日本関係タンカーがホルムズ海峡を通過 原油供給に一歩前進も航行正常化はなお遠く

日本関係の大型原油タンカーが、通航量の大幅減が続くホルムズ海峡を通過し、日本へ向けて航行していることが確認された。日本人乗組員3人が乗る日本関係船舶の通過は、今回が初めてとされる。

政府は前向きな動きと受け止めている。ただし、海峡全体の通航はなお正常化しておらず、ペルシャ湾内には多くの日本関係船舶と日本人乗組員が残る。今回の1隻は重要な前進だが、日本のエネルギー供給をめぐる不安が消えたわけではない。

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「IDEMITSU MARU」がホルムズ海峡を通過

2026年4月29日、石油元売り大手の出光興産(5019)グループの子会社が管理する大型タンカー「IDEMITSU MARU」が、中東のホルムズ海峡を通過し、日本へ向けて航行していることが確認された。

このタンカーはパナマ船籍で、全長は330メートル余り。サウジアラビアで約200万バレルの原油を積み込み、UAEのアブダビ沖で1週間以上停泊したあと、4月27日夜に航行を再開した。船舶位置情報サービス「マリントラフィック」では、4月29日午前時点でオマーン湾を航行中で、目的地は名古屋、到着は5月中旬の予定とされている。

高市総理大臣は4月29日、旧ツイッターのXへの投稿で、日本人乗組員3人が乗船した日本関係船舶1隻がホルムズ海峡を無事通過し、日本へ向けて航行していることを確認したと明らかにした。

なぜ1隻の通過が大きなニュースなのか

通常であれば、タンカーがホルムズ海峡を通過すること自体は日常的な出来事だ。今回が注目されるのは、海峡の通航量が大きく落ち込むなかで、日本人乗組員が乗る日本関係船舶の通過が確認されたためだ。

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海上交通の要衝である。サウジアラビア、UAE、クウェート、イラクなど中東主要産油国からの原油やLNGは、この海峡を経由して世界へ運ばれる。日本は原油輸入の9割超を中東に依存しており、ホルムズ海峡の通航不安は日本のエネルギー安全保障に直結する。

国連貿易開発会議(UNCTAD)のデータをもとにした報道では、ホルムズ海峡を通過する船の数は、軍事作戦前の2月27日に129隻だった一方、3月3日には7隻、4月26日には6隻に落ち込んだ。軍事作戦前と比べた減少率は95.3%とされる。

この状況で、原油を積んだ日本関係タンカーが通過したことには象徴的な意味がある。だが、通航量全体から見れば、正常化を示すにはまだ遠い。

「日本関係船舶」とは何か

今回のIDEMITSU MARUはパナマ船籍の船だ。それでも「日本関係船舶」と呼ばれるのは、船籍だけで船の実質的な関係を判断できないためだ。

海運業界では、船の国籍にあたる船籍、船を所有する会社、運航・管理する会社、積み荷の持ち主がそれぞれ異なることがある。税制や運航上の理由から、外国に船籍を置くことも珍しくない。

そのため、船籍が外国でも、日本企業が管理・運航に関わる船や、日本人乗組員が乗る船は、日本関係船舶として扱われる場合がある。今回は出光興産グループの子会社が管理する船であり、日本人乗組員3人も乗っていたことから、政府が日本関係船舶として確認したかたちだ。

日本側とイラン側で異なる説明

今回の通過について、日本政府は外交的な働きかけの成果として位置づけている。

外務省関係者はNHKの取材に対し、日本政府はイラン側に通航料を支払っていないと説明した。茂木外務大臣とイランのアラグチ外相との電話会談など、複数の外交チャンネルを通じて通航を求めてきた結果だという。

一方、イラン国営メディアのPress TVは、このタンカーが「イラン当局の許可を得て」通過したと報じた。この表現は、日本側の「自由で安全な航行を求めた」という説明とは異なる。イラン側が海峡に対する影響力を示す文脈で伝えていると受け止められる余地がある。

同じ通過事例でも、日本側は安全航行に向けた前進として説明し、イラン側は許可を与えた側として報じている。この違いは、ホルムズ海峡をめぐる外交上の緊張がなお続いていることを示している。

ペルシャ湾にはなお41隻と12人が残る

今回の通過は前進だが、問題全体が解決したわけではない。

国土交通省によると、ホルムズ海峡が事実上封鎖された当初、ペルシャ湾内には日本関係船舶45隻と日本人乗組員24人がとどまっていた。4月上旬以降、商船三井が関わるLNG運搬船やLPG運搬船が順次通過したが、それらの船に日本人乗組員は乗っていなかった。

4月29日時点でも、ペルシャ湾内には41隻の日本関係船舶と12人の日本人乗組員が残っている。日本船主協会の長澤仁志会長は、残る船員と船舶が安全かつ円滑に脱出できるよう、引き続き支援を求めるコメントを出した。

政府関係者も、そのほかの船舶が自由に航行できている状況にはなく、予断を許さないとの見方を示している。1隻の通過を危機の終わりと見るのは早い。

生活費への波及も無視できない

ホルムズ海峡の問題は、遠い中東の地政学リスクにとどまらない。原油やLNGの輸入が滞れば、ガソリン、灯油、電気、ガスの料金に影響する可能性がある。燃料費が上がれば、物流費、化学製品、食品、航空運賃などにも波及し得る。

海外報道では、イラン情勢とエネルギー価格への懸念が、日本銀行の金融政策判断にも影を落としていると指摘されている。日本は中東原油への依存度が高く、ホルムズ海峡の通航不安に対して脆弱な立場にある。

今回の通過は、日本向け原油輸送にとって明るい材料である。ただし、供給ルートの不安定さが物価や企業コストに及ぶリスクは残る。

一歩前進でも正常化はまだ先

IDEMITSU MARUの通過は、日本にとって重要な前進だ。日本人乗組員が乗る日本関係船舶が海峡を通過したことは、エネルギー供給と邦人保護の両面で意味がある。

ただし、ホルムズ海峡の状況は正常化したとは言い切れない。通航量は軍事作戦前と比べて大きく減ったままで、ペルシャ湾内には多くの日本関係船舶と日本人乗組員が残っている。

今回浮き彫りになったのは、日本のエネルギー供給が中東ルートに深く依存している現実だ。政府は引き続きイラン側への働きかけを続けるとしているが、自由で安全な航行が広く回復するまで、ホルムズ海峡リスクは日本の物価と暮らしに関わる問題であり続ける。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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