交の地図がまだ重なっていないことだ。


交渉は動いている、しかし

米国の仲介による和平協議は、確かに動いている。ジュネーブでの協議日程など、外交カレンダーは埋まりつつある。

ゼレンスキー大統領は2月24日の動画演説でも、「交渉を拒否する」とは言っていない。「安全の保証と領土の一体性において譲歩しない」と言ったのだ。微妙だが重要な差がある——「交渉のテーブルには着く、ただし最低限の線は守る」という立場表明だ。

ではなぜ、4年が経ってもなお「停戦の道筋が見えない」と言われるのか。

その答えを探るには、「停戦」という言葉の中身から入る必要がある。


「停戦」でさえ、実は難しい

「停戦」「和平」「終戦」——この三つは似ているようで、全く別の到達点だ。

停戦は、最もシンプルに言えば「撃ち合いをいったん止める合意」だ。前線を凍結し、砲声を止める。だがこれだけでは、何も解決しない。領土はどこで区切るか。再び攻撃されたらどうするか。賠償は誰がどう払うか。これらは一切決まらないままだ。

和平は、停戦に政治的条件の合意を加えたものだ。領土、安全保障の枠組み、賠償——交渉の最も核心的な問いがここに集まる。

終戦は、さらに踏み込んで法的・政治的に戦争状態を終結させる。条約の締結などがここに入る。

現在、交渉の場で議論されているのは「停戦+和平条件のパッケージ」だ。停戦単独でも難しいが、和平条件まで含めると、難しさは別の次元に跳ね上がる。


地図の上で何を争っているか

和平条件の中でも、特に大きく立場が割れているのが「領土」と「安全の保証」だ。

ロシア側の求める論点として報じられているのは、概ね次のようなものだ。占領した地域の承認を得たい。ウクライナがNATOに接近することを阻みたい(事実上の中立化)。ウクライナの軍備を制限したい(非軍事化)。

対してウクライナ側が最も重く見るのは、まず「安全の保証」だ。停戦が成立したとして、再びロシアが侵攻してきたとき、誰がどのような形でウクライナを守るのか——この問いへの確かな答えなしに、停戦には意味がないという立場だ。そして領土については、少なくとも「割譲を明示的に認める」ことだけは避けたい、という姿勢が一貫している。

現実には、ロシアが支配下に置く地域は複数の推計でウクライナ領の概ね約5分の1(約2割前後)とされる(※2014年以降のクリミアなどを含む概算として言及されることが多い)。この現実をどう処理するかが、交渉の最大の難所だ。


「推計200万人」という重さ

交渉が難しい背景には、戦場で積み重なってきた犠牲の重さも関係している。

ただし、この戦争の死傷者数を正確に把握することは難しい。戦時中の軍事的損害は通常開示されず、「死者」「負傷者」「行方不明」を合算するか、軍人に限定するか、民間人も含めるかで数字は大きく変わる。

それを踏まえた上で、参考指標として——米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は、ロシア側の戦場死傷者(死者・負傷者・行方不明の合算推計)を約120万人規模と見積もり、両軍合算では春にかけて約200万人近い可能性を示している。

推計であることは強調しておかなければならない。各国政府の公式統計ではないし、誤差の幅も大きい。それでも「桁感」として、この戦争がどれほどの規模の消耗を双方に強いてきたかは伝わる。

消耗が大きければ大きいほど、指導者にとって「何も得ずに終わる」という選択肢は難しくなる。それが、交渉の難しさの一因でもある。


世論が「詰まった交渉」を支えている

外交が動きにくいもう一つの理由が、両国の世論だ。

ウクライナでは、キーウ国際社会学研究所(KIIS)の調査で「必要な限り耐える」回答が65%に上るとされる。消耗感は確実に広がっているが、それでも「抵抗を続ける」という意志が、今のところ多数を占めている。

ロシアでは、レバダ・センターの調査で軍事行動への支持が76%という高水準が続いているとされる。交渉を支持する層も一定存在するが、「高い支持」と「疲労の蓄積」が同居する形で、世論の構造は硬直化している。

指導者が大きな譲歩をすれば、自国の世論から批判を受ける。この構造が、交渉の「底」を引き上げている。


国際社会の綱引き

外部からの圧力も一様ではない。

国連総会は、ウクライナの領土一体性を再確認し、民間人やエネルギー施設への攻撃を非難する決議を採択した。法的拘束力はないが、国際社会の政治的なシグナルとして機能する。

しかし米国は、この決議で棄権した。仲介国として、言い回しが交渉を妨げることへの懸念が理由とされている。交渉環境を守るための行動とも読める一方で、米国の姿勢を「原則より実利」とみる見方もある。

欧州首脳はキーウを訪問し連帯を示しながらも、EU域内では制裁の詳細や資金スキームをめぐって足並みに揺れがある。支援は続いているが、一枚岩とは言い切れない。

ゼレンスキー大統領がトランプ大統領に「キーウに来てほしい」と呼びかけたのは、こうした文脈の中でのことだ。「痛みを現地で見てこそ、侵略の構図が理解できる」——この言葉は、机上の交渉から現実の戦場へと目を向けさせようとする訴えでもある。


電力を止めることの意味

戦況面でも、交渉の見通しを複雑にしている要因がある。エネルギー施設など都市インフラへの攻撃だ。

冬に電力・暖房が止まることは、前線の戦闘とは別の形で市民生活を直撃する。避難・経済・士気を一度に揺さぶり、国土全体を消耗させる。国連決議でもこの点が強く問題視された。

インフラ攻撃には、軍事的な破壊に加え、「相手を交渉のテーブルに引き出す」狙いが指摘されることもある。停戦交渉と戦場の動きは、完全には切り離せない連動関係にある。


日本が伝えたこと

この節目に、日本政府はどう動いたか。

高市首相は英仏主催のオンライン首脳会合に書面メッセージを送り、「米国の関与を得て国際社会が結束してウクライナを支える必要がある」「官民一体の復旧・復興支援」「対ロシア圧力の継続」などを表明した。G7首脳声明にも日本は名を連ね、ウクライナの主権・領土一体性への支持と和平プロセスへの言及が盛り込まれた。

復興費用については世界銀行推計などで数千億ドル規模が俎上にあり、「復興・繁栄パッケージ」は外交議題にもなっている。「支援する」という約束が、どのような形で実現するかは、今後の焦点の一つだ。


道筋はまだ「不明」

「早く終わってほしい」という市民の言葉に、誰もが同意するだろう。では、どう終わらせるのか。

領土の現実と「割譲を認めない」という原則の間の距離。安全の保証を誰がどう担うかという未解決の問い。両国の世論が許容できる「落とし所」の不在。そして、大規模な消耗を経た後だからこそ生まれる、「ここまで戦ったのに何も得られなかった」という恐れ。

4年という時間が積み重ねたのは、犠牲だけではない。交渉を難しくする条件も、同時に積み重なった。

停戦の道筋は現時点では「不明」だ。ただ、問いの地図は少しずつ鮮明になっている。


本稿は2026年2月24〜25日時点の報道・公式発表をもとに構成しました。死傷者数などの数字は推計値を含みます。戦況・外交状況は変化します。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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