日本はブラジル原油を増やせるか ホルムズ海峡リスクで進む調達先の多角化

日本の原油調達で、これまで定期的な輸入が限られていたブラジルが新たな候補として浮上している。背景にあるのは、イラン情勢の悪化を受け、ホルムズ海峡を通らない原油をどう確保するかという切迫した課題だ。

日本の原油輸入は中東への依存度が高い。資源エネルギー庁の2026年5月15日資料では、2025年の原油輸入について、中東依存度は94.0%、ホルムズ依存度は93.0%とされている。つまり、遠い海峡の通航リスクが、国内のガソリン価格や電気料金、物流費にも直結しうる構造になっている。

その中で赤澤亮正経済産業相は5月18日、来日中のブラジルのマウロ・ビエイラ外相と会談し、原油の供給拡大に向けた協力を要請した。ブラジルは世界有数の産油国でありながら、日本の原油輸入先としてはまだ大きな存在ではない。今回の会談は、日本が中東依存を下げる選択肢を広げようとする動きの一つといえる。

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なぜ今、ブラジルなのか

きっかけは、ホルムズ海峡をめぐるリスクの高まりだ。ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋を結ぶ狭い海上ルートで、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタール、イラクなどの原油やLNG輸出に関わる重要な通路である。

日本にとって問題なのは、原油の多くがこの海峡を通って運ばれてきた点にある。海峡の通航が不安定になれば、原油価格だけでなく、ガソリン、電気料金、化学製品、物流費など幅広いコストに影響が及ぶ可能性がある。家計にとっては燃料費や物価の上昇、企業にとっては輸送費や製造コストの増加として表れやすい。

資源エネルギー庁の同資料では、2025年の原油輸入先としてUAEが43.3%、サウジアラビアが39.4%を占めている。クウェート、カタールも含めれば、中東依存の高さはさらに鮮明になる。平時には安定的だった調達構造が、有事には弱点として表面化する。

政府はホルムズ海峡を経由しないルートでの輸入に力を入れており、6月分については前年実績の7割以上にあたる調達にめどが立ったと報じられている。これは短期的な危機対応として重要だが、同時に「では、中東以外から安定的にどれだけ買えるのか」という次の課題を浮かび上がらせる。

そこで注目されているのがブラジルだ。ブラジルは中東から離れた南米の産油国であり、ホルムズ海峡を通らずに原油を輸出できる。日本にとって地理的な距離はあるが、調達先を分散するうえでは有力な候補になりうる。

ブラジルは本当に代替先になれるのか

ブラジルが注目される理由は、単に「中東ではない」からではない。近年、同国は海底油田の開発を背景に、原油輸出国としての存在感を高めている。

特に重要なのが、プレソルト層と呼ばれる深海油田の開発だ。ブラジルではこの分野の開発が進み、原油が主要な輸出品になっている。ブラジル国営通信系のAgencia Brasilは、2024年に原油が同国最大の輸出品となり、輸出全体の13.3%を占めたと報じている。

こうした数字を見ると、日本がブラジルに接近するのは自然な流れに見える。ただし、原油は「産油国ならどこからでも同じように買える」という商品ではない。価格、長期契約の条件、タンカー輸送の距離、製油所で処理しやすい油種かどうかなど、実際の調達には複数の制約がある。

さらに、ブラジル原油を求めるのは日本だけではない。他の需要家との競合も課題になりうる。日本が安定的に輸入量を増やせるかは、外交関係だけでなく、商業条件や供給余力にも左右される。

「多角化」は安心材料だが、すぐに万能薬にはならない

原油調達先の多角化とは、特定の国や地域に依存しすぎないよう、輸入先を複数に分けることを指す。日本の場合、中東産原油は品質、価格、長期契約、輸送ルートの面で長く中心的な存在だった。平時には合理的だった構造が、有事には弱点として表面化する。

ブラジル、米国、カナダ、メキシコ、ガイアナ、カスピ海周辺など、ホルムズ海峡を経由しない原油を増やせば、供給途絶リスクを下げられる可能性がある。リスクを一か所に集中させないという意味では、調達先の分散はエネルギー安全保障の基本的な方向性だ。

一方で、多角化にはコストもある。遠距離輸送になれば運賃は上がりやすく、原油の種類が変われば製油所側の対応も必要になる。短期的に確保できる原油と、長期的に安定して使いやすい原油は必ずしも同じではない。

したがって、「ブラジルから買えば解決する」という単純な話ではない。むしろ今回の会談は、日本が中東依存の弱点を認識し、複数の選択肢を同時に持つ必要性を改めて示したものと見るべきだ。

家計や企業にどうつながるのか

原油調達の話は、外交や資源政策のニュースに見えやすい。しかし、最終的には生活や企業活動にもつながる。

原油価格が上がれば、ガソリンや灯油だけでなく、電気料金、物流費、プラスチックや化学製品、食品包装、肥料などにも波及する可能性がある。企業にとっては輸送コストや製造コストの上昇要因となり、業績や価格転嫁の判断にも影響する。

投資家にとっても、原油調達の安定性は無関係ではない。エネルギー価格は、インフレ率、企業利益、為替、金利判断にもつながる。新NISAなどで投資信託を持つ人にとっても、原油価格の変動は間接的に資産価格へ影響することがある。

ただし、今回の動きだけで国内物価や企業業績の先行きを断定することはできない。重要なのは、原油価格そのものだけでなく、日本がどれだけ調達先を柔軟に持てるかという点だ。供給ルートに余裕があれば、危機時の価格上昇や供給不安を和らげる余地が生まれる可能性がある。

次に見るべきポイントはどこか

今後の焦点は、ブラジルとの協力が実際の調達増につながるかどうかだ。会談で協力を要請したことと、長期的に安定した輸入ルートができることは同じではない。

見るべき点は大きく三つある。

第一に、日本の製油所がブラジル産原油をどの程度使いやすいか。原油には重さや硫黄分などの違いがあり、製油所の設備との相性がある。

第二に、輸送コストと契約条件だ。南米から日本への輸送は中東より距離が長くなるため、価格面でどれだけ競争力を持てるかが課題になる。

第三に、他の需要家との競合である。ブラジル原油への関心が高まれば、日本が望む量を安定的に確保できるとは限らない。

赤澤経産相がブラジル外相に協力を要請した動きは、日本の原油調達が「安い原油を買う」だけでは済まない段階に入っていることを示している。問われているのは、価格だけでなく、危機時にも止まりにくい供給網をどう作るかだ。

原油は普段、生活から遠いニュースに見える。しかし、ホルムズ海峡の不安定化とブラジル原油への接近は、調達先を複線化する必要性が強まっていることを示している。安定した暮らしや企業活動の裏側には、どこからどう運ばれてくるかという見えにくい選択がある。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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