EV化が進むと、自動車の電池はリチウムイオン電池の話だけで語られがちだ。だが2026年5月30日時点でEV時代の素材需要を整理すると、走行用の主電池とは別に、低電圧系統や補機用バッテリー、交換用部品、産業用電源、リサイクル原料という別の論点が見えてくる。
その入り口になるのが、広島県豊田郡大崎上島町の契島にある鉛製錬拠点だ。地理的には竹原市沖約4キロに位置するこの島で、東邦亜鉛(東証プライム、5707)グループの東邦契島製錬が鉛製錬を担っている。
この話は「EVになれば鉛が不要になるのか」という単純な問いでは終わらない。リチウムが主役に見える時代ほど、見えにくい補機電源や回収網、国内製錬の役割を分けて確認することが重要になる。
リチウムが主役になっても、鉛が使われる領域は残っている
EVの走行用主電池は、現在リチウムイオン電池が中心だ。IEAの「Global EV Outlook 2025」でも、EV用電池需要の拡大やサプライチェーンの集中が大きな論点として扱われている。
ただし、自動車の電源構造は主電池だけではない。車内の制御系や一般電装品を支える低電圧系統があり、補機用バッテリーが使われる場合がある。従来の自動車では鉛蓄電池が広く使われてきたが、EVでも補機用電池の方式は車種やメーカーによって異なる。
そのため、鉛需要を「増える」か「消える」かの二択で見ると、実態を見誤りやすい。エンジン始動用の需要は自動車構造の変化を受ける一方、補機用、交換用、産業用、非常用電源など、一定の用途が残る分野もある。EV化は鉛を一気に不要にするというより、使われる場所と量の内訳を変えていく動きとして捉えるほうが自然だ。
契島の数字は「生産能力」「シェア」「使用割合」を分けて読む
東邦亜鉛の鉛製錬事業ページでは、契島製錬所について敷地面積9万平方メートル、鉛地金の年間生産能力12万トン、銀地金の年間生産能力400トンと説明している。同ページでは、日本の自動車鉛バッテリーの40%以上に東邦契島製錬製の鉛が使われているとも記載されている。
一方、東邦契島製錬の公式サイトでは、国内電気鉛シェア40%との説明がある。さらに東邦亜鉛の鉛バッテリーリサイクル事業ページでは、鉛地金の生産能力10万トン、国内生産量のおよそ45%という別の表記も確認できる。
ここで注意したいのは、これらの数字が同じものを示しているわけではない点だ。12万トンや10万トンは生産能力に関する表記であり、40%以上は自動車鉛バッテリー向けの鉛使用割合、40%や45%は国内電気鉛や国内生産量に関する説明として読む必要がある。車両台数そのものを示す数字ではない。
それでも、契島が国内の鉛供給で大きな位置を占める拠点であることは読み取れる。自動車バッテリーの交換、整備、回収の裏側に、瀬戸内海の製錬所が関わっているという点で、このニュースは素材産業だけでなく一般の自動車ユーザーにもつながっている。
鉛だけでなく、副産物金属も扱う製錬拠点としての意味
契島の役割は鉛だけに限られない。東邦契島製錬の主な製品には、電気鉛、鉛合金、電気銀、電気ビスマスが並ぶ。製錬所は一つの金属だけを取り出す場所ではなく、原料に含まれる複数の金属を回収し、利用可能な形にする拠点でもある。
ここで銀やビスマスの用途を広げて語りすぎるのは避けたい。契島産の銀やビスマスが、どの用途にどれだけ使われているかまでは、今回の資料だけでは確認しきれないためだ。ただ、鉛製錬の過程で副産物金属も生産されている事実は、契島を単なる自動車バッテリー向け素材の拠点としてだけではなく、複数の金属を扱う国内製錬インフラとして見る手がかりになる。
EV関連素材というと、リチウム、ニッケル、コバルトなどに注目が集まりやすい。だが実際の産業基盤は、目立つ主電池の素材だけで成り立っているわけではない。古くから使われてきた鉛や、その回収網、副産物金属の生産も、素材供給の一部を構成している。
鉛蓄電池はリサイクル性と有害性を同時に考える素材だ
鉛蓄電池は、自動車用バッテリーや非常用設備などで長く使われてきた。新しい電池技術と比べると古い技術に見えやすいが、評価軸は性能だけではない。回収と再資源化の仕組みが整っていることも、鉛蓄電池を考えるうえで重要な特徴になる。
電池工業会は、自動車用鉛蓄電池について、ほぼ100%に近く回収・リサイクルされていると説明している。東邦亜鉛グループも、使用済み鉛バッテリーを回収・解体し、東邦契島製錬で再資源化する事業を紹介している。
ただし、リサイクルされやすいことは、環境リスクが小さいことと同じではない。鉛は有害性を持つ金属であり、回収網、解体、製錬、環境対策、適正処理がそろって初めて、資源循環の仕組みとして機能する。契島を見るときも、生産能力だけでなく、使用済みバッテリーがどう集められ、どう再資源化されるかまで含めて考える必要がある。
家計や企業に届くのは、価格よりもまず供給と回収の仕組みだ
一般消費者が日常的に鉛地金の需給を意識することは少ない。だが自動車を保有していれば、バッテリー交換や整備、使用済みバッテリーの回収を通じて、鉛の循環と間接的につながっている。
鉛価格や国内供給体制が車の維持費にどの程度影響するかは、今回の資料だけでは断定できない。とはいえ、補機用バッテリーや交換部品が残る限り、鉛は自動車のメンテナンスを考える際の背景材料にはなる。
企業側では、自動車メーカー、部品メーカー、バッテリーメーカー、リサイクル事業者、非鉄金属メーカーが関係する。EV化で伸びる素材だけでなく、既存素材をどう確保し、使用済み製品からどう戻すかも、サプライチェーン管理の論点になる。
投資家にとっても、鉛価格、製錬所の稼働率、リサイクル原料の調達、環境対応コスト、副産物金属の市況は確認材料になりうる。ただし、個別企業の業績や株価を評価するには、決算資料や市況データを別途確認する必要がある。ここでの焦点は投資判断ではなく、EV時代の素材需要を単純化せずに読むための整理にある。
今後の焦点は、鉛がどこで使われ、どう回収されるか
EV時代の素材論は、リチウムイオン電池だけでは完結しない。走行用主電池が変わっても、低電圧系統、補機用バッテリー、交換部品、産業用電源、非常用設備、回収網は別の論点として残る。鉛は、その構造を理解するための代表的な素材の一つだ。
契島は、鉛地金の供給拠点であると同時に、使用済み鉛バッテリーの再資源化や、副産物金属の生産にも関わる拠点として位置づけられる。島の工場という見た目の珍しさだけでなく、国内製造基盤、資源循環、環境管理が交差する場所として見ると、ニュースの意味は広がる。
次に確認したいのは、鉛需要が単純に増えるか減るかではない。EVの補機用バッテリーでどの方式が広がるのか、交換用バッテリーや非常用電源の需要がどう変わるのか、使用済み鉛蓄電池の回収網が維持されるのか、国内製錬拠点がどの程度の供給力を保つのか。リチウムが主役に見える時代でも、見えにくい素材の流れを追うことが、日本の産業基盤を理解する手がかりになる。
出典・参考
主な参照資料
- 東邦亜鉛株式会社「鉛製錬事業」 https://www.toho-zinc.co.jp/business/metallurgy/lead/index.html
- 東邦亜鉛株式会社「鉛バッテリーリサイクル事業」 https://www.toho-zinc.co.jp/business/metallurgy/lead/recycle.html
- 東邦亜鉛株式会社 IR「銘柄基本情報」 https://www.toho-zinc.co.jp/ir/stock/brand.html
- 東邦契島製錬株式会社 https://www.tohochigirishima.com/
- 一般社団法人 電池工業会「鉛蓄電池について」 https://www.baj.or.jp/battery/qa/car.html
- IEA「Global EV Outlook 2025: Electric vehicle batteries」 https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2025/electric-vehicle-batteries

