株高でもIPOが伸び悩む日本市場 「数」より上場後の成長力が焦点に

2026年春の日本株は堅調に推移している一方で、国内IPO市場には勢いの弱さが見える。日本取引所グループ(JPX)の資料では、2026年1月から4月までの東証IPOは、プライム、スタンダード、グロースの主要3市場で計14件だった。

一見すると、株式市場が強ければ、未上場企業も上場しやすくなりそうに思える。だが、株高は市場全体に均等に資金が流れていることを意味しない。投資家の関心は、AI・半導体関連、資本効率改善、株主還元など、評価されやすいテーマや既上場企業に向かいやすい。

このニュースの読みどころは、IPO件数の増減そのものではない。日本市場で「上場すること」よりも、「上場後に成長し、市場から評価され続けられるか」が以前より意識されやすくなっている点にある。個人投資家にとっては新しい成長企業への入口がどう変わるのか、スタートアップにとっては資金調達と出口戦略をどう組み立てるのかに関わる話だ。

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IPO件数は、どの市場を数えるかで印象が変わる

IPOは、未上場企業が証券取引所に株式を上場し、投資家が市場で売買できるようにする仕組みだ。企業にとっては資金調達、知名度向上、採用力強化、創業者や初期投資家の出口機会といった意味を持つ。

JPXの「最近のIPOの状況」によれば、2026年1月から4月までの東証IPOは次のように分かれる。

  • プライム市場: 0件
  • スタンダード市場: 6件
  • グロース市場: 8件
  • 主要3市場の合計: 14件
  • TOKYO PRO Market: 17件
  • TOKYO PRO Marketを含む合計: 31件

ここで重要なのは、「IPO件数」と言っても、どの市場を含めるかで見え方が大きく変わることだ。TOKYO PRO Marketは主にプロ投資家向けの市場であり、一般の個人投資家がイメージするIPOとは性格が異なる。IPO市場の勢いを読むには、主要3市場とプロ向け市場を分けて確認する方が実態に近い。

2025年についても、集計主体によって数字は少し異なる。KPMGジャパン/あずさ監査法人の公開情報では、国内新規上場社数は2024年の86社から2025年は66社へ減った。別の報道では近いが異なる数字も示されており、市場範囲や集計時点の違いが影響している可能性がある。方向性としては、2025年にIPOが大きく減ったことが確認材料になる。

公開価格割れは、IPO人気の変化を映す材料になる

個人投資家にとって、IPOは長く「初値利益」を期待しやすいイベントとして注目されてきた。公開価格で購入し、上場後に最初につく初値がそれを上回れば、短期的な利益が出る。この分かりやすさがIPO人気を支えてきた面がある。

ただ、2026年前半はその前提が揺らいでいる。EY Japanの資料では、2026年1月から3月までの国内新規上場6社は、TOKYO PRO MarketおよびFUKUOKA PRO Marketを除くベースで、いずれも初値が公募価格を下回ったとされる。

公開価格割れは、企業価値がないことを意味しない。市場環境、価格設定、業種への評価、投資家心理、上場時の需給など、複数の要因で起きる。ただし少なくとも、IPO銘柄なら一律に買われる環境ではないことを示す材料になる。

そのため、IPOを短期的な初値利益だけで捉える見方は、以前より慎重さが求められる。事業内容、収益性、成長計画、公開価格の妥当性、上場後の株主構成も、投資家が意識しやすい判断材料になっている。

東証改革だけではなく、投資家の選別姿勢も重なっている

IPOの伸び悩みを、東証改革だけで説明するのは単純化しすぎになる。ただ、東証改革の流れのなかで、上場後の資本効率や市場評価が意識されやすくなっていることは背景の一つと考えられる。

東証は近年、上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営を促してきた。既上場企業では、自社株買い、増配、事業再編、政策保有株の見直しなど、投資家を意識した動きが広がっている。

この変化は、新規上場を目指す企業にも間接的に影響する。以前のように「まず上場し、その後に成長する」という発想だけでは、市場から評価されにくくなっている可能性がある。上場時点で一定の規模、成長戦略、ガバナンス、投資家への説明力を備えているかが、より問われやすい。

特にグロース市場は、成長可能性のある企業の受け皿として重要な役割を持つ。一方で、上場後に成長を示せない企業が増えれば、市場全体への信頼は下がる。IPO件数の減少は、市場の不調という面だけでなく、小規模上場を見直し、上場後の成長力をより重視する流れとしても読める。

株高でも、資金は新規上場企業に均等には向かわない

株価指数が堅調でも、資金が新規上場企業に広く流れ込むとは限らない。投資家は、すでに業績や事業基盤が見えている既上場企業のなかから、資本効率改善や株主還元に積極的な企業を選びやすい。

AIや半導体関連のように世界的な成長テーマを持つ企業も、資金を集めやすい。こうしたテーマが市場の注目を集めるほど、事業規模が小さく実績も限られるIPO銘柄は、相対的に厳しく評価される場面が出てくる。

SaaS企業への評価変化も、IPO市場の慎重姿勢につながっている可能性がある。高成長企業として評価されやすかったSaaSでも、収益性や競争環境への視線が強まれば、売上成長率だけで高い評価を得ることは難しくなる。

これは、成長企業への関心が消えたという話ではない。投資家が「成長しているか」だけでなく、「その成長がどれだけ持続的で、収益につながるのか」を細かく確認するようになっている、という変化として捉えられる。

スタートアップにとって、上場だけが出口ではない

IPO件数の減少を、企業側の弱さだけで説明するのも早い。未上場企業にとって、資金調達や出口戦略の選択肢が広がっている可能性もある。

事業会社からの出資、ベンチャーキャピタルからの追加調達、M&A、借り入れやデットファイナンスなど、上場以外の道を選びやすくなれば、企業は早い段階でのIPOにこだわらない選択を取りやすくなる。上場すれば市場から継続的に評価される一方、未上場のまま成長投資を続ける判断もあり得る。

日本経済にとって重要なのは、IPO件数そのものだけではない。成長企業がどのように資金を集め、どの段階で公開市場に出てくるかだ。件数が減っても、より成熟した企業が上場するなら、市場の質が高まる可能性がある。逆に、成長企業が公開市場に出てこなくなれば、個人投資家が成長初期の企業にアクセスする機会は限られる。

次の焦点は、IPOの数と上場後の成長を分けて読むこと

今回のIPO低調は、「株高なのにおかしい」という単純な話ではない。株高の中身が変わり、投資家が企業を選別し、東証改革の流れのなかで上場後の資本効率や市場評価が意識されやすくなっている。

個人投資家にとっては、IPOを短期的な初値利益だけで捉える見方に、以前より慎重さが求められる局面だ。企業にとっては、上場そのものをゴールにするのではなく、上場後も市場から評価される経営を続けられるかが論点になる。

今後確認したい材料は、IPO件数の増減だけではない。主要3市場とTOKYO PRO Marketを分けた件数、公開価格割れの比率、上場後の株価推移、グロース市場の改革、未上場企業の資金調達環境を合わせて見ることで、日本市場がどのような成長企業を公開市場に迎えようとしているのかが見えやすくなる。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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