中小企業の価格転嫁率は改善 飲食など身近な業種に残る値上げの壁

中小企業の価格転嫁をめぐり、2025年9月のフォローアップ調査では、コスト全般の価格転嫁率が53.5%に上がったと整理されている。前回の2025年3月調査の52.4%から1.1ポイント上昇した一方、飲食サービスや生活関連サービスのように消費者の反応を受けやすい業種では、値上げの難しさが残る。

価格転嫁とは、原材料費、人件費、エネルギー費、物流費などの上昇分を、取引価格や販売価格に反映することだ。企業間取引では、受注側の中小企業が発注側に価格改定を求める形になりやすい。消費者に近い業種では、店頭価格やサービス料金の値上げとして家計に見える。

この数字が示すのは、単なる「値上げが進んだ」という話ではない。企業がコストを吸収し続ければ、賃上げや人材確保、設備投資、店舗運営に影響する。一方で、価格に反映すれば家計の負担は増える。中小企業の価格転嫁は、物価、賃金、サービスの維持がどこで折り合うのかを考える材料になっている。

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53.5%への改善でも、コスト上昇分のすべては反映できていない

価格転嫁率53.5%という数字は、改善を示す一方で、コスト上昇分の半分強にとどまっていると受け止められる。原材料や電気代、人件費が上がっても、その全額を価格に乗せられる企業ばかりではない。

日本販売士協会の整理では、コスト別の価格転嫁率は原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%とされる。原材料費は仕入れ価格の上昇として説明しやすいが、労務費やエネルギーコストは、取引先や消費者に価格改定の理由を伝えにくい場面がある。

中小企業にとって、価格転嫁できない分は利益の圧迫として残る。利益が薄くなれば、賃上げの余力が限られ、採用やサービス品質にも影響する。価格転嫁は企業の利益確保だけでなく、働く人の賃金や地域のサービス維持にもつながる論点だ。

平均値の改善だけでは見えない、転嫁できる企業とできない企業の差

全体平均が上がっても、すべての企業が同じように価格改定できているわけではない。共同通信系の報道では、全額転嫁できた企業が27.3%、転嫁できなかった企業が15.8%、マイナス転嫁に応じた企業が1.0%と整理されている。

マイナス転嫁とは、コストが上がっているにもかかわらず、取引価格を下げるよう求められる状況を指す。件数としては限られていても、発注側と受注側の力関係が影響している可能性がある。

J-Net21の整理では、価格交渉が行われなかった割合も10.6%とされる。価格転嫁率が上がっても、交渉の場にたどり着けない企業や、交渉しても十分に価格へ反映できない企業が残る構図だ。

この差は、業種や取引階層によって広がりやすい。大手企業と直接取引する企業と、何段階も下の取引先として受注する企業では、価格改定を求める立場が違う。平均値だけでは、中小企業の現場にある濃淡は見えにくい。

飲食・生活サービスの値上げは、家計の反応と競争環境に左右される

専門サイトの整理では、製薬、飲食サービス、放送コンテンツなどが受注側集計で価格転嫁率の下位に入る。飲食サービスや生活関連サービスのように消費者に近い業種では、値上げが来店頻度や利用回数に直結しやすい。

飲食店では、食材費、人件費、電気代、ガス代が同時に上がりやすい。それでもメニュー価格を上げれば、客単価や来店頻度に影響する。近隣の競合店が価格を据え置けば、値上げした店だけが客離れを受ける不安もある。

理美容、クリーニング、修理などの生活関連サービスでも、家計の節約行動が利用頻度に響く。企業側は採算を守る必要があるが、利用者の負担感が強まれば、価格改定の幅や時期を慎重に考えざるを得ない。

一方、製薬を飲食や生活サービスと同じ理由で説明するのは適切ではない。医薬品には薬価制度や医療制度など、一般的な店頭価格とは異なる仕組みが関わる可能性がある。価格転嫁率が低い業種として同じ表に並んでいても、その背景は分けて確認する必要がある。

労務費転嫁は、中小企業の賃上げが続くかに関わる

今回の調査で見逃せないのは、労務費の転嫁だ。日本販売士協会の整理では、労務費の価格転嫁率は50.0%とされる。人件費の上昇分を取引価格にどこまで反映できるかは、中小企業の賃上げ継続に直結する。

原材料費の値上がりは、仕入れ価格の変化として説明しやすい。これに対し、労務費は賃上げ、人手不足、採用費、社会保険料負担などが重なり、価格改定の根拠を示すのが難しくなりやすい。

価格交渉を実施した企業のうち、71.9%が労務費についても交渉したとされる。労務費を価格交渉の対象にする動きは広がっている。ただ、転嫁率が50.0%にとどまるなら、人件費上昇分をどこまで取引価格に反映できるかは、なお中小企業経営の重い論点として残る。

制度があっても、交渉の現場に届くかが問われる

価格転嫁を後押しする仕組みとして、価格交渉促進月間がある。これは、中小企業庁が価格交渉や価格転嫁の状況を調べ、発注側と受注側の取引環境を点検する取り組みとして位置づけられている。

労務費については、公正取引委員会などが「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を示している。人件費上昇分を取引価格へ反映するため、発注側と受注側がどのように協議すべきかを整理するものだ。

ただし、制度があるだけで価格転嫁が進むわけではない。発注側が交渉に応じるか、受注側がコスト上昇の根拠を示せるか、取引停止への不安を抱えずに価格改定を求められるかが現場では問われる。

発注側が価格を抑え続ければ、短期的にはコストを下げられる。しかし、取引先の採算悪化が進めば、納期遅れ、品質低下、供給不安、撤退といった形で企業活動に戻ってくる。価格転嫁は、発注側と受注側のどちらか一方だけの問題ではない。

値上げは家計負担だけでなく、賃上げやサービス維持にも関わる

価格転嫁が進めば、商品やサービスの価格は上がりやすくなる。家計にとっては、外食、理美容、クリーニング、日用品などの負担増として見える。値上げへの抵抗感が出るのは自然だ。

ただ、値上げをすべて企業の利益追求として見ると、問題の全体像をつかみにくい。多くの中小企業は、仕入れ、人件費、電気代、物流費の上昇を受けて価格改定を迫られている。コストを吸収し続ければ、営業時間の短縮、人手不足、サービス品質の低下、店舗撤退につながる場合もある。

日本経済にとっても、価格転嫁は賃金と物価の関係にかかわる。中小企業が人件費上昇分を価格に反映できれば、賃上げ原資を確保しやすくなる。反対に、価格を上げられない企業が多ければ、賃上げは大企業中心に偏り、地域や業種による所得差が広がりやすい。

市場参加者が確認する材料としても、価格転嫁力は企業の採算を見る一要素になる。ただし、これは個別企業の投資判断を示すものではない。内需関連業種や地方経済を見る際に、コスト上昇を価格に反映できるかが経営環境を読む手がかりになるという位置づけだ。

今後は、労務費とサービス価格にどこまで転嫁できるかを確認する

今後の注目点は、平均の価格転嫁率がさらに上がるかだけではない。全く転嫁できない企業の割合が減るのか、労務費転嫁が定着するのか、飲食サービスや生活関連サービスのような身近な業種で価格改定が進むのかが確認点になる。

都道府県別の状況が公表された点も、地域差を考える材料になる。専門サイトや報道では、上位と下位で差があると整理されている。ただし、その理由を数字だけで判断することはできない。地域の産業構造、取引慣行、発注側企業の所在地など、複数の要因を分けて見る必要がある。

価格転嫁は、家計には負担として見え、企業には採算維持の手段として見える。どちらか一方だけを強調すると、問題は単純化される。今回の調査は、日本経済で価格据え置きの慣行がどこまで変わりつつあるのか、そしてその負担を企業、取引先、家計がどう分け合うのかを確認する材料になる。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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