米国とイランの対立で、焦点は核開発だけでなくホルムズ海峡をめぐる封鎖攻防にも広がっている。トランプ大統領は4月30日、イランの港を出入りする船舶への封鎖措置について「威力は非常に大きい」と述べ、経済的な圧力でイランに合意を迫る考えを示した。
一方、イラン側は核やミサイルの能力を「国家の資産」と位置づけ、放棄しない姿勢を示している。ホルムズ海峡についても、自国が管理する水域だと主張し、米国の封鎖を「海賊行為」と非難している。
この対立は、米国とイランだけの問題ではない。ホルムズ海峡は世界の原油と液化天然ガスの重要な通り道であり、日本のエネルギー安全保障にも直結する。封鎖が長引くのか、交渉再開につながるのかによって、原油価格、物流、電気料金、企業活動への影響も変わってくる。
米国は封鎖を交渉圧力にしている
トランプ大統領は、イラン経済が崩壊しつつあり、石油収入を得られていないと主張した。これは米国側の見方であり、記事側でそのまま事実認定するには注意が必要だ。ただ、米国が封鎖を単なる軍事措置ではなく、核問題でイランを交渉に戻すための圧力カードとして使っていることは明らかだ。
米ニュースサイトAxiosは、米中央軍がイランに対する「短期の強力」な攻撃計画を準備していると報じた。インフラを標的にする案も含まれているとされる。ただし、これは関係者情報に基づく報道であり、正式決定ではない。
封鎖と軍事計画が同時に語られる状況は、米国の圧力が外交だけにとどまらないことを示す。イランにとっては、核開発をめぐる交渉だけでなく、海上交通と国家主権をめぐる対立として受け止められやすい。
イランは核・ミサイル・海峡を主権の問題とみている
イラン側は、核開発やミサイル能力を単なる交渉材料として扱っていない。国営メディアを通じて伝えられた最高指導者モジタバ・ハメネイ師のものとする声明では、核やミサイルに関する技術を国家の資産とみなし、国境と同じように守るとの考えが示された。
この姿勢は、米国の「経済的に追い込めば譲歩する」という読みを難しくする。イランにとって核・ミサイル能力は、安全保障や体制維持の象徴である。圧力が強まるほど、国内向けには譲歩しにくくなる面もある。
ホルムズ海峡をめぐる発言も同じ構図だ。米国のヘグセス国防長官は、封鎖措置を通じて米国が海峡を支配しているとの認識を示した。一方、イランはホルムズ海峡を自国の管理下にあると主張する。双方が同じ海峡について管理権を主張しているため、船舶の通航や国際法の扱いをめぐる摩擦が起きやすい。
ホルムズ海峡は世界のエネルギーの要衝だ
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾から外洋へ出るための最重要ルートである。イランとオマーンの間にある狭い海峡で、中東産の原油や液化天然ガスが世界へ運ばれる通り道になっている。
IEAによると、2025年には原油・石油製品で1日平均約2000万バレルがホルムズ海峡を通過した。これは世界の海上石油貿易の約25%にあたる。液化天然ガスでも、カタールとUAEからの輸出の大半がこの海峡を通り、世界のLNG貿易の約19%を占める。
通航不安が起きれば、影響はイランの石油輸出だけにとどまらない。原油価格、LNG価格、タンカー運賃、保険料、電力コスト、化学製品や物流費にも波及する可能性がある。IEAも、ホルムズ海峡の流れが混乱すれば世界の石油市場に大きな影響が出ると説明している。
日本も当事者である
日本にとって、ホルムズ海峡の問題は遠い中東情勢ではない。日本は原油供給の多くを中東に依存しており、海峡の通航不安は燃料価格や電気料金に跳ね返りやすい。
外務省によると、高市早苗首相は2026年4月30日、イランのペゼシュキアン大統領と電話会談し、日本を含む各国船舶の自由で安全な航行を速やかに確保するよう強く求めた。外務省発表では、日本関係船舶が日本人乗組員3人を乗せてホルムズ海峡を通過したことにも触れている。
この動きから分かるのは、日本の関心が核問題そのものだけではないという点だ。日本にとって重要なのは、エネルギーの安定供給、船舶の安全、原油・LNG価格の安定である。ホルムズ海峡が不安定化すれば、外交問題が生活コストや企業活動に近づいてくる。
米国内では戦争権限法も争点になる
イランへの軍事作戦をめぐっては、米国内の法的な対立も強まっている。米国の戦争権限法は、大統領が議会承認なしに米軍を投入した場合、原則として報告後60日で軍の使用を終了するか、議会の承認を得る必要があると定めている。一定条件では30日の延長も可能だ。
トランプ政権は3月2日に議会へ書面で通知しており、5月1日が60日にあたる。ヘグセス国防長官は、停戦中は60日の期限が一時的に止まるとの認識を示した。これに対し、民主党側は停戦で期限が止まる根拠は乏しいと反発している。
この論点は、中東情勢と米国内政治が結びついていることを示す。米国が封鎖や軍事行動をどこまで続けるのかは、イランとの交渉だけでなく、米議会との関係にも左右される。
見るべきポイントは「封鎖の効果」だけではない
今回のニュースで見るべきなのは、封鎖がイランにどれだけ効くかだけではない。封鎖が強く効くほど、世界のエネルギー市場にも副作用が出る可能性がある。
米国にとって、封鎖はイランを交渉に戻すための圧力カードである。一方、イランにとって、核・ミサイル・ホルムズ海峡は主権や安全保障の象徴である。経済的に追い込めばすぐ合意に向かう、という単純な展開にはなりにくい。
日本にとっては、ホルムズ海峡の安全航行とエネルギー価格の安定が大きな関心事となる。米国の圧力が交渉再開につながるのか、それともイランの反発を強めるのか。今後は、封鎖の継続期間、米議会の動き、イラン側の海峡管理をめぐる対応が焦点になる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

