白黒パッケージに広がる中東リスク インク不足ではなく「供給不安」が食品メーカーを動かす

いつものスナック菓子やケチャップのパッケージから、色やイラストが減る。見た目だけなら小さな変化に見えるが、その背景には中東情勢、石油化学製品、食品メーカーの供給判断がつながっている。

ただし、ここで注意したいのは「インクが足りなくなって商品が作れない」という話ではない点だ。鈴木憲和農林水産大臣は5月15日の記者会見で、インクの材料である溶剤について「平時と同様に必要量の供給ができている」との認識を示した。食品メーカーなどで相次ぐパッケージ変更は、現時点の不足というより、今後の供給不安に備えた企業側の予防的な対応と位置づけられている。

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何が変わり始めているのか

食品メーカーの間で、商品パッケージを簡素化する動きが出ている。色数を減らしたり、印刷部分を少なくしたり、印刷入りの資材を無地に切り替えたりする対応だ。

代表的な例がカルビー(東証プライム・2229)である。ポテトチップス、かっぱえびせん、フルグラなど14商品について、パッケージを一時的に白黒2色へ切り替える方針を示している。APなども、同社の一部商品で中身は変わらず、安定供給のための対応として包装を見直す動きだと伝えている。

カゴメ(東証プライム・2811)も、主力商品の「カゴメトマトケチャップ」で包装デザインを変更する。対象は500グラム、300グラム、180グラムの3商品で、パッケージのトマトのイラストを減らし、透明部分を増やす。背景には、印刷下地に使う白インクの供給不安定化がある。

日清製粉ウェルナを傘下に持つ日清製粉グループ本社(東証プライム・2002)でも、対応が出ている。同社は4月10日、「マ・マー スパゲティ」結束タイプ製品と乾麺に使う印刷入り結束テープの調達が不安定になっているとして、順次、印刷のない無地の結束テープに変更すると告知した。結束テープ以外の製品仕様に変更はないとしている。

これらは、商品の味や内容量を変える話ではない。むしろ、商品を店頭に出し続けるために、包装の側を先に調整している動きだ。

なぜ食品パッケージに中東情勢が関係するのか

一見すると、インクと中東情勢は遠い話に見える。しかし、食品パッケージに使われる印刷インクには、石油化学製品由来の溶剤や樹脂が使われる。なかでもナフサは、原油から得られる基礎原料で、インクだけでなく、プラスチック、塗料、接着剤、合成ゴムなど幅広い製品の出発点になる。

そのため、原油やナフサの調達に不安が出ると、影響はガソリン価格だけにとどまらない。容器、ラベル、包装フィルム、印刷資材といった、商品を消費者に届けるための周辺部分にも波及する可能性がある。

今回の動きが注目されるのも、そのためだ。日本の菓子パッケージが白黒になるという見た目の分かりやすさの裏側に、エネルギー、石油化学、包装資材がつながったサプライチェーンの問題がある。

つまり、これは「食品そのものが不足している」というニュースではない。食品を包み、並べ、消費者に届けるための仕組みが、地政学リスクに反応している面があるというニュースだ。

「不足」ではなく「不安」が企業を早めに動かす

農林水産省の5月15日会見概要によると、鈴木農水相は、現時点では現行のパッケージのままでも問題はないと説明した。食品包装に必要な資材など、ナフサ由来の化学製品についても、全体として年を越えて供給を継続できる見込みだとしている。

そのうえで、インクの材料である溶剤は平時と同様に必要量を供給できているとの認識を示し、各社の対応は、万が一今後の供給不安が生じた場合に備えた経営判断に基づくものだと説明した。今回の中東情勢に伴う食料供給上の問題とは考えていない、というのが政府の整理である。

ここで重要なのは、「供給不足」と「供給不安」は違うという点だ。

供給不足は、すでに必要なものが足りない状態である。一方、供給不安は、今は足りていても、数週間後や数か月後の調達が読みづらい状態を指す。企業にとっては、後者の段階でも対応を始める理由になりうる。

食品メーカーは、商品そのものを作れても、包装資材がなければ店頭に出せない。賞味期限や物流計画、店頭での販売時期もあるため、資材調達の遅れは販売計画に影響する。だからこそ、インク使用量を減らしたり、色数を絞ったりする対応は、単なる節約ではなく、安定供給を守るための先回り策になる。

白インクが問題になりやすいのはなぜか

カゴメの例で出てきた「白インク」は、食品パッケージでは重要な役割を持つ。透明なフィルムや容器に印刷する場合、赤や緑などの色をきれいに見せるには、下地として白を置くことがある。白い下地があるからこそ、写真やイラストの色がはっきり見える。

カゴメのパッケージでは、この白インクが印刷下地として使われている。報道では、白インクは印刷適性の観点から使用可能な種類が限られ、代替が難しいと説明されている。つまり、単に別の色に置き換えれば済むわけではない。

パッケージの透明部分を増やす、イラストを減らす、色数を抑えるといった対応は、こうした事情とつながっている。消費者の目には「少し簡素になった」ように見えるだけでも、企業側では資材調達、印刷工程、販売計画を合わせて調整している。

消費者にはどんな影響があるのか

現時点では、パッケージ変更によって商品の品質や内容量が変わるわけではない。カルビーや日清製粉ウェルナの説明も、商品を安定供給するための対応という位置づけだ。

ただし、包装資材や物流費、石油化学製品の価格上昇が続けば、最終的には商品価格に影響する可能性はある。今回の変更が直ちに値上げを意味するわけではないが、原油やナフサの価格、印刷資材の調達、包装コストは、時間差を置いて商品価格に反映されることがある。

消費者にとっては、見た目の変化を「デザイン変更」とだけ見るのではなく、物価や供給網の変化が生活用品の細部にも表れる事例として捉えると理解しやすい。

これは小さな包装変更で終わる話なのか

今回の動きは、単なる白黒パッケージのニュースとして片づけるには惜しい。中東情勢の影響は、原油価格やガソリン代だけでなく、ナフサ、インク、包装資材を通じて食品メーカーの現場に届くことがある。

一方で、過度に不安を広げる必要もない。政府は現時点で必要量の供給はできているとの認識を示しており、企業側の対応も商品供給を続けるための予防的な措置と説明されている。今起きているのは、供給不足が表面化したというより、企業が供給不安に備えて先に動いている局面だ。

身近な商品のパッケージが少し変わったとき、その裏側には原材料、エネルギー、国際情勢、企業の調達判断が重なっていることがある。白黒になった包装は、単なる色の問題ではない。食品棚の見た目にも、世界の供給網の変化が映り込むことがある。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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