出光興産は原油を確保できるのか ホルムズ海峡リスク下で見えた「届くまで」の重さ

原油輸入の9割以上を中東に頼る日本で、ホルムズ海峡が事実上使いにくい状況が続いている。それでも石油元売り大手の出光興産は、原油調達について「今の状況で続けていける」という手応えを示した。

一見すると、これは安心材料に見える。だが重要なのは、原油が世界にあるかどうかだけではない。日本までどう運び、どの製油所で処理し、どのコストでガソリンや化学製品につなげるのかという、物流と産業全体に広がりうる問題でもある。

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何が起きたのか

出光興産の酒井則明社長は2026年5月12日の決算会見で、ホルムズ海峡の事実上の封鎖により見直しを迫られている原油調達について、北米や南米が調達の中心になっていると説明した。

同時に、ホルムズ海峡を通らないUAEやサウジアラビアのルートも使えるとして、前年とまったく同じ体制ではないものの、極端に手当てに苦労している状況ではないとの認識を示した。出光興産は東証プライム上場企業で、証券コードは5019である。

ここで見えてくるのは、「中東から買えないから終わり」ではなく、調達先と輸送ルートを組み替えながら供給をつなぐ動きだ。北米や南米からの輸入、サウジアラビアやUAEの迂回ルートを組み合わせることで、一定の供給を維持しようとしている。

なぜ「調達できる」だけでは安心しきれないのか

原油は、買えることと届くことが同じではない。調達先を変えれば、輸送距離、船の手配、保険料、輸送日数、契約条件が変わる。さらに、原油には産地ごとに性質の違いがあり、国内の製油所でどのように処理できるかも問題になる。

そのため、短期的に必要量を確保できても、長期化すればコストが積み上がる可能性がある。ガソリン価格だけでなく、軽油、重油、石油化学製品、物流費、包装材の価格にも影響が広がりうる。

資源エネルギー庁は、日本には官民合わせて約8か月分の石油備蓄があると説明している。備蓄は大きな支えだが、備蓄は恒久的な調達先ではない。時間を稼ぐ仕組みであり、その間に代替調達をどこまで安定させられるかが問われる。

ホルムズ海峡を通らないルートはどこまで代わりになるのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とインド洋側を結ぶ狭い海峡だ。サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、カタールなど、中東の主要な産油国やガス輸出国の輸送ルートが集中している。

サウジアラビアには、東部の油田地帯から紅海沿岸へ原油を送るパイプラインがある。UAEにも、ホルムズ海峡の外側にある港へ原油を送るルートがある。こうした迂回ルートは、海峡リスクが高まった時の重要な逃げ道になる。

ただし、迂回ルートがあることと、従来の輸送量や条件をそのまま置き換えられることは別だ。輸送能力には限界があり、船の配船や積み替え、調達契約の調整も必要になる。出光興産の発言は、問題が収束したことを意味するというより、別のルートを使って現実的な調達体制を組み直しているという意味合いが強い。

影響はガソリンだけにとどまらない

今回の会見では、プラスチックなどの原料になるエチレンにも言及があった。出光興産はエチレンの減産を続けているが、酒井社長は計画的な減産であり、必要なものは供給できているとの認識を示した。

エチレンは、石油由来のナフサなどを分解して作る基礎化学品だ。ポリエチレン、合成樹脂、包装フィルム、日用品、食品包装材など、多くの製品の出発点になる。エチレンの生産調整は、すぐに店頭の商品不足を意味するものではないが、包装材や化学製品の供給、価格、納期に影響する可能性がある。

ホルムズ海峡の問題が家計に関係するのは、ガソリンスタンドの価格表示だけではない。食品の包装、物流、製造業のコスト、企業収益を通じて、目に見えにくい形で生活に近づく可能性もある。

出光興産の中期計画が示す現実

出光興産は今回の会見と同じ時期に、2026〜2030年度の新中期経営計画も発表している。ロイターなどによれば、2030年までに総額1.8兆円を投資し、そのうち8300億円を既存の化石燃料事業に充てる方針だ。

脱炭素の流れがなくなったわけではない。それでも、地政学リスクが高まるなかでは、燃料油など既存事業の安定供給をどう守るかが再び大きな経営課題になっている。エネルギー転換は進める必要がある一方で、今日の産業と生活を支える燃料を途切れさせない責任も残る。

この点で、出光興産の動きは一社だけの話ではない。日本全体が、中東依存の高さを抱えたまま、代替調達、備蓄、物流ルートの確保を進める必要性が高まっている。

次に見るべきなのは価格だけではない

読者が気にしやすいのは、ガソリン価格が上がるかどうかだ。もちろん価格は重要だが、今回の問題ではもう一段広く見る必要がある。

見るべきなのは、代替調達がどの程度続くのか、輸送コストがどこまで上がるのか、石油化学製品の生産調整が長引くのか、そして企業がそのコストをどこまで価格に転嫁するのかだ。原油価格だけが落ち着いても、物流や調達条件が悪化すれば、生活や企業活動への影響は残る可能性がある。

出光興産の「続けていける」という発言は、問題の収束を告げるものではない。むしろ、日本のエネルギー供給が、価格だけでなく「どこから、どう運ぶか」という段階に入っていることを示している。

原油は地下にあるだけでは暮らしを支えない。必要な場所に、必要な時に、現実的なコストで届いて初めて、ガソリンや包装材や日用品になる。今回のニュースが教えているのは、エネルギー安全保障とは資源の量だけでなく、届くまでの道筋を守ることでもあるという現実だ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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