日EUが経済安保で連携強化 ホルムズ海峡と重要鉱物リスクに備える

一つの海上ルートで通航不安が強まれば、原油や天然ガスの価格は家計に跳ね返りうる。一つの鉱物の輸出が滞れば、EV、蓄電池、半導体、防衛装備の生産にも影響が及ぶ。日本とEUが今回確認した協力は、遠い外交ニュースではなく、エネルギー価格や企業活動、さらには物価にもつながる供給網の問題だ。

赤澤亮正経済産業大臣は2026年5月7日、ベルギー・ブリュッセルで開かれた第7回「日EUハイレベル経済対話」に出席した。日本側からは堀井巌外務副大臣も参加し、EU側からはステファン・セジュルネ欧州委員会上級副委員長と、マレシュ・シェフチョビチ欧州委員が出席した。

今回の対話は、貿易だけでなく、産業政策と経済安全保障まで対象を広げた「強化された形式」として初めて開かれた。焦点になったのは、中東情勢を背景にした海上ルートの安全、レアアースを含む重要鉱物の安定供給、バッテリーや防衛・宇宙産業などでの協力である。

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何がいつもの経済対話と違ったのか

今回の対話で目立つのは、議題が「関税を下げる」「貿易を増やす」といった従来型の通商協力にとどまらなかった点だ。日EU共同プレス声明では、中東情勢について意見交換したうえで、円滑に機能する安定的で透明性の高いエネルギー市場の重要性を強調した。あわせて、航行の安全や重要な海上ルート、インフラの保護を含む「安全かつ途切れることのない貿易の流れ」の重要性を再確認している。

背景として意識されているのが、ホルムズ海峡をめぐる通航リスクだ。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とインド洋を結ぶ重要な海上ルートであり、中東産の原油やLNGが世界へ運ばれる際の大動脈である。日本にとってもエネルギー調達上の重要度は高い。

ここで通航不安が強まれば、原油や天然ガスの供給に不安が生じ、ガソリン代、電気料金、物流コスト、食品価格などへ波及する可能性がある。赤澤経産相が会合後、イラン情勢の長期化に備え、IEA=国際エネルギー機関のもとで追加の協調放出を含む機動的な対応が必要だと述べたのも、日本のエネルギー調達リスクに直結する問題意識を示したものといえる。

なぜレアアースまで同じ文脈で語られるのか

もう一つの柱は、レアアースなどの重要鉱物だ。重要鉱物とは、経済や安全保障に欠かせない一方で、供給が特定の国や地域に偏りやすい鉱物資源を指す。レアアース、リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなどが代表例で、EVの電池、スマートフォン、半導体、風力発電設備、防衛装備などに使われる。

日本とEUは今回、重要鉱物を含む戦略的サプライチェーンを混乱させないよう、輸出管理措置が厳密に定義され、差別的でなく、国際法と国際慣行に沿うことの重要性を確認した。これは、特定国による輸出規制や供給網への影響を念頭に置いた表現だ。

ここで重要なのは、海上ルートとレアアースが別々の問題ではないという点である。どちらも、日本経済にとって「海外に依存する重要な供給ルート」だ。エネルギーの供給が乱れれば生活コストが上がり、重要鉱物の供給が乱れれば自動車、電池、半導体、防衛関連産業の生産にも影響が及ぶ。今回の日EU協力は、物価、企業業績、株式市場、為替にも波及しうるテーマである。

「中国依存を減らす」は簡単な話なのか

ただし、重要鉱物の供給網を多角化することは簡単ではない。安定した鉱山を確保し、精製や加工の能力を整え、企業が使える価格と品質で供給するには時間がかかる。単に「中国以外から買えばよい」という話ではなく、採掘から加工、輸送、在庫、リサイクルまでを含めた仕組みを作る必要がある。

経済産業省の発表によれば、5月7日にはG7で初めて重要鉱物閣僚会合も開かれた。会合では、重要鉱物サプライチェーンの多角化に向けた支援のあり方が議論され、赤澤経産相は特定国への依存度低減に向けた代替供給源の形成が喫緊の課題だと説明した。

G7貿易大臣コミュニケでも、重要鉱物の供給網は高い集中、供給途絶、市場をゆがめる慣行にさらされていると指摘されている。各国は依存を下げたいという方向では一致しやすいが、費用負担や産業政策、既存の取引関係をどう調整するかでは課題が残る。今回の日EU対話は、供給不安がすぐに消えるという合意ではなく、代替ルートや共同プロジェクトを具体化する段階にあると読める。

家計や投資にはどこでつながるのか

経済安全保障という言葉は大きく聞こえるが、最終的にはかなり身近なところに降りてくる。中東情勢を背景に海上輸送への不安が長引けば、燃料費や電気料金を通じて家計に影響する可能性がある。企業側では、物流費や原材料費の上昇が利益を圧迫し、製品価格に反映されることもある。

重要鉱物も同じだ。EVや蓄電池、半導体関連の企業は、材料を安定して調達できなければ生産計画を立てにくくなる。防衛装備や再生可能エネルギー設備にも重要鉱物は使われるため、供給不安は単なる資源価格の問題にとどまらない。

投資の視点でも、この論点は無視しにくい。エネルギー価格が上がればインフレ圧力になり、金利や為替に影響する可能性がある。重要鉱物の供給網が揺れれば、自動車、電池、半導体、商社、資源関連企業の業績見通しにも波及しうる。新NISAなどで投資信託や個別株を選ぶ場合でも、世界の供給網がどこに弱点を持っているかを知っておくことは、値動きの背景を理解する助けになる。

次に見るべきなのは「協力」の中身だ

今回の日EU経済対話は、日本とEUが経済安全保障で連携を強める姿勢を示した点で意味がある。一方で、読者が次に見るべきなのは、声明そのものよりも、その後にどのような支援策や共同プロジェクトが動くかである。

共同声明では、日EUが2025年7月の日EU定期首脳協議で立ち上げた「日EU競争力アライアンス」を実現する方針が確認された。対象には、重要鉱物、バッテリー、クリーン技術、クリーンエネルギー、鉄鋼、ロボティクス、バイオテクノロジー、防衛・宇宙産業などが並ぶ。さらに、EU重要原材料法に基づく戦略的プロジェクトのマッチングを踏まえ、日EU間の重要鉱物共同プロジェクトを実現するための支援を検討する意向も示された。

エネルギーでは、IEAの枠組みでの協調放出や、中東の産油国との協力、海上ルートの安全確保が焦点になる。赤澤経産相がサウジアラビアのアブドルアジーズ・エネルギー相とオンラインで会談し、二国間協力を検討する作業部会の立ち上げで合意したことも、この流れの一部だ。

経済安全保障は、危機が起きてから急に整えるものではない。平時から、どの物資をどこに頼り、どこが止まると生活や産業に影響するのかを見ておく必要がある。今回の日EU協力が示したのは、自由な貿易を続けるためにも、供給網の弱点を放置できない時代に入っているということだ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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