原油代替調達は6割にめど 国家備蓄放出後も残る供給網の課題

ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、日本政府は原油の代替調達と国家備蓄の放出を組み合わせ、国内の石油供給を支える方針を示している。NHK報道によると、5月分についてはホルムズ海峡を経由しない代替調達が前年実績の約6割にあたる量まで確保できる見通しとなった。経済産業省も4月24日の発表で、5月には前年実績比で過半の代替調達が可能になるとの見方を示し、約20日分の国家備蓄石油を放出するとしている。

ただし、問題は原油の総量だけではない。医療物資や燃料、化学製品など、石油を原料とする製品の供給では、流通の偏りや目詰まりへの懸念が残る。焦点は「原油をどれだけ確保できるか」から、「必要な製品を必要な地域へ届けられるか」へ移りつつある。

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政府、国家備蓄20日分を追加放出

経済産業省は、ホルムズ海峡を通らないルートでの原油調達について、5月には前年実績比で過半の代替調達が可能になる見込みだと発表した。あわせて、石油の安定供給を確保するため、国家備蓄石油を約20日分放出する。

放出量は約580万キロリットル、金額は約5400億円相当とされる。5月1日から売却を始め、ENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油の4社に放出される。ENEOSはENEOSホールディングス(5020)傘下、出光興産(5019)とコスモエネルギーホールディングス(5021)は上場企業、太陽石油は非上場企業である。

国家備蓄とは、政府が非常時に備えて保有する石油の在庫を指す。日本の石油備蓄は、国家備蓄、石油会社などが義務として持つ民間備蓄、産油国との共同備蓄で構成される。今回の放出は、不足分を恒久的に埋める措置というより、代替調達が広がるまでの時間を確保する性格が強い。

ホルムズ海峡は日本のエネルギー物流の急所

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海上交通の要衝だ。中東産の原油やLNGをアジア各国へ運ぶ際の主要ルートであり、日本のエネルギー調達にも深く関わる。

日本は原油輸入の多くを中東に依存してきた。海峡の通航が滞れば、輸入ルートの組み替え、備蓄の取り崩し、代替産地からの調達を同時に進める必要がある。影響はガソリンや軽油だけでなく、物流費、電力・ガス料金、化学製品価格にも波及し得る。

そのため、ホルムズ海峡の混乱は単なる海外情勢ではない。家計、企業活動、医療・物流の現場にまでつながる供給網の問題である。

アメリカ産原油の増加と「質の違い」

代替調達の柱の一つが、アメリカ産原油の輸入拡大だ。NHK報道では、5月のアメリカからの輸入量は前年の約4倍に拡大する見込みとされる。ホルムズ海峡の事実上の封鎖後に調達された米国産原油は、4月26日に初めて日本へ到着した。

ただし、原油は産地を変えればそのまま置き換えられるものではない。原油には、粘りけが少ない軽質油と、粘りけが強い重質油がある。アメリカ産には軽質油が多く、中東産に多い重質油とは性質が異なる。

製油所は、処理する原油の性質を前提に設備や運用を組んでいる。調達先を変えるだけでは、従来と同じ製品構成を安定して作れるとは限らない。経済産業省が軽質油と重質油をブレンドして対応すると説明しているのは、この性質の違いを調整する必要があるためだ。

原油があっても製品が届かなければ足りない

原油の総量を確保できても、それだけで供給不安が解消するわけではない。原油は精製を経て、ガソリン、軽油、灯油、航空燃料、ナフサ、重油などに分かれる。さらにナフサは、プラスチック、包装材、医療用品、化学繊維などの原料になる。

つまり、原油の確保から最終製品の供給までには、精製、輸送、在庫、配送、地域ごとの需要という複数の段階がある。どこか一つで滞りが起きれば、原油の在庫があっても現場では不足感が生じる。

政府が設置した相談窓口には、4月27日午前までに安定供給への懸念を中心に約1800件の相談が寄せられた。医療物資や燃料をめぐる流通の偏り、目詰まりが課題として残っている。政府は一部で目詰まりが解消したケースもあるとしているが、今後は相談内容に応じた細かな対応が問われる。

LNGと電力への影響は限定的とされる

電力・ガスの原料となるLNGについては、現時点では原油ほど切迫した状況とはされていない。素材情報では、国内の電力・ガス会社が保有するLNG在庫は2026年3月時点で400万トン弱とされ、ホルムズ海峡経由のLNG輸入量のおよそ1年分に相当するという。

日本最大の火力発電燃料調達会社であるJERAも、7月まで十分な量を確保していると説明している。一方で、JERAの日本向けLNGの一部はホルムズ海峡を経由している。情勢が長期化すれば、原油だけでなく燃料全体の調達戦略にも見直し圧力がかかる可能性がある。

この点でも、短期的な在庫の有無と、中長期の供給網の安定性は分けて見る必要がある。

焦点は「総量」から「製品別・地域別の供給」へ

政府の基本姿勢は、ただちに石油がなくなる状況ではないというものだ。Reuters報道によると、日本の政府保有原油備蓄は2025年末時点で約2億6000万バレル、輸入量の146日分に相当するとされる。IEAが加盟国に求める90日分の備蓄基準も上回る。

しかし、備蓄があることと、必要な石油製品が必要な場所へ届くことは同じではない。今回の供給不安で浮かんだのは、原油の量だけでなく、精製能力、製品構成、地域配送、医療・物流などの優先度をどう調整するかという問題だ。

今後の焦点は、代替調達と備蓄放出で総量を支える段階から、製品別・地域別に供給の目詰まりを減らす段階へ移る。政府が約1800件の相談にどう対応し、どの分野の不足感を先に解消するかが問われる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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