中小企業M&Aに資格制度導入へ 悪質仲介対策で何が変わるか

中小企業のM&Aを仲介する個人を対象に、新たな資格制度が導入される見通しとなった。経営者の高齢化で事業承継の手段としてM&Aが広がる一方、手数料や契約内容をめぐるトラブルも表面化しているためだ。

今回のポイントは、会社単位ではなく、実際に現場で助言や仲介を担う「個人」に目を向けることにある。中小企業庁はすでにM&A支援機関の登録制度を設けているが、担当者ごとの知識や倫理観までは見えにくい。新たな資格制度には、その部分を補う狙いがある。

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仲介する個人の知識と倫理を確認する制度

政府は、中小企業のM&Aを仲介する個人を対象に、業務に必要な知識や倫理、行動規範などを問う試験を設ける方針だ。希望者は試験に合格したうえで国のデータベースに登録されれば、資格を名乗れる方向で検討されている。

倫理規定に違反した場合には、氏名の公表や登録の取り消しも想定されている。初回の試験は、早ければ2026年度中にも行われる見通しだ。

これまでM&A仲介をめぐっては、一部の利用者から「高額な手数料を取られた」「途中解約時に違約金が発生する説明がないまま契約した」といった相談が寄せられていた。中小企業の経営者にとってM&Aは何度も経験する取引ではない。仲介会社との情報格差が生まれやすく、専門家側の説明責任や倫理性が重要になる。

事業者登録から担当者個人の確認へ

中小企業庁は2021年8月、M&A支援機関の登録制度を創設した。中小M&Aガイドラインの遵守を宣言したフィナンシャル・アドバイザーや仲介業者を登録し、データベースで公表する仕組みである。

中小企業庁の公表資料によると、2026年3月9日時点で登録されているFA・仲介業者は3,399件。内訳は法人が2,606件、個人事業主が793件となっている。登録支援機関の手数料体系も公表されており、中小企業が依頼先を比較しやすくする狙いがある。

ただ、制度の中心は事業者単位だった。実際に経営者と面談し、企業価値の考え方や候補先、手数料、契約条件を説明するのは担当者個人である。会社として登録されていても、担当者の経験や説明の丁寧さにばらつきがあれば、利用者側の不安は残る。

今回の資格制度は、支援機関単位に加え、現場に立つ個人の知識と行動規範も確認する流れと位置づけられる。

なぜ中小企業M&Aでトラブルが起きやすいのか

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では合併・買収と訳される。大企業同士の大型買収を思い浮かべがちだが、中小企業では後継者がいない会社を第三者に引き継ぐ事業承継の手段として使われることがある。

たとえば、地域で長年続いてきた製造業、飲食店、建設会社、医療・介護事業などで、経営者が高齢になっても親族や社内に後継者がいない場合、廃業すれば雇用や取引先、技術、顧客基盤が失われる。そこで、別の企業や個人に会社や事業を引き継ぐ選択肢が出てくる。

ただし、中小企業のM&Aは専門性が高い。売り手と買い手の条件調整、企業価値の算定、秘密保持、基本合意、最終契約、従業員や取引先への対応など、経営者だけで判断するには難しい場面が多い。

ここで仲介者やFAが重要になる。仲介者は売り手と買い手の間に立ち、双方のマッチングや交渉を支援する。FAはフィナンシャル・アドバイザーの略で、基本的には売り手または買い手のどちらか一方の立場で助言する。

仲介者は双方に関わるため、利益相反が起きやすい構造がある。売り手はできるだけ高く売りたい一方、買い手はできるだけ条件を抑えたい。どちらの利益をどう扱うのか、手数料がいつ、どの条件で発生するのか、契約前にどこまで説明するのかが重要になる。

資格制度だけで安全が保証されるわけではない

新たな資格制度は、悪質な仲介を減らすための一手となる。少なくとも、担当者が必要な知識や倫理を学び、一定の試験を通過しているかどうかを利用者が確認しやすくなる。違反時に登録取り消しや氏名公表の可能性があることも、一定の抑止力になり得る。

一方で、資格があるだけでM&Aが必ず安全になるわけではない。M&Aでは会社ごとの事情が異なり、契約内容も複雑だ。手数料体系、最低手数料、中間金、成功報酬、専任条項、途中解約時の違約金、テール条項など、確認すべき点は多い。

資格制度は、利用者にとって「依頼先を見るための材料」が一つ増えるという意味を持つ。登録の有無、手数料体系の明示、契約前の説明の丁寧さ、セカンドオピニオンを取れるかどうかなど、複数の観点で判断することが大切だ。

問われるのは制度を現場でどう使うか

中小企業のM&Aは、後継者不足に悩む経営者にとって重要な選択肢である。会社をたたむしかないと思っていた経営者にとって、第三者への承継は雇用や技術、地域の取引関係を残す道にもなる。

しかし、その入り口で不透明な説明や高額な費用への不信が広がれば、M&Aそのものへの警戒感が強まる。市場拡大だけでなく、利用者保護の観点も強まっている。

今回の資格制度は、事業承継をめぐる支援の焦点が「会社を引き継がせること」から「納得できる形で引き継げること」へ移りつつあることを示している。中小企業にとって重要なのは、M&Aを急ぐことではなく、信頼できる相手と条件を見極めながら進めることだ。

資格制度が実効性を持つかどうかは、試験の中身だけでなく、登録後の管理や違反時の対応、利用者にわかりやすい情報公開にかかっている。M&Aを安心して選べる制度に近づけるには、資格を作ることよりも、その資格が現場でどう使われるかが問われる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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