高配当だけで選ばない、配当成長株スクリーニングの基本

配当利回りの高い株は、NISAなどで長期保有を考える個人投資家にとって目を引きやすい。日本株では、東京証券取引所(東証)が上場企業に資本効率を意識した経営対応を求める流れもあり、配当や自社株買い、資本政策への関心が続いている。

ただし、高配当利回りは、それだけで安全性を意味しない。配当利回りは1株配当を株価で割って計算されるため、株価が大きく下がれば見かけ上の利回りは上がる。業績悪化や減配懸念で売られている銘柄ほど、ランキング上では魅力的に見えることもある。

そこで確認したいのが、配当成長株という考え方だ。これは、利益の成長に合わせて配当の増加も期待する見方であり、現在の利回りだけでなく、将来も配当を支えられる利益、現金収支、財務の余力を順番に点検する。

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高配当利回りは魅力だが、最初に確認したいのは「なぜ高いのか」

高配当株を見るとき、最初に分けたいのは「利益と配当に裏付けられた高利回り」なのか、「株価下落によって高く見えている利回り」なのかという点だ。

たとえば、配当が維持されていても、本業の利益が落ち、営業キャッシュフローも弱くなっている場合、その利回りは将来の減配リスクを織り込んでいる可能性がある。反対に、利益や現金収支が安定し、財務にも余力がある企業なら、現在の配当利回りが突出していなくても、増配によって取得価格ベースの利回りが高まる余地がある。

配当成長株の確認手順は、買う銘柄を機械的に決めるためのものではない。候補銘柄を絞る前に、利回りの高さの裏側にあるリスクを見つけるための作業に近い。

配当成長株は「いまの利回り」より「配当の原資」を見る

配当は、企業の利益やキャッシュフローから支払われる。そのため、配当成長株を考えるときは、配当利回りの数字だけでなく、売上高、営業利益、EPS、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローを照らし合わせたい。

EPSは1株あたり利益を示す指標で、長期的な株価や配当余力を見るうえで使われる。ただし、EPSだけが伸びていても、それが本業の成長によるものなのか、自社株買いによる押し上げなのかは分けて考えたい。売上高や営業利益が伴っていない場合、配当成長の裏付けとしては弱くなる。

配当性向も重要だ。配当性向は、利益のうちどれだけを配当に回しているかを示す。低ければ必ず増配余地があるわけではなく、成長投資や設備投資に資金が必要な企業もある。逆に配当性向が高すぎる場合、利益が落ちたときに配当維持が難しくなりやすい。

フリーキャッシュフローは、事業運営や投資の後に残る自由に使いやすい現金の目安だ。利益が伸びていても現金が残らなければ配当の持続性は弱く、配当方針が前向きでも収益力が伴わなければ不安は残る。

東証要請後の日本株では、増配の理由まで確認したい

日本株で配当成長を考えるうえでは、東証の要請も背景になる。東証は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場の上場会社に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を求めた。日本取引所グループ(JPX)の公式ページでは、2024年1月から、要請に基づく開示企業一覧表の公表も始まっている。

この流れの中で、日本企業では株主還元方針を見直す動きが広がっている。専門機関の整理でも、DOEや累進配当といった方針への関心が示されている。ただし、還元方針の開示や増配発表は、将来の配当維持や株価上昇を保証するものではない。

DOEは株主資本配当率を指し、企業が株主資本に対してどの程度の配当を出すかを見る考え方だ。単年度利益に直接連動しやすい配当性向より、安定配当方針の目安として使われることがある。累進配当は、配当を維持または増やす方針として分かりやすいが、減配しない保証ではない。

東証の要請も、単に増配や自社株買いを求めるものではない。資本コストを上回る収益力、持続的な成長、投資家への説明が論点になる。配当成長株を候補として考えるなら、株主還元の表明だけでなく、ROE、ROIC、事業投資、財務余力を合わせて点検したい。ROEは株主資本を使ってどれだけ利益を上げたか、ROICは事業に投じた資本でどれだけ利益を生んだかを見る指標である。

スクリーニングは、利回りの前に「除外リスク」を置く

配当成長株のスクリーニングでは、最初から高利回りランキングを眺めるより、候補から外すリスクを先に整理した方が分かりやすい。

まず確認したいのは、時価総額と流動性だ。売買が少ない銘柄は、希望する価格で売買しにくく、急な業績悪化時に株価が大きく動きやすい。長期保有を前提にしても、出口の流動性は軽視できない。

次に、売上高、営業利益、EPSが複数年で伸びているかを確認する。単年度の急増益だけでは、景気や市況の反動、一時的な利益の影響を受けている場合がある。5年程度の推移を見て、成長が一時要因ではなく事業の構造に支えられているかを点検したい。

確認項目は、次のように分けると整理しやすい。

  • 時価総額・流動性 売買しやすさと価格変動リスクを確認する。
  • 売上高・営業利益 本業が継続的に伸びているかを確認する。
  • EPS 1株あたりの利益成長を確認する。
  • 配当性向 利益に対して配当が無理のない水準かを確認する。
  • 営業キャッシュフロー・フリーキャッシュフロー 配当の原資となる現金が残っているかを確認する。
  • ROE・ROIC 株主資本や投下資本を使って効率よく利益を出しているかを確認する。
  • PER 株価が利益の何倍まで買われているかを見る。成長率、金利環境、同業比較と合わせて考える項目になる。
  • 減配履歴・配当方針 景気悪化時の対応や、経営側の資本政策を読み取る。

この順番で見ると、配当利回りは、利益や現金収支を確認した後に見る項目と位置づけられる。高利回り銘柄を探すのではなく、利益と現金で配当を支えられる企業の中から、価格面の妥当性も確認する考え方だ。

CAGRは便利だが、途中の落ち込みを隠すことがある

配当成長株の分析では、CAGRという指標も使われる。CAGRは年平均成長率を意味し、一定期間の成長を複利ベースの年率に直して見る考え方だ。5年間で利益がどの程度伸びたかを、毎年一定のペースで成長したように換算して把握できる。

CAGRは、EPS、営業利益、売上高、配当の成長率を比べるときに役立つ。配当だけが伸びているのか、利益も一緒に伸びているのかを並べることで、増配が本業の成長に支えられているかを確認しやすくなる。

ただし、CAGRは始点と終点に強く影響される。コロナ禍、資源価格の急変、為替の大きな変動などで始点や終点が特殊な年になっていると、実態より成長率が高く見えたり低く見えたりする。途中の赤字、急減益、一時的な反動増も、CAGRだけでは見落としやすい。

そのため、3年、5年、10年と期間を変え、年度ごとの売上高、営業利益、営業キャッシュフローも合わせて確認したい。配当成長株の候補整理では、きれいな成長率そのものより、景気が悪い年にも配当の原資が大きく崩れにくいかが重要になる。

景気に強い業種でも、業種名だけでは分からない

配当の持続性を見るうえで、景気耐性も欠かせない。通信、医薬品、ヘルスケア、生活必需品、インフラ、IT保守、決済、業務ソフト、リース、メンテナンスサービスなどは、景気後退時にも需要が比較的残りやすい分野とされる。

一方、鉄鋼、化学、海運、半導体製造装置、自動車、機械、建設、不動産、資源関連などは、市況、設備投資、外需、金利の影響を受けやすい。景気敏感業種では、市況や設備投資の変化が利益に反映されやすい。そのため、好況期の高配当が不況期にも続くとは限らない。

ただし、業種名だけで判断するのは危うい。ディフェンシブ業種でも競争環境が悪化すれば利益率は下がる。景気敏感業種でも、財務が厚く、価格決定力があり、顧客基盤が安定していれば、配当を維持しやすい企業もある。

確認したいのは、収益がどの顧客から、どの契約で、どの程度継続して入るかだ。継続課金型の収益、生活必需性の高い商品、規制やインフラに支えられた事業、強いブランドやシェアは、景気変動の中でも利益の落ち込みを抑える材料になる。

同時に、財務安全性も点検したい。自己資本比率、ネット有利子負債、金利負担などは、配当余力に影響する。借入が多く金利上昇に弱い企業では、利益が安定していても財務面から配当の余地が狭まることがある。

最後はIR資料で、配当方針と成長投資の両立を読む

スクリーニングで候補を絞った後は、企業のIR資料を確認する段階に進む。決算短信、有価証券報告書、決算説明資料、中期経営計画には、配当方針、成長投資、財務方針、事業別の収益状況が示される。

累進配当やDOEを掲げる企業でも、その方針がどの利益水準や財務状況を前提にしているのかは企業ごとに異なる。業績が悪化した場合にどう対応するのか、成長投資を削ってまで配当を維持するのか、財務健全性を優先するのかを読み取ることが重要になる。

配当成長株の本質は、配当を多く出す企業を選ぶことではない。利益を伸ばし、資本を効率よく使い、必要な投資を続けながら、株主への還元も増やせるかを確認することにある。

高配当ランキングは入口にはなる。しかし、最終的に確認したいのは、利回りの高さではなく、その配当が何によって支えられているかだ。利益成長、キャッシュフロー、財務安全性、景気耐性、価格面の妥当性を順番に見ることで、配当株選びは単なる利回り探しではなく、長期保有を検討する際の確認作業に近づく。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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