東京地方裁判所は2026年4月24日、オンライン会議サービス「Zoom」のロゴをめぐる商標権訴訟で、米Zoom Communications, Inc.などに対し、合計約1億8000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。
一方で、ロゴの使用差し止めは認めなかった。
この判決で重要なのは、「ロゴが似ているかどうか」だけではない。裁判所が、過去には混同のおそれを認めながら、現在の使用差し止めまでは認めなかった点だ。
つまり、商標の争いでは、先に登録していたかだけでなく、その時点で消費者や利用者がどう認識していたかも問われる。
判決の概要
訴えを起こしたのは、東京都に本社を置く音楽用電子機器メーカーの株式会社ズームだ。同社はエフェクター、レコーダー、ミキサーなどを手がける企業で、東証スタンダード上場、証券コードは6694である。
一方、被告側の中心となったのは、オンライン会議サービスを運営する米Zoom Communications, Inc.だ。同社はNASDAQ上場企業で、ティッカーはZMである。報道では、日本側の販売代理店としてNECネッツエスアイも訴訟の対象になったとされる。NECネッツエスアイはかつて東証プライム上場、証券コード1973だったが、2025年3月21日に上場廃止となった。親会社のNECは東証プライム上場、証券コード6701である。
各社報道によると、東京地裁は、米Zoom側に約1億6600万円、日本の販売代理店側に約1600万円の支払いを命じた。合計では約1億8000万円規模となる。
ただし、原告側が求めていたロゴ使用の差し止めについては認めなかった。
争点は「似ている」だけではなかった
日本のズームは、2005年に「ZOOM」の文字を図案化したロゴを出願し、2006年に商標登録を受けたとされる。
米Zoomは2011年に設立され、その後、オンライン会議サービスのロゴや表示で「Zoom」を使った。両社のロゴは、アルファベットの並びや読み方が共通しており、日本のズーム側は商標権侵害を主張した。
東京地裁は、一定期間について混同のおそれを認めたと報じられている。特にポイントになったのは、2020年6月ごろまでの認識だ。
新型コロナウイルスの感染拡大により、オンライン会議サービスのZoomは急速に普及した。それ以前の時期には、一般の利用者や投資家が両社を混同するおそれがあった、という判断である。
実際、日本のズームは、米Zoom関連のニュースをきっかけに自社株が誤って買われたとみられる値動きがあったと主張していた。社名やロゴの混同が、単なる見た目の問題にとどまらず、株式市場にも影響しうることを示す事例である。
なぜ差し止めは認められなかったのか
今回の判決で読者が疑問を持ちやすいのは、「商標権侵害を認めたなら、なぜロゴ使用を止めさせないのか」という点だ。
報道ベースでは、裁判所は2020年7月以降、オンライン会議サービスとしてのZoomの知名度が大きく高まり、一般の人が米Zoomのロゴを別の著名な表示として認識するようになったと判断したとされる。
言い換えると、過去の一定期間については混同のおそれがあった。しかし、その後は米Zoom側のブランドとして広く知られるようになり、現在の使用差し止めを認めるほどの混同のおそれはない、という整理だ。
ここが、この判決の一番おもしろい部分である。
普通に考えると、先に商標登録をしていた企業のほうが強いように見える。しかし商標の判断では、登録の先後だけではなく、実際の市場でどう認識されているか、どの時点の混同を問題にするかも重要になる。
そのため、今回の判決は「日本のズームが全面的に勝った」「米Zoomが全面的に勝った」と単純に言い切れるものではない。
過去の損害については賠償を命じる。一方で、現在のロゴ使用そのものは止めない。そうした時間軸を分けた判断だったと読める。
投資家にとっての教訓
このニュースは、法律の話であると同時に、投資家にとっても見落とせない話だ。
似た社名や似たブランド名を持つ企業は、国内外に少なくない。特に英字表記の社名やサービス名では、ニュースの見出しだけを見て判断すると、別会社を同一企業だと誤認するリスクがある。
今回の件でも、米Zoom Communications, Inc.はNASDAQ上場のZMだ。一方、日本の株式会社ズームは東証スタンダード上場の6694である。名前は似ているが、事業内容も上場市場も異なる。
また、販売代理店として報じられたNECネッツエスアイは、現在は上場廃止済みだ。過去の証券コード1973を見かけても、現時点で売買できる上場銘柄として扱うのは適切ではない。
ニュースを読むときは、会社名だけでなく、証券コード、上場市場、親会社や子会社の関係を確認する必要がある。これは地味だが、誤発注や誤認投資を避けるための基本である。
企業ブランドの価値は時間で変わる
今回の判決は、ブランドやロゴの価値が時間とともに変わることも示している。
商標は、登録すれば永久にあらゆる場面で絶対的に守られるというものではない。どの商品やサービスに使われているか、どのような表示なのか、消費者がどう受け止めているかによって、判断は変わる。
特にインターネットサービスでは、短期間で知名度が大きく変わる。2020年のコロナ禍でオンライン会議サービスのZoomが一気に一般化したことは、その典型例だ。
その急速な知名度上昇が、過去の損害賠償と現在の差し止め判断を分けた可能性がある。
企業にとっては、ロゴや社名が持つリスクを早い段階で確認することが重要だ。投資家にとっては、似た名前の企業を取り違えないことが重要である。
この判決は、商標権のニュースであると同時に、ブランド、知名度、株式市場がどのようにつながるかを考える材料になる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

